第18話 日比谷
「今度はおまえが俺たちを助ける番だ!」
2015年3月6日の早朝、テレパシーで堀江さんに起こされた。
「東京中に戒厳令が敷かれてるのによく寝ていられるよな」
「誰もお前のファッションとか興味ないから」
「キミんチのアパート、オシッコ臭いでしょ」
いつも通りアメリカンイーグルのジーンズとジャケットをはおり、新小岩のアパートを出た。アパートから程ないところに普段なら見かけないタクシーが止まっていた。タクシーに乗り込んで、
「六本木のサクセスワイズまで」と言うと、タクシーは走り出した。朝の東京は本当に戒厳令を敷いたかのように静かで空いていた。
タクシーはなぜか皇居の周り、日比谷公園辺りまで来たが、丸の内署が気になって途中で降りた。
「おいおい、どこへ行くんだよ」堀江さん。
「何やってんだよ、こんなとこ村田でも歩いて来れるぞ」
「修学旅行に遅れてきて遅刻してないって言い張るタイプだ」
そう言われても、どこに行ったらいいのか分からない。
「つまり我々はテロリストとして警視庁に指名手配されている」伊東先生。
近くに桜田門の警視庁が見える。指名手配写真が映る。白ドレスにあご引き上目線アヒルグチの美夏ちゃん。こんなテロリストいるか!
「明らかにこの男が足を引っ張るであろう。伊東乾の裁判戦術を覚えられず、拘置所でも皆と交わることもできない」伊東先生。
「村田さんは?」
「女子刑務所は別だ」
「俺たちは別にいいんだけど村田がどうしてもって言うからさ」
「色白。ちょっとカッコ良かった(笑)。でもいいわ、ロンドンで似たようなのを探せばいいんだもの」と村田さん。
豪志は日比谷の街を彷徨いはじめた。日比谷は日本の金融街で銀行や証券会社が多くあった。ニューヨークのウォール街やロンドンのシティのようなところだそうだ。企業の建物に入り、伊東先生たちを探すが見つからない。いたたまれなくなって、地下鉄日比谷駅に入った。日比谷駅とペニンシュラホテルは繋がっている。ペニンシュラホテルに入るが探し方が分からない。逆ギレし、地下鉄日比谷線で帰ることにした。
パリのメトロに例えてテレパシーで津田大介のジャムザワールドが始まる。津田さんがデリダ、豪志がサルトル、哲学者が反政府レジスタンスを敷く。
「六本木から福島へ。津田大介のジャムザワールド」
「今日、俺は美夏にフラれたんだ。たまにはこんな夜もある」
「いま世界的に右派ポピュリズムが台頭している。日本の安倍政権も例外ではない。お前は現代をどう見る?」
「グローバル化が進展する中で、自分が何者か分からなくなった人たちが、自分は「日本人である」とか「白人である」とか、そういった分かりやすいアイデンティティーにしがみつくようになっていく」
「リベラルはどうすればいいんだろう?」
「正しい側の席に座って正しいことを言うだけでは何も解決しない。左派はカネの話をしなければ」
秋葉原駅で乗り換えて山手線で上野駅へ出る。常磐線に乗り換えて松戸へ向かう。
「豪志はFM松戸でラジオDJをしながら、胆力ある若者を育てます。「飯を奢ってちょうだいな」昼ご飯をご馳走してもらう代わりに豪志が若者の人生相談に乗るという番組」
「長島カズキ君、21才、看護助手だね。まずは靴と時計は良いモノを買いなさい。
彼女はいるの?若いうちは女に食わせてもらってもいい。ただ、いずれは仕事で成功して嫁や子供を養ってやるんだ。
キミは法政大学理工学部に行きなさい。あそこなら左巻健男先生を紹介してあげられるから。そして、法政大学の大学院まで出てドクター(博士号)を取りなさい。
就職は千葉県庁、千葉新聞、千葉テレビ、千葉銀行。どこでも選べる。そして40才で松戸市議になって、50才で松戸市長、60才で千葉県知事になる。人生って楽しいだろ?」
電車が松戸駅に差し掛かったとき、ひとりの若者が豪志の向かいの席でスマホを見ながら涙を流して感激している。
北松戸駅で降りて実家のマンションへ向かう。6階なのだが実家の部屋がなくなってる。諦めて近くにある姉のマンションへ歩いて向かう。
「松戸のライブハウスでトム・ヨークとノエル・ギャラガーを招いてシークレットライブをやる。告知はネットと地元ラジオ、地元新聞のみ」
「俺は要らないと言ってるのに美夏が毎月100万円の小遣いをくれるんだ」
姉のマンションもなくなっている。
「東京で成功した豪志はこの町にイヤミを言いに来たんだよ。父親と大喧嘩して出て行ったのをこの町のせいだと思ってる」
スーパーで水を買ってもう一度北松戸駅へ向かう。
「豪志は千葉から自民党を追い出してリベラル帝国を築こうとしている。保守派は死に物狂いで反撃してくる」
北松戸駅前のビジネスホテルに入った。部屋を取る。窓の外に北松戸駅のホームが見える。高校生カップルが立っていた。女の子の方が、
「最初から全部分かってるなんて」と怒っている。
ホテルの他の部屋は中国とロシアの観光客でいっぱいだった。豪志は右翼からの電磁波攻撃を受けた。腹や背中が痛い。オウム真理教がテロに使っていたのと同じモノらしい。焦げ臭いにおいもする。たまらず、ホテルを出て駅前でタクシーを拾う。
「松戸駅まで」
とりあえず、電車は危ない気がした。松戸駅へ向かう途中で運転手が右翼だと気付いてタクシーを降りた。歩いて松戸駅に向かう。ビルの屋上の電波塔から電磁波攻撃を受ける。
「せまい町だから」通りがかりの女性が言う。
松戸駅へ向かう途中、昔なじみの料理屋や鍼灸院が右翼の攻撃を受けてるのを見た。電車は危険だ。駅前でタクシーに乗る。
「東京駅まで」
「分かった?豪志。政治を敵に回すといくらおカネがあっても足りないのよ」テレパシーで美夏ちゃんが現れる。
タクシーは三郷を通って都内へ入る。政治結社、自衛隊の駐屯地、暴力団。タクシーのカーナビに右翼の建物が映る。足立区から墨田区に入り、スカイツリーを通る。ビルの電波塔が果てしなく続いていた。大型トラックがタクシーを踏み潰さんばかりに迫ってくる。右翼の青年が道端で検問をしていた。
「スナイパー通り。KKKがお前を狙ってるぞ」
右翼の持つ銃の照準がタクシーの運転手さんの額に合わせられる。運転手さんがしきりに舌打ちをする。
「家族は嫁がひとりに娘がふたり」
神田駅を通ると右翼が大量に張っていた。東京駅の丸の内側に着くと、迷彩服を着た数十人の右翼がタムロしていた。
「ヤバいな」豪志はタクシーを乗り換え、日比谷に向かう。日比谷で降りるとヘッジファンド、「ピムコ」の前でひと休みした。ピムコからも怪しい気配を感じる。
「ここも右翼か」豪志は水とタオルを捨てて逃げだした。あちこちに右翼の結界が張られてる。逃げるように地下鉄有楽町駅へ入った。まだ午後7時前だというのに有楽町線はすべて運休となっている。
「ここまでか」豪志は自動販売機で水を買って飲んだ。このまま夜を迎えれば右翼と格闘戦になる。それに勝って朝になれば村田さんたちに合流できるかもしれない。
「村田さんが待ってるよ。カード」ボソッと通りがかりの女性が言った。
三菱UFJのデビットカードがジャケットの胸のポケットに入っていた。よく見ると、遠くに東京国際フォーラムの入り口が見える。
東京国際フォーラム、ホールAに入りドリンクバーに入った。オレンジジュースを注文する。レシートに美夏ちゃんからの反応があった。今度はカルピスを頼む。同じホールAから2度は使えないらしい。ホールCに向かう。カードの残金は300円。ファンシーショップに入る。鉛筆が150円。レジの若い女の子に突き立てる。店を出てすぐのアップルストアのモニターに映る。
「何!?今の!」
「でもスッゴク深い意味かも」
「でもゴキ君がそんなことを考えてるわけないので、いつもの場所に来てください。ここら辺↓」
モニターに地図が出る。丸の内署の裏。豪志は走り出した。丸の内署の地下道はペニンシュラホテルと繋がっている。地下への階段があり少し降りる。
「も、もういいです。本物はそこから動かないでください。」
「ゴキ君は最後までゴキ君でした!」美夏ちゃん。
「コイツ、分かりやすっ!ひとりだけ全然違うもん!」堀江さん。
「頭悪かったのかな、頭悪かったのかな」伊東先生登場。
「ナニナニ。伊東先生とのやり取りを見て興味を持っていただけたのかと。何で伊東の次が村田なんだよ!そんなわけねーだろ(笑)!」堀江さん。
美夏は豪志のペニスを握るとお尻の穴に指を入れてきた。
「やけに積極的なヒトだな、さすがウルフだ」と思ったのだが、何のことはない、美夏はそれをSEXだと思っていたのだ。
のちに分かったことだが、美夏は19才のときに六本木でナンパされたヤクザのトモユキさんと20年付き合っていたが、トモユキさんはホモで女とSEXはできない。美夏がお尻の穴を刺激してやって、ようやく射精できるのだ。つまり女王村田美夏はSEXをしたことがない。48才の現在でも処女である。これは豪志しか知らない秘密だ。
地下道の扉が開き、鈴木柚里絵ちゃんが階段を上がってきて豪志の前を通り過ぎていく。
「ユリエリータにちょっと反応した(笑)」堀江さん。
佐藤茜ちゃんら東大女子、永濱利廣さん、木ノ内栄二さんら金融界の大物、北条かやちゃんら芸能人。次々と豪志の前を通り過ぎていく。
「アレはこっちの人とこっちの人を分けたの?」伊東先生が訊いてくる。豪志がfacebookに公開した人脈名簿。恐らく、伊東先生が言ってるのは、リベラルと保守、文系と理系、東大と非東大。伊東先生は豪志と出会ったときに東大のビッグデータをネット上に公開してしまった。
「そうなんですよ。弱っちゃって」東大の他の教授たちから責められてるらしい。豪志と東大生たちで大激論が始まる。
フッとテレパシーの電源が切れる。堀江さんがしびれを切らしてスマホの電源を切ったらしい。真っ暗闇の中、丸の内署の裏でたたずむ豪志。午後9時を回ったところ。
階段を上がってペニンシュラホテルの横をすり抜けて、有楽町駅へ向かう。ピムコの横でまた右翼の人影が。
「ゴキ、そっちは危ないって」
再びテレパシーの電源が点く。金融街を抜けて有楽町駅へ。山手線に乗って家へ帰ろうとする。将校服を着た20人くらいの右翼の青年が山手線内に入ってきて豪志を取り囲む。先頭の青年は震えている。
「全く新しい歴史を作る、B'Z」宙吊り広告が見える。
そういえばB'Zはtwitterに貼らなかった。歴史は新しくもなければ、作るもんでもないと。右翼に襲われ豪志はそのまま気を失ってしまった。
目が覚めたら大崎の駅のホームだった。終電も逃してしまい、仕方なく駅前に出る。大崎の駅周辺には右翼が結界を張っていて、動くに動けなかった。タクシーを拾おうとしたがタクシーのフロントガラスには伊東元重の顔が。
「日本の秩序を乱した罪」
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