第6話 村田美夏とのデート

 伊東先生も、

「こういう人は考えてないようでいて、心のどこかで考え続けているんですよ」という。

 村田美夏さんにDMを送った。村田美夏さんは東大経済学部首席卒業で、国連女性人権団体理事長、経済財政諮問会議などの日本政府の有識者会議のメンバー。そして、金融トレーダーとして「年2億稼ぐウルフ村田」としてメディアなどで売り出し中の45歳であった。


DMの内容は、日大時代の友達、タカノ君が西早稲田で経営するベトナム料理店「べトバル」で一緒に食事をしませんかというもの。

「素敵なお店ですね」と言って快諾してくれた。2015年2月1日、べトバルで村田美夏さんと待ち合わせをした。豪志が早めに店に行くとタカノ君が現れ、

「今日はどなたと?」

「村田さん」

「誰です?」

「村田美夏さん」タカノ君は驚いたあと、

「来ますかねえ・・・」とつぶやいた。

「来なかったら俺一人で食べて帰るよ。村田さんってどんなヒト?小柄とか」

「変な人です」

 豪志は村田美夏さんがテレビや雑誌に出ているのは知っていたが、どんなヒトなのかロクに調べもせずに来ていた。

 午後6時を回った頃村田さんはタクシーで現れた。

「遅くなりました!」白のミニスカワンピースで席に着くなり、

「今日は三田の慶応キャンパスで学生の金融コンペティションのパネリストをしてきました。このコとこのコに将来性を感じます」資料を見せる。

 別の資料を出してきて、

「日本のジェンダーギャップ指数は世界104位なんですよ」と言う。豪志は、

「先進国と欧米諸国で50か国ぐらい。残りの50か国、イスラムやアフリカ諸国でも日本より女性が虐げられてるということですか?」

「それは・・・。私は専門家ではないので・・・」

村田さんは続ける。

「最近、アベノミクスの効果でインフレが進んでますよね。モノの値段が上がってるのを感じます」

「でも円安が相当進んでますから、ドル建てだと思いっきりデフレですよね」再び驚く村田さん。

「株価も上がってますよね。私も随分稼がせてもらってます」

「政府は年金のカネを遣い込んで市場介入で株価を押し上げていますよね」

「私、GPIFの政府有識者会議のメンバーです」

「国連の女性人権団体の代表でもあります」

 村田美夏さんは食事には手を付けずハイボールばかり飲んでいた。

 村田美夏さんというのはモノスゴく早口でしゃべるのだが滑舌がいいから、全部聞き取れる。

 豪志はヒデオさんから借りたスラッシャーのジーンズ、アメリカンイーグルのブラウンのジャケット、ワインレッドの眼鏡と茶の革靴でキメていた。

「要件は何ですか?」村田さんは切り出した。

「ここにロックミュージシャンからもらったニルヴァーナとガンズアンドローゼスのブートがあります。音源が出回ってなければ相当な価値があるはずです」

「そ、そんなの1億くらい・・」

「実は本当の要件はいま精神病院に閉じ込められてしまって、父が病院の顧問弁護士をしてるのですが、高齢でボケてしまったらしく、「絶対出さない」と言っています」

「父の事務所に一緒に行っていただけませんか」

「私は仕事があるので・・・」

「では弁護士を紹介します。米川耕一先生といって東大卒の良い先生ですよ」

 結局、米川弁護士を紹介してもらいfacebookを交換してその日は別れた。

「全能感」村田美夏さんはfacebookでそう言っていた。

「最近の若いのもなかなかやるもんや」とも書いていた。

 翌日、新橋の米川総合法律事務所を訪ねた。米川先生は留守で代わりに河西(かさい)先生という若い弁護士が対応してくれた。豪志は事情を話し、米川事務所をあとにした。

 葛飾区立図書館に寄った帰り、金町の駅前で

「あー!奇跡のヒトだ!」と通りがかりの女の子に言われた。豪志が立ち食いソバ屋に入ると、10人ほどの人たちが走って店に入ってきた。

豪志は、「絶対テレビだろ」と思ったのだが淳子先生はそんな話は聴いたことがないという。

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