第2話 群馬県原病院

 それに、原病院には元東大医学部助教授で日本でも10本の指に入る精神科医、中安信夫先生がいた。中安先生は原病院で東大の若手研究者を呼び、面白い研究をしているという話だった。ネットにはソクラテスと書き、ソクラテスと話し事件の本質を見抜いてもらうと書いた。2014年11月のことだった。

 原病院に着くと診察室に通され、50歳くらいの女性の先生がいた。理事長の原富男先生は80歳近いと聞いていたので拍子抜けした。

「奥さまですか?」

「娘です」原淳子先生と言った。豪志はいきさつを説明した。

「では、入院していってください。先ほど、泊まる準備はしてきたと仰っていましたよね」診察室にはゴツイ男の看護師が数人入ってきた。

「くだらねえー。一言いうならね、僕が先生にクスリ飲ませたいですよ!」

 そのまま、病院の奥にある第1病棟まで案内された。厳重に鍵を閉められ中に入る。社会福祉士の女の子ヒラカタと看護師のコヤマ君、カメイ君らがいた。ベルトを取り上げられ、コヤマ君に身体検査をされる。名刺入れまで開けられ、風俗の名刺が大量に出てきた。

「お付き合いですか?(笑)」コヤマ君。

「いや、趣味(笑)」隔離室に案内されたが、ベッドとポータブルトイレと監視カメラだけ。

「公開オナニーって人類の極刑のひとつなんだけど」とヒラカタに話しかける。

「キミ、あの中で耐えられる?キミが1週間過ごせたら俺も入ってもいいよ」黙って首をふるヒラカタ。

 ヒラカタはよく見ると本田翼似の、ものすごくキレイな女の子だった。淳子先生も現れ、「精神保健指定医です」と免許を見せて言う。ただ、

「隔離室がイヤなら入らなくてもいいわよ。養生室に入れて」と言った。1病棟は必ず隔離室から始まる決まりらしい。それが免除されたのだ。泊まるつもりで荷物を持って来ていたのだが、映画のDVDもあった。

パッケージをヒラカタや淳子先生に見せる。

「ラストタンゴインパリ。マーロン・ブランドーがだいぶ爺さんになってから撮った映画なんだが、当時としてはショッキングなラストでイタリアでは上映禁止にされる映画館もあったんだ」

「当時だって」淳ちゃん。ヒラカタも興味を示す。夕食が運ばれてくる。豪志の分がない。配膳車から余った食事をとりだす。

「探せば見つかります。少しの工夫ね」

「根岸さんのために用意したわけじゃないですから」ムクれる夜勤の看護師のサトウ。淳子先生はクスリは今まで通りで良いと言った。ロヒプノールとデパスとロゼレム。これで問題なく眠れていた。

 その夜、アヤという患者の女の子が話しかけてきた。

「アナタのことが好きかもしれない」

「そう?ありがとう(笑)」翌日、淳子先生と入院中のルールを決めた。平日は午前午後1時間ずつ院内を散歩しながらスマホの使用が許可され、土日は新小岩の自宅アパートへの外泊が許された。

 病棟では患者のカオリという可愛いコと親しくなり、カオリが言うには、

「参っちゃうよねえ」

「私、合コンに呼ばれても男の子がみんな私のところに集まっちゃうから女友達に嫌われるんだよね」カオリは佐野日大から音大を出て広島大の経済学部の教授の旦那がいるという。ウッチーという28才の女の子もいた。

「40才っていいですよね」と言っていた。その他にもナンパをしまくり、看護師のオノちゃん、ハギワラ1号2号などを引っ掛けていった。とにかく、女の子がたくさんいてナンパし放題だった。淳ちゃんも勝負のカワイイ髪型に換えてきて完全に豪志に惚れていた。淳ちゃんのパソコンから病院中の医師たちにメールを送った。

「すべての医師からの診察をお待ちしております。私はフリーでいつでも空いております」一斉送信と。

「中安先生に会ってみる?」淳ちゃんが言ってくれた。

「是非」いよいよソクラテスの登場。次の日、ソクラテスが現れた。

「以前会ったときはもっとボケてたよね」一度会っただけの豪志のことを覚えていた。診察が始まった。

「妄想の可能性も現実の可能性もあります」豪志は唯物論にこだわっている。

「うん、それで」一発で飲み込むソクラテス。豪志は祝一での出来事を説明した。淳ちゃん、ヒラカタ、担当看護師のタカハタさんも同席した。

「このパソコンにネットでの記録が入っています」ソクラテスはパソコンを受け取らず帰って行った。

 次に東北大卒の清水先生が診察に来てくれた。

「妄想だと思います」開口一番清水先生は言った。豪志は哲学的に説明する。

「え?」と驚く清水先生。

「次のお医者さんをお願いします」豪志は席を立った。

 翌日、再びソクラテスが来て、

「妄想の可能性が、次は確信に変わるかもしれない」

「そんなに私を信用してくださるならクスリをのんでくださいませんか」と仰る。

 豪志は拍子抜けしたがクスリはのみたくなかった。クスリは完全にやめるつもりだった。ネット掲示板への書き込みは原病院でも週末の新小岩の自宅でも続けていた。原病院内でも何人も職員が見ているようで、書き込みが荒れてきていた。

「これ以上匿名で続けるのは危険だ。twitterに移行する」昔、株をするのに少し使っていたアカウント2つでtwitterの書き込みを始めた。元々フォローしていた堀江貴文さんに、経済雑誌で見かけた村田美夏さんを加え書き込んでいった。

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