第2話

 目を剥いて叫ぶエドモンド殿下と、ウルウルと涙を目に溜めて詰め寄ってくる桃色髪の少女。

 ああ、ひょっとしてこちら奇妙な頭の女性がアリッサさんなのでしょうか。


「あら、あなたがアリッサさんなのね。はじめまして」


「は、はじめまして……じゃあないですよ! マリアンヌさんのせいで私はヒドイ恥をかいたんですからね! みんなが見ている前で吐いちゃったんですよ!? どうしてあんなことをしたんですか!?」


「どうしてと言われても……私には心当たりはないわねえ。どなたかと間違えているのではないかしら?」


 あら、背後から殺気がするわね。

 振り返ると、後ろでメイドのテレサがメラメラと殺意の炎を燃やしています。


(ダメよ、テレサ。エドモンド殿下とその御友人を殺したりしたら)


(しかし、お嬢様……勝手に屋敷にやって来てこの狼藉。埋めてなかったことにしてもよろしいのでは?)


(ダメよう。一応は王家の方なのだから我慢しなさい)


(ムウ……後生でございます……)


 アイコンタクトで窘めると、テレサは渋々といったふうに殺意を収める。


「しらばっくれるな! お前以外の誰がそんなことをすると言うのだ!?」


「誰がと言われましても……そちらのアリッサさん?……を恨んでいるどなたかではないでしょうか?」


「そんな馬鹿なことがあるものか! 純粋で優しいアリッサを殺したいほど恨む人間がいるわけがない…………お前を除いてな!」


「はあ? そうなのですか」


 逆に、私がどうしてアリッサさんのことを恨んでいると思っているのかしら?

 ひょっとして……5年前に亡くなった犬のペスをアリッサさんが殺したとでも言うのでしょうか。


「エドモンド殿下、確かにペスが死んだことは悲しかったですけど……だからといって復讐などはいたしませんわ。私も理性ある大人です。たとえアリッサさんがペスを殺したとしても、然るべき手段で訴えて法の下に裁きを受けていただきます」


「誰だペスって!? 僕はそんな話はしていない!」


「あら、違うのですか? でしたら、どうして私がアリッサさんに毒を盛らなくてはいけないのでしょう。動機がありませんわ」


 訊ねると、エドモンド殿下はグイッとアリッサさんの肩を抱き寄せました。


「決まっている! 僕とアリッサが真実の愛で結ばれているからだ!」


 エドモンド殿下は堂々と、少しも恥じ入ることなく自分の不貞を告白した。


「……………………はあ、そうなのですか?」


「そして、お前は愛する婚約者が奪われたことに腹を立て、アリッサを亡き者にしようと毒を盛ったのだ! どうだ、反論できるのならば言ってみろ!」


「…………」


 反論できません。

 だって、エドモンド殿下が何を言っているのかわからないのですから。

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