第3話


「クレハも知っての通り、我が国では魔石の産出が一番の事業となっている。もはや依存している、と言っても過言ではないだろう」


 ヴァジニ王国に到着し、十分に休みを貰った。

 体調も万全となった私はさっそく、この国について学んでいた。

 それもヴォールク王子が直々に教えてくれるとあって、至れり尽くせりの待遇を受けさせてもらっている。


 彼は私のことをちゃんと女性として、紳士的に扱ってくれた。

 ちょっとだけ奴隷みたいな扱いになるのかな、なんて心配もしたんだけれど、全然そんなことはなかった。


「だが、この魔石は人体に深刻な影響を与える。採掘に当たっている者を始め、輸出や加工を担当している者でさえ呪いのように症状が現れている」



 ヴァジニの人たちは私のことを見ても、黒いモヤモヤが出ることは無かった。

 その代わり彼らは病気を示す紫色に侵されてしまっていた。

 誰も彼もがつらそうで、見ていて心が痛む。


 通称、魔石病と呼ばれるこの病は人の理性を徐々に崩壊させ、最終的には凶暴な動物のようになってしまうらしい。

 これは魔石に触れることの多い人物ほど、この魔石病にかかりやすくなる。

 ヴォールク王子の言う通り、それは呪いに近いと思う。


「特に王族は太古の昔からこの魔石に触れてきたのでな。もはや直接触っていなくとも、生まれつき身体のどこかに何かしらの特徴が出てしまうんだ」


 王子は自分の頭頂部にある耳を両手でニギニギしながら、少し悲しそうな表情を浮かべた。


 なんでも彼の母親は、この魔石病で既に亡くなっているらしい。

 その母親も彼と同じく犬の耳が生えていたそうだが……もしかすると忘れ形見のように大事にしていて、だから誰にも触らせたくないのかもしれない。



「対策としては、とにかく魔石には触れないこと。……この魔石しかない国に呼んでしまって言うのもなんなのだが。それだけは約束して欲しい」

「……分かりました。お約束します」



 どうして彼は会ったばかりの私に、こんな気を遣ってくれているのだろう。

 久々に感じる優しさがちょっとこそばゆい。


 あんなに誰かと一緒に居るのがつらくて、怖くて仕方が無かったのに。

 もうずっと、笑うこともなく過ごしていたはずなのに。


 私の心はあの夜会で手を差し伸べてもらった時から、絶えず満たされ続けている。


 だから私は……



「私はヴォールク様を信じていますので」



 久しぶりだけど、ちゃんと上手くやれているかな?



「……その笑顔。必ず守る」



 良かった、できてたみたいだ。




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