第2話
ヴォールク王子の言う通り、私は生まれた時から視力が無かった。
だけどそれは半分正解で、半分は間違いだ。
「たしかに私は目が見えない……んだと思います」
「だが、クレハは普通に振る舞っていたよな。他の者もそれには気付いていない様子だった」
「はい。実は私……物が正確に見えない代わりに、色が見えるんです……」
人でも、動物でも、物であっても。
何かの色の
それが私の世界であり、すべて。
目の前のヴォールク王子が、どんな表情で私を見ているのかも分からない。
だからあの夜会でソル王子が私のことを「気味が悪い」と言った時、私は何も言えなくなってしまったのだ。
このことを知っていたのはお父様と、お母様だけ。
実はこの色を見る『
お母様は何となく感情の色が
「特に生き物の場合……どうやら感情によって色が変わるみたいなんです。怒りだったら赤だったり、悲しみだったら青だったり……」
「それでキミはあの夜会で……」
「私には、憎しみや妬みは殆ど黒に見えています。だから突然、暗闇の中に放り出されたかのようになってしまって……」
ただの暗闇ならまだしも、それが私に対する
色を頼りに生きている私にとって、それは恐怖以外の何物でもない。
「あの時、ヴォールク王子は私にとって唯一の光でした。あの光が無ければ私はもう、両目を潰して自害していたかもしれません」
「それほど……だったのか」
「王妃として相応しくなれるよう、本の文字を色で判別できるようになるまで、死ぬ気で頑張ったりもしたんですけどね……ふふっ、それも無駄だったみたいですけれど」
まぁあの場で死んでやればあの人たちに少しでも意趣返しできるかも、というタダの開き直りだったりもするんだけど。
今考えたらかなり無茶な発想だったな。
でも、それぐらいあの時は取り乱していたのだ。
「そうか……なら、なおさら我が国にとっては有り難い存在、なのかもしれないな」
「それはいったいどういう……?」
「あのソル王子が言っていた通り、我が国の民は魔石に侵されている。実際に俺の頭には犬のような耳が付いているんだ」
「犬の……お耳……」
「あまりそういう外見を気にしない、というか見なくても顔色を変えない人というのは貴重でな」
なんだろう、気にはしないけれど……ちょっと触ってみたい……。
「おい、やめておけ。クレハにどんな影響があるか分からないんだ」
「えっ、そうなんですか?」
「ヴァジニで長生きしたければ、なるべく魔石関連には近づかないでくれ。……今日は疲れただろう。詳しい説明は国に着いたら説明する」
そういってヴォールク王子は馬車の中にあった毛布を一枚私に渡すと、
気のせいか、彼の色が羞恥を示すピンク色になっていた気がしたけれど……。
「おやすみなさい、ヴォールク様」
一晩のうちに沢山の事があった。
身も心も疲れてしまっていた私は毛布を有り難く頂戴すると、彼の向かい側で目を閉じた。
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