第4話
「国王陛下の御入場である!」
入口に立っている侍従が大声で宣言する。
突然の婚約破棄にあっけにとられていた貴族らも、臣下の礼をとって入口に頭を下げる。
「皆の者、遅れて済まなかったな………む?」
従者を引き連れた王が会場へと足を踏み入れた。
国王エドワードは貴族らに順繰りに見やり、やがてその視線は床にうずくまったカトリーナと、別の女性と腕を組む息子へと向けられた。
どうやらリチャードは事前に王に相談せず、勝手に婚約破棄をしたようだ。王は怪訝な顔になって息子に問いかける。
「リチャードよ、これはなんの騒ぎだ? カトリーナはどうしたというのだ?」
「父上、これは……」
「国王陛下、聞いてくださいませ! 私、婚約破棄をされたんです!」
リチャードが言い訳の言葉を吐くよりも先に、カトリーナが言う。
「リチャードがそちらの女性と結婚するからと、私のことを捨てたんです! これで我が父と国王陛下が交わした契約は白紙になりました!」
「何だと!?」
エドワード王は愕然とした表情になる。
唇をワナワナと震わせて、慌てた様子でリチャードの肩を掴む。
「この馬鹿者! お前は何てことをしてくれたのだ!?」
「ち、父上!?」
「撤回しろ! 今すぐにカトリーナ嬢に謝罪をして、婚約破棄を撤回するのだ!」
かつてないほど興奮した父親の姿に、リチャードは大きく目を見開いた。
王は年を経てから生まれた息子に甘く、声を荒げて怒られたことなど1度としてなかった。
今回のことも許してくれると思っていたのだが……目の前の父親の剣幕を見るに、婚約破棄したことを許すつもりはなさそうである。
そんな親子の会話をよそに、カトリーナは立ち上がって上機嫌にクルリと回る。
「いけませんことよ、国王陛下! すでに契約は破棄されたのです! 撤回なんて許しません!」
「そ、そんな……どうか、どうかお許しを……!」
エドワード王は床に膝をついて、カトリーナの脚に追いすがる。
「父上、何をしているのですか!?」
フロスト王国において最高権力者であるはずの男が、1人の令嬢の脚に縋っている。あってはならない光景にリチャードは声を裏返らせた。
王の懇願を受けたカトリーナであったが、相変わらず嬉しそうな顔をしたまま願いを一蹴する。
「ダメです、許しません! これより契約の破棄を認めて、父上が貴方達に与えた物を回収させていただきます!」
「なっ……!」
「きゃあっ!」
瞬間、シャンデリアの明かりに照らされていた部屋が暗闇に落とされた。視界を閉ざされ、会場中から悲鳴が上がった。
すぐに光は戻ってきた。不気味な青白い炎があちこちに現れ……異形の怪物が会場中に出現したのである。
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