第3話

「残念だが証拠はすでに集めている! 目撃者も大勢いるのだ、言い逃れは不可能だぞ!」


 リチャードが右手を上げると、観衆の中から何人かの男女が前に出てきた。


「私、カトリーナ様がメアリーさんに水をかけるのを見ました!」


「私も! アクセサリーを盗むところを見てました!」


「俺は足を引っかけるのを見たぜ!」


「間違いない! 僕もその場にいた!」


 現れた男女は次々とありもしないはずの事実を述べていく。

 カトリーナは彼らの顔に見覚えがあった。いずれもリチャードが親しくしている者達である。


(ああ、そういうことですか……)


 この段階にきて、カトリーナも確信する。

 自分はリチャードに嵌められたのだ。リチャードは冤罪を被せて、カトリーナを陥れるつもりなのだ。


「どういうつもりかしら? リチャード、貴方はどうしてこんなことを……!」


「どうして、か……」


 リチャードはつまらなそうに鼻を鳴らす。


「カトリーナ……私は昔からお前が気に入らなかったのだ」


「え……?」


「死人のような青白い肌に、邪悪な黒い髪。おとぎ話に出てくる死神のようではないか! いくら父上の友人の娘だからといって、貴様のような不気味な女を妻にしなければいけない私の気持ちがわかるか!?」


「なっ……!」


「そのくせ、王妃教育の成績は優秀で語学も堪能。私よりも優秀であるなど生意気だ! 私にふさわしいのは貴様のような異形の女ではない! ここにいるメアリーのように愛らしく優しい娘こそふさわしいのだ!」


「そういうことなんですよー。婚約者に捨てられて可哀そうなカトリーナさん?」


 リチャードに抱き寄せられたメアリーが悪戯っぽく舌を出す。明らかに小馬鹿にした態度である。


「よくも私にこんな屈辱を……!」


「カトリーナ・ミクトラン! 貴様との婚姻を破棄させてもらう! 愚かで不気味な悪役令嬢め、さっさと国に帰るが良いわ!」


「っ……!」


 リチャードが言い放ち、カトリーナは稲妻に撃たれたような衝撃を受けた。

 激しい感情が身体の芯からこみ上げてくる。かつてない激情の噴出に、カトリーナは感情のままに声を上げた。


「あはっ……アハハハハハハハッ!」


 カトリーナは笑った。心底嬉しくて堪らないとばかりに声を出して笑う。

 会場中に狂ったような笑声が響く。それは喜色に満ちたものだったが、不思議と凍えるような恐怖を周囲の人間に抱かせる。


「か、カトリーナ……?」


 捨てられたはずの女性の笑顔に、リチャードも困惑の声を漏らす。


 何故だかわからない。わからないが……カトリーナの笑い声を聞いていると震えが止まらない。

 まるで取り返しのつかない過ちを起こしてしまったような不安がふつふつと湧いてきた。


 こみ上げてくる正体不明の恐怖のままに、座り込んだカトリーナの肩へと手を伸ばすが……そこで舞台に新たな役者が現れる。

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