第16話 二人の実力 前編


 無事(?)初対面を終えたオレたち第十四小隊はその翌日、早速討伐任務に向かった。

 とは言っても共闘ではなく、オレが二人の実力を見るためだ。



 事前にその旨を二人に伝えると、主に炎灯からの抗議の声が上がった。


「なんで、あんたに実力を見せなきゃいけないのよ!? しかも戦闘に参加しないとか、楽したいだけじゃないの!?」

「落ち着けって。……まぁ確かに、隊長には資料が渡されてるから、別にわざわざ見なくても分かってるとは思うんだけどな。どんな魂胆だ?」

「別に言葉以上の意味はない。オレは実際に見るまで信用しない性質たちなだけだ。それに資料ではわからないような能力や技能、癖などよく知っておかないと、作戦も立てられないからな」


 本音を言えば、資料と実物のイメージが違ったからということもあるのだが、それは飲み込む。


「だからって、なんであんたの言う通りにしなきゃ……!」

「報酬は全額二人で分けて渡すと言ってもか?」

「!」

「へぇ……?」


 二人はまだ未成年のため、討伐の報酬であるお金は隊長が全額からちょっと減らした額で渡される仕組みとなっている。

 それは原則としてあるのだが、差額など細かいことは隊長に任されているため、オレが差額をゼロにしようが問題はない。

 それに、今まで二人は周囲に馴染めていなかったため不当に引かれることも少なくはなかっただろう。

 それがないのだ、正直喉から手が出る程おいしい話のはずだ。


 ちなみに、引かれた額のお金は身寄りがなかったり等、様々な要因で百鬼夜行ひゃっきやぎょうに引き取られた子どもたちの教育費に使われる。

 最低限の費用は元からあるのだが、それが豪華になるかどうかの違いなので、ここは我慢してもらおう。


「オレが手を出さないんだ、それくらいは当然だ。まぁ、二人が嫌というならオレが討伐してもいいが、その場合最低限の額しか渡さないぞ」

「まぁ、悪くはないな。舞も、それなら良いんじゃないのか?」

「…………まぁ良いけど、それはそれでお金で釣られてるみたいで複雑……」

「……やるのか? やらないのか? どっちだ? これ以上ごねるならオレが――」

「わかった! わかったわよ! やればいいんでしょ?!」


 オレが判断を急がせると、やけくそのように決断する炎灯。

 ぶっちゃけ、オレはホッとした。これ以上に釣れそうなネタがなかったので。


「で? 討伐する相手は何なの?」

「脅威度Bの怪異だ。攻撃力は皆無と言っていいやつだが、A相当の霊能者でも相性が悪ければ討伐するのが難しいアレだ」

「あー……アレか」

「あ、アレね。……わかったわ。アレねアレ」


 薬王樹は通じたようだが、わかってないのを必死に隠しているな、炎灯のやつ。

 そんなに見栄を張りたいのか。よくわからん。

 まぁ、オレでさえ気づくのだ、薬王樹も気づいているだろう。後でこっそり教えてもらえるはずだ。


 オレは呆れながら、二人を連れて任務の地に赴いたのであった。




 そして現在。

 オレたちはその怪異の目撃情報があった場所に来ていた。


 場所はある住宅街の外れの、だだっ広い丘のような所。

 目撃されたのは早朝で、今は夜更け。まだ近くにいる可能性が高い。

 オレは霊力感知を発動し、周囲を探る。

 すると、少し離れた場所の林に反応があるのを確認した。


「いた。一時の方向、二百メートル先にアレがいる」


 オレはそう言うなり、手早く結界を張る。

 張ったのは人払い用の結界と、中にいるオレたちを隠す結界である。

 今回は住宅街が近いため、こういった結界が必須になる。

 そのため、これらの結界術が使えるのも隊長の条件の一つだ。

 ……別に、オレは隊長になりたいから習ったのではなく、自分でも使えたら便利だなと思い、覚えただけだったんだが。


 オレは問題なく結界が張れたことを確認すると、二人に忠告する。


「結界は張ったが、今回はかなり広めに設定してある。結界からは出られないが、かなりちょこまかと逃げるはずだ。それを捉えるのも、お前たちの仕事だ。また、オレはお前たちに付いてはいくが、一切手を出さない。いいな?」

了解りょーかいっ。じゃ、行きますか」

「…………」


 軽く返す薬王樹に、無言で返しもしない炎灯。

 オレはそんな二人の後ろに付き、怪異の元へと向かった。



 二人も怪異を感知できているらしく、林をかき分けながらも目的に一直線に進み、目の前にアレなる怪異が姿を現した。


 その怪異の名は、煙々羅えんえんら

 またの名を煙羅煙羅えんらえんらと言い、体が煙でできた怪異である。

 体が煙の怪異というのは珍しく、少なくとも日本の怪異ではこいつ以外、数千年の内でも数例しか確認されていない。

 それ故に有名であるのだが……その他に有名たる所以がある。


 それは、物理攻撃が殆ど効かない点だ。

 ただ殴る斬るじゃ全く意味をなさず、霊力を纏わせた物理攻撃もしくは魔術などの霊力そのものを当てないとダメージが通らない。

 しかも、本体に当てたとしても核に当たらなければ殆どダメージを受けない。

 さらに逃げるのも上手く、名の通り煙に巻くのも得意。

 熟練の霊能者でも手を焼く、厄介この上ない怪異だ。


 因みに、煙々羅の核は顔である。

 これの顔がなんとも微妙な顔で、いたちのようでもあり、猫のようでもあり、狸でもあるような、なんとも言えない顔をしている。

 この顔にクリーンヒットさせれば、討伐完了となる。


 そんな変な顔が、オレたちの方へと向く。


「ケケケケケケケ!!」


 すると、煙々羅はオレたちをすぐさま敵と見なしたのか、奇妙な声で威嚇してきた。

 その声が、二人の攻撃の合図となった。

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