第15話 最悪な出会いから始まる運命
あれから、二年の歳月が経った。
あの日以来オレはブレることなく力を振るって戦い、順調に功績を上げ、順調に嫌われていった。
そんなオレに初春、異動命令が出された。
まぁ異動命令なんか前までにもいくらでも出されていたので驚かなかったのだが、その内容だ。
それは、十五歳ばかりのオレが、隊長に任命されたのだ。
どうやら部隊のいくつかを再編成したらしく、その際第十四小隊の隊長の枠に空きが出たのだとか。
だが、オレはそうはならなかった。
別に隊長とかいいし。面倒くさそうだし。
そんな本音はあったが、それよりもオレの部下になる隊員二人、それが問題だった。
そしてオレは今日、件の問題である隊員のやつらを、十四小隊用屋敷の門の前で待っていた。
別に迎える必要はないのだが、こういうのはきっちりとやっておきたいのだ。人付き合いが苦手なオレが言うのもなんだが。
待ってから数分程度経った頃、数百メートル先に、男と女の二人がこちらに向かって歩いて来ているのがわかった。
隊長になる者には、事前に隊員のプロフィールなどの資料が渡される。それには当人の顔写真があるため、顔を見れば隊員かどうか直ぐに判別できる。
どうやら、隊員で間違いないようだ。どちらとも、写真と同じ特徴をしている。
そうやってオレが二人を見ていると、視線を感じたのか女と目が合った。
あちらにオレの目がちゃんと見えているかはわからないが、目が合った瞬間、そいつは眉を
……こんなに離れていても、もう嫌悪感を示されるのは初めてだな。
この二年半、そういう視線や態度を向けられるのはしょっちゅうだったため慣れてはいるが、さすがに傷つく。先が思いやられる……。
数分後、門の前……オレの目の前に到着した。
男の方は快活そうな表情はしているが雰囲気が飄々としており、遊び人のような印象を受ける。
対し、女は先程よりも表情がきつくなり、盛大にオレに対して嫌悪感を示している。まるで威嚇する犬のようだ。眉間に皺が寄っており、そのまま皺がついてしまいそうなくらいにオレを睨め付けている。
そんな二人に、オレは無表情のまま自己紹介する。とは言っても、オレのことは誰でも知っている。だから簡単な挨拶程度にした。
「はじめまして、オレが第十四小隊隊長になった物部 光だ。オレのことは大体わかっているだろうから説明を省く。お前らのことも書類で報告を受けているから挨拶程度だけで良い。何か言いたいことがあるなら言ってくれ、出来ることなら気をつける」
「お気遣い、どーも。俺は
薬王樹 陽。十七歳。異名、「拳聖」。
オレと二歳しか違わないながらも、並外れた身体能力と卓越した体術を駆使した戦闘からその異名が付いた。
その噂と写真からガチガチの武道者を想像してたが、目の前の男は全く違う。やはり会って自分の目で見るのが一番だな。
そしてもう一人。
先程オレを睨みつけ、さらに今もオレに威嚇中のこいつは――。
「………………私は
……めちゃくちゃためてから口を開いたな。オレと喋るのでさえそんなに嫌か。というかこれ喋るにも入らないだろ。
炎灯 舞。オレと同じ十五歳。異名、「炎鬼」。
名前の通り炎熱系の能力を持つのだが、遠距離だけでなく中、近距離の戦闘でも対応でき、かなりオールマイティな立ち回りができる稀有な存在である。
これだけならまだ異名が「炎姫」でも良い気がするのだが、怪異だけでなく異能者でさえ容赦なく燃やし尽くすその様から、「炎鬼」という仰々しい異名が付いた。
そんな彼女が、オレのことをさらに一層睨みつけ、口を開く。
「早速だけど、言いたいことは言わせて貰う」
「……どうぞ」
「私は、あんたのことが嫌い。だから、近づかないで」
「……そうか」
……なるほど、これは確かにじゃじゃ馬だな。
オレほど嫌われてはいないが、この二人はどちらもオレと同レベルと言って差し支えないほどのじゃじゃ馬。力はあるが、素直に言うことを聞かないことが多いからか周りに疎まれていたようで、オレの耳にも入っていた。
人と全く交流のないオレが知ってたんだ、これだけでどれほど有名か伝わることだろう。
ここで気づいたかもしれないが、そんな嫌われ者たちが同じ小隊になるのは偶然だろうか?
そんなこと、余程じゃない限り有り得ない。
お気づきの通り、嫌われ者同士で小隊ごとハブられたのだ。
……まぁハブられたこと自体はどうでもいいのだが、以前の小隊以上にやりにくそうだ。ここまで嫌悪感を示しているとなると、そうそう言うことは聞かないだろう。
しかし……彼女から向けられる感情には、嫌悪感とは別に違う感情が入っているような気がする。あまり向けられたことがない感情のためハッキリとはわからないが……これは、怒り…………?
しかし、オレは今までこいつに会ったことはない。なぜそのような感情を向けられるのかよくわからない。
そんなことを考えていると、薬王樹が手を上げる。
「あー、俺も一つ良いか? 俺も、お前のことは噂でしか知らない。だから、お前が信用に足るかどうか、噂に聞くだけじゃ全く信用出来ない。だからこいつが言ったように、極力俺たちには近づかないでくれ」
「わかった。なるべく近づかないと約束しよう。だが、報告書に目を通したり、少しは書いてもらうぞ。オレが書くだけでは不安だろうからな。あとは、戦闘は基本自由だが作戦はオレで決める。それで良いか?」
「ああ。それで良い。俺たちからは以上だ。もういいよな?勝手に入らせてもらうぜ」
「なら、部屋は、玄関からすぐ奥の二部屋を使え。オレの隊長部屋は玄関を右に曲がって奥だからそこが一番遠い。それでいいな? オレは本部に報告に行く。鍵は玄関の靴入れの上に置いた、勝手に取れ。……じゃ、オレは行くぞ」
そう言ってオレは背中から羽を出し飛び立った。
そんなオレを、彼女……炎灯は睨むように見ていた。
「何、あいつ。あの見下した物言い。本当にムカつく」
「まあ、そう言うな。かなり俺たちを気遣ってくれてるみたいだし、あれくらいの距離がやり易い。行くぞ、舞」
「うん……。それでも、私は、あいつが嫌い。あんなやつ……」
炎灯は再びオレを睨みつける。盛大に敵意を込めた目で。
「早く、いなくなれば良いのに」
これが、オレたち第十四小隊の、互いに第一印象最悪の出会いだった――。
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