第13話 視線


 オレが「神混じり」だとバレてから数ヶ月後、オレは一人で本部に訪れていた。時間潰しに書庫で書物を読みに来たからである。

 先生の許可はもらっているためオレは一直線で書庫へと向かう。

 その途中で、声が聞こえてくる。


「おい、あいつが例の……」

「あれが神混じりの『捕食者プレデター』……。推測脅威度A-の同胞殺しを喰った化け物だろ?」

「吸収したんじゃなかったか? どちらにせよ化け物だ。絶対近寄りたくねぇ……」

「バカおまえ、近寄ったら喰われるだろ! 関わっただけでもどうなるか……!」

「しっ! 聞こえるって!」


 最初から全部聞こえてるよ、と内心ツッコミながらもオレはそれを無視する。ひそひそ声の陰口なんか大抵本人に聞こえるというのに、どうしてそれがわからないのか。


 もうわかったかもしれないが、百鬼夜行ひゃっきやぎょうではオレの話で持ち切りだ。もちろん、悪い意味で。


 オレが「神混じり」とバレてからも、平隊長と諸頭さんと一緒に任務をこなした。

 ヴィムクティを倒した後の反応と違い終始変わらず接してくれたが、「神混じり」ということを隠していたことによる不信感と、「神混じり」に対する畏怖、そしてオレの能力に対する恐怖が見え隠れしており、オレはそれが苦痛だった。


 そのため、正式加入の条件である十件の依頼達成が終わると、オレは二人から距離を置いた。ずっとオレに気を使うのは疲れるだろうという判断だ。

 しかし、その態度が逆に、「条件を達成した途端にそうするということは、関わる必要性がなくなったからそうしたのか」と思われたらしく、それを周りに零したのか先程のように周りからは奇異の視線で見られるようになった。

 視線からはオレに対する恐怖、畏怖、嫌悪、妬み、嫉みがビシビシと感じられた。だが、最初はまだマシだった。確かに「神混じり」で強力な能力を発現したが、能力の詳細が突拍子がなく非現実的なものだったからか本気にしていない人が多かったからだ。


 しかし一ヶ月前のある日を境に、オレの状況は一変する。


 今から一ヶ月前、脅威度B+の怪異が現れたため複数の小隊で討伐隊が組まれた。オレにとっては初の大人数での戦闘であり、「神混じり」とバレてから初めて多くの人と関わる任務であった。バレてもバレていなくても大人数と関わること自体が初だったが。

 任務が始まった当初の、周りの人のオレに対する反応はそこまで悪くなかったのだが、初めてのことが多くオレも緊張していたのだろう。

 オレは能力を使って虚数空間を駆使し倒すことは出来たのだが、展開した虚数空間で他の小隊の人を傷つけてしまったのだ。

 そこまで大きな怪我ではなく、その場にいた治癒術が使える人で治すことは出来たのだが、オレが傷つけたという事実は消えない。


 対してオレも、恐怖した。

 便利で、素早く敵を倒すことに貢献できると思い、なんの気兼ねもなしに能力を使ってきた。しかしこの件があり、この能力は簡単に人を傷つけることができるということを、強く思い知らされたからだ。

 もしもうちょっとズレていたら、怪我した人は死んでいたかもしれない。そんな恐怖が、オレを支配した。


 周りの人もそう思ったらしく、オレはその人に謝ろうとしたが、他の人がオレを近づけようとしなかったため、できなかった。

 周りの人の視線が、オレに突き刺さった。ここまで痛く感じることがあるのかという程に。


 その日以来、オレに対する評価、偏見は厳しさを増した。オレに異名が付いたのもその頃だ。

 オレの異名は「捕食者プレデター」。能力名からそのまま付いた安直なものだが、虚数空間を使い跡形もなく全てを飲み込むその様は、正しく「捕食者」そのもの。


 あの一件以来、オレに近寄る者はいなくなった。オレが近寄ろうとしても、逃げるのが殆ど。

 あれから能力を完璧に扱えるよう毎日練習し精度を上げているため、あのような事は余程のことがない限り、起きないレベルになってはいる。

 しかし、周りにそれが分かるはずもない。だからオレのことを避けるのは当然だと思った。そう思われても仕方ないことをしたのだから。

 だからこうして今、陰口を叩かれてもそのままにしている。


 オレが書庫に来ているのも、今所属している隊員から嫌われており、長居すると消えろオーラが発せられるなど居心地が悪いからだ。

 まぁ書庫には歴史が書かれている書物だけでなく武道書など戦闘に役立つ書物もあるため、それを読めば自分の技術向上に繋がる利点もある。

 それを言い訳に、先生に書庫の本をいつでも閲覧できるようにしてもらったのだ。先生もオレの置かれている状況を知っているからか何も言わず許可を出してくれた。


 ……またそれが「特別扱いだ」とか色々やっかみを買う原因にもなっているのだが、こうやってなるべく人と関わらないようにすることしか、うまい方法が思いつかない。

 それに、周りの人がオレのことをどう言おうとも、オレは守るために戦うだけだ。それが、叔父さんとの約束だから。



 そうオレは決意した。しかし、それは強がりであったと言わざるを得ない。

 ずっと好奇の目に晒され、嫌われ、敬遠されることでオレの心は少しづつ、だが確実に蝕まれていった。

 そして半年が経つ頃には、オレの心はすさみきっていた――。

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