第9話 初任務とイレギュラー


 先日戦闘部隊に仮配属となったオレは、戦闘部隊第十五小隊に入ることとなった。

 隊長はたいら たつみさんで、隊員は諸頭もろと 紅葉かえでさんとオレだ。

 諸頭さんはオレと同じ異合者で、植物型の怪異が混じっている。平隊長は能力者で「物心サイコメトリー」という能力を持っているが、戦闘向きの能力ではないため基本使わない。しかし、能力無しでも隊長に任命されているところをみると、かなりできそうだ。


 配属された初日、オレを含む第十五小隊は早速任務を受け、現地へと向かった。

 任務の内容は、蝶型の怪異を討伐せよというものだ。

 その怪異は、撒き散らす鱗粉で人に幻覚を見せ道を迷わす、というだけの能力しか持たず知能もないため危険度は低いのだが、明らかに迷惑なので討伐命令が出されたのだ。



 現地に着き少し探索していると、そいつはすぐに現れた。

 意外とデカい。一メートル以上はありそうだ。そいつが羽を羽ばたかせる度に粉のようなものが散っているので、あいつで間違いないだろう。

 オレは平隊長へ合図を送ると、平隊長は頷いたため、オレは一人でその怪異の前に立った。


 この任務であるが、これがオレにとって初任務、言ってしまえば初陣であるということと、これからのコンビネーションのことを考えオレの力を知りたいということで、危なくない内は基本オレ一人が討伐することになったのだ。オレとしてはありがたい。オレの力を示すチャンスだ。

 オレは刀を抜き、構える。

 蝶型ということもあってか、動きが不規則で読みづらい。だが、相手にとって不足なし、だ。

 オレは数秒の間それを観察し……そして、狙ったところに来た。


「歪流剣術、裂閃陣れっせんじん


 オレは怪異から数メートルも離れた場所で刀を水平に振り抜く。すると刀から青白い刃のようなものが辺り一帯に繰り出され、それは難なく怪異を上下真っ二つに切り裂いた。

 斬られた怪異はポトリと地面に落ち、ボロボロと体が崩れていく。

 避けられる、または反撃されることも考え、振り抜いた後すぐに構え直したが、杞憂だったようだ。オレは集中を解き、息をつく。


 歪流剣術が、刀に霊力を流し込み、それを刃として発生させ繰り出す剣術ということは知っていると思う。しかしこの剣術、言うは易しというのを体現しているかのようなものなのだ。

 刀の形で繰り出される霊力の刃は、霊力を纏わないものであれば問答無用でありとあらゆるものを切り裂くという、とても素晴らしい剣術だが、その分難しい。

 なぜなら、霊力を出力オーバーで繰り出せば、繰り出した後は自分でも干渉できず止められないため、斬りたくないものまで斬ってしまう恐れがある。つまり、相手を斬ることが出来、かつ他を斬らないように、斬った後の刃は自然消滅するような量で出さなければならないのだ。

 オレは真似るのは得意だが、感覚や応用が苦手だ。オレはこの感覚を掴むのに二年以上もかかったのだ……。

 とりあえず問題なく倒せたオレはひとまず安心した。オレは刀を鞘に納める。


「うん、大丈夫そうだな。この程度じゃ肩慣らしにもならないか」


 そう言って、隊長はオレの後ろから声をかける。振り返ると、諸頭さんもその隣にいた。


「やっぱりあの最強の弟子だけあって、戦闘もかなりできそうね。一発だけでなく、きっちりと二撃目の準備もしてたし、これが初めての戦闘ってわけじゃないみたい」

「はい。師匠に連れられて何度か怪異と戦ったことがあります。といっても、そんなに強いやつとはやりあってないですけど……」

「いや、それだけでも十分だよ。戦闘経験があるのとなしじゃ、かなり差ができるからね。……見たところ中距離もできるようだけど、近距離もできるのかい?」

「はい。一応近距離の方が得意ですが、中距離も同じくらいには。やろうと思えば遠距離からでも当てれます」

「おぉ、それは良いね。だとすると、俺は苦無や忍者刀を使った近距離タイプで、諸頭は近~中距離タイプだから、ひとまず光には中、遠距離からの援護、という形をやってもらうことになるかな。それで良い?」

「はい、問題ないです」

「これは頼もしいね。……じゃあコンビネーションのことも多少だけだけど話せたし、ちゃっちゃと次の任務を受けようか。一日に受けれる制限とかはないし。君も、さっさと進みたいだろう?」

「はい、もちろんです!」

「良い返事だ。よし、手間だけどすぐ戻って再度任務を受けるとしよう」

 

 そうして次の任務を受けるために帰路につこうとしたそのとき、禍々しい霊力の個体が近づいて来ているのがわかった。


「平隊長、なんです? この霊力反応」

「わからない。だがかなり霊力量が多い。油断するな、二人とも」


 平隊長のその言葉が発せられるやいなや、三人とも臨戦態勢に入った。

 そして次の瞬間、何かの物体が、近くに落下した。



 砂埃をあげ姿を現したのは、明らかに人間ではなかった。

 二メートルはあろうかという屈強そうな筋肉質の肉体、背中にはコウモリに似た羽が生えており、額には二つの角がのびていた。


「……ッ! こいつ、悪鬼デーモン族か!!」


 悪鬼デーモン族。

 それは、鬼と吸血鬼の混血の個体が種族化した珍しい怪異で、滅多にない例である。

 額に角、背中には羽、そしてその巨躯な体という容姿から、悪鬼デーモン族と名付けられた。

 その悪鬼デーモン族は日本を中心に世界の至る所に集落を作り、細々と暮らしている。

 いや、正確には……暮らしていた。


「しかもこいつ、討伐手配書にあったヴィムクティ……"同胞殺し"じゃないか!!」


 日本にあるそれらの集落は、ほぼ全滅した。目の前にいる、ヴィムクティという集落の元戦士の手によって。

 彼は先祖返りにより吸血鬼の固有能力「能力吸収スキルドレイン」を発現した。そこまでは良かったのだが、その力に魅入られ、自惚れ、仲間を全て殺したのだ。

 そして彼はあらゆる能力を奪うため、全国を飛び回り暴れていた。


「小僧、貴様か? 美味そうな霊力の匂いを出しているのは。いきなりだが、貴様の霊力を戴くぞ」

「!!」


 気付けば、悪鬼は眼前まで迫っていた。図体に似合わずかなり速い。平隊長がすぐさまそれに反応し、応戦する。


「俺たちだけでは、こいつを相手にするのは無理だ! 応援は呼んだ、足止めすることだけ考えろ!」

「「了解!」」


 諸頭さんとオレも援護するため戦闘に加わる。



 平隊長が即、時間稼ぎという判断をとったのにはわけがある。オレたちだけで対処できる脅威度ではなかったからだ。


 怪異や異能者にはそれぞれに脅威度というランクがつけられる。

 高い順からS、A、B、C、D、Eに区分けされ、さらにその中でも弱い、普通、強いというようにマイナスと無印、プラスで評価される。

 例えばある怪異の脅威度がBに区分けされる場合、Bの中でも弱い部類であればB-、普通レベルならB、強ければB+といったようになる。つまり評価には合計十八段階あり、一番低いのはE-、一番高いのはS+となる。

 これは討伐任務にも同じ十八段階の評価が設定されており、基本怪異や異能者の脅威度と同じものとなっている。

 さらにオレたち霊能者にも同じ評価がなされており、オレは入ったばかりなのでランクはE-だ。諸頭さんはB-、平隊長はB+である。


 先程の蝶型の怪異はE+だったが、通常の悪鬼デーモン族の仮定脅威度がB-である以上、それらを全滅させたヴィムクティの脅威度は推定でもBを超える。最悪の場合Aに分類されるほど、脅威度が高い相手だ。

 この小隊で一番ランクの高い平隊長と同程度かそれ以上の相手のため、最低ランクのオレを抱えているこの小隊だけでは、とても太刀打ちできない。

 だからこそ、平隊長は足止めという手段を選んだ。死ぬ危険もあるため逃げも一つの手段だが、逃げている最中に一般人を巻き込まないと言いきれない。寧ろ、オレを狙っている以上目的がはっきりしているため、のらりくらりと相手していればなんとかなると判断したのだ。


 しかしオレは、そう思ってはいなかった。

 オレは、この非常事態がチャンスだと思ったのだ。

 オレは修行の間、ただ技の練習や霊力の扱い方だけをしていたわけではない。先程言ったように、師匠に連れられ、幾度も怪異相手に実戦をやらされたのだ。もちろん目の前にいるヴィムクティよりも強いやつと戦ったことはないが、それでも実戦経験のない新人とはわけが違う。ここで手柄を上げれば、すぐに認められると思ったのだ。



 しかしオレは、その考えが甘かったことを痛感することになる。

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