第8話 百鬼夜行配属


 今日オレは、百鬼夜行ひゃっきやぎょうの本部まで来ていた。

 師匠による修行がひとまず終わり任務に加わっても問題ないと判断されたので、オレもようや百鬼夜行ひゃっきやぎょうに配属されることが決まったのだ。



 ここで、少し百鬼夜行ひゃっきやぎょうの説明をしておこう。

 百鬼夜行ひゃっきやぎょうは、戦闘部隊、技術部隊、救護部隊、運送部隊、諜報部隊、炊事部隊の計六つの部隊で構成されている組織だ。


 戦闘部隊は文字通り、主に討伐任務をこなす人たちが所属している部隊。百鬼夜行ひゃっきやぎょうの、と言うよりは霊能者全体の花形と言えるだろう。

 技術部隊は任務をこなすよりも、武器や機器などを開発することを主にしている部隊。先生がここの部隊長をしている。

 救護部隊は任務で傷ついた人を治す部隊。初心者は怪我をしやすいのでお世話になる。

 運送部隊は主に、任務に向かう人を送ったり武器や兵器を運んだり、食糧を炊事部隊に届けたりとかなりの激務をこなす部隊。師匠がよくこき使う「移動屋」の人はここに所属している。

 諜報部隊は普段全国各所で怪異の出現や異能者の動向を監視している部隊。異能者集団に潜入することもある。


 異能者とは、霊能者と違い私利私欲のために行動している者たちを指し、怪異を利用したり能力を悪用する者のことを言う。"異"なる思想を持つ霊"能者"ということで、縮めて異能者と呼ばれている。また、それらが組織のような集団になったとき、まとめて異能者集団と言う。

 これらが看過できないような目立った行動を起こしたとき、排除、討伐するのもオレたち霊能者の仕事である。

 ……話を元に戻そう。


 最後の炊事部隊は、百鬼夜行ひゃっきやぎょう本部やその寮などで生活している人にご飯を作る部隊。主にお世話になる人は元帥たちやそのお付きの人、本部にいることの多い部隊長たちだ。

 それぞれの部隊に部隊長が一人ずつ存在し、それぞれ隊に所属し任務をこなしている。

 それらの頂点にいるのが、三人の元帥だ。

 因みに、戦闘部隊には約百にも及ぶ小隊が存在し、他の部隊は大体五十人に及ぶかどうかぐらいの人数がいる。炊事部隊はたったの十人だけだが。


 これだけ聞くとかなり人数が多いように聞こえるが、一小隊を構成するのはたったの三人なので六つ全ての隊を揃えても五百人を超える程度だ。

 また、三分の一が異合いごうしゃ、三分の一が能力持ち、他三分の一が普通の霊能者なので、ただの霊能者からすれば百鬼夜行ひゃっきやぎょうは化け物の巣窟である。

 その巣窟をまとめあげているのが、六人の部隊長と三人の元帥だ。


 因みに、師匠は別枠で、どの隊にも所属していない。

 あの性格で集団行動などできるはずもないというのもあるのだが、なにぶん実力が霊能者一なので特例として、ある程度の自由が許されているのだ。

 師匠はそれで空いた時間などを全て狂異を狩ることに費やしている。師匠は何も言わないが、これ以上自分のような被害者を増やさないように動いているのだ。見かけによらずかなり情が深い。自分勝手で不器用ではあるが。これを本人に言うと無表情で殴られるが、それが照れ隠しなのかはわからない。なにぶん無表情なので。



 そして今オレが来ている所は、百鬼夜行ひゃっきやぎょう本部・会議の間だ。

 そこに先生を除く五人の部隊長と一人の元帥が来ている。百鬼夜行ひゃっきやぎょうに配属する者が来たとき、どの部隊に配属するか本人とも話し合い、最終的に決めるのが元帥だからだ。

 なので会議には最低でも一人、元帥がいる必要がある。


 ……そんなことを考えている間に、前置きは終わったようだ。これから部隊長との話し合いが始まる。

 最初に口を開けたのは戦闘部隊の隊長で、それから次々と名乗り始めた。


「はじめまして! 俺は戦闘部隊隊長、功刃こうは 刃助じんすけだ! そして右から――」

「諜報部隊隊長、高風聞こうふうぶ 冥利みょうり

「救護部隊隊長、雲類鷲うるわし れいよ」

「運送部隊隊長、わだち みちるです……」

「炊事部隊隊長、八月一日ほづみ 真白ましろでーす。ちなみに、技術部隊隊長はもう君と面識があるみたいだし、君の意見を尊重する、とのことだから来てないよーん」


 各部隊長が名乗り終わり、残るは元帥の人だけ。

 見たところ若い。おそらくこの人が弱冠二十五歳で元帥になった――。


「そしてボクは元帥の一角を任されている、天宮城 真と言う。よろしく」


 若いが、それを感じさせないほどの雰囲気がある人だ。力量も……師匠に近いものを感じる。

 オレは深くお辞儀をして名を名乗った。


「オレは物部 光と言います。この度はどうぞ、お願い致します」


 すると天宮城元帥は、先程まで硬い表情をしていたが、顔をほころばせた。


「いいよ、そんな堅くならなくて。ボクたちは求道宗や浄明神道みたいに厳格な組織じゃないからさ、百鬼夜行ひゃっきやぎょうは。さ、早く君の所属部隊を決めてしまおう」


 天宮城元帥が手をパンっと叩くと、会議が始まった。思ったよりもフレンドリーな組織みたいだ。

 部隊長の全員が、オレに詰め寄ってくる。


「物部! お前、あのクロスの弟子だろ?! ならもちろん戦闘部隊だよな! 俺たちは大歓迎だ!」


 クロスとは師匠の呼び名である。何せ名前が「十字架」なので。師匠は元々戦闘部隊に所属していたので、おそらくその時に知り合った人なのだろう。

 ……師匠はこの人について一切何も言っていなかったので、本人の記憶から消えている人物だろうが。


「……勝手に決めるな。あの人の弟子だからってそうだとは限らない。もし諜報部隊に来るなら歓迎する。……そして功刃、お前はいちいち五月蝿い」

「いーえ、折角霊力が多いのだから、救護部隊が向いていると思うわ。霊力が多い人、私たちのなかにはあまりいないから是非、救護部隊に来て頂戴な」

「それ言ったら、私たち炊事部隊は十人しかいないのよ!? 今が新人を取り込むチャンス!! お願い、炊事部隊に来て!!」

「……僕の部隊は入らない方がいいです……。花形じゃないし、大変だし……。どうしても、って言うなら止めないし歓迎するけど……ほんと止めた方がいいよ……。何せ運送部隊はブラックだから……あはは……」


 部隊長は皆それぞれに、自分の意見をオレに言って来た。……なんか、飢えた動物みたいな目でオレを見ている。オレは少し圧倒されてしまった。

 というか最後の人、大丈夫か?  負のオーラが凄いんだが……。


「こらそこ、勝手に会議そっちのけで始めるな。まずは光の力についてだろう」


 天宮城元帥は再び手を叩いて部隊長たちを制止し、オレの方を向いた。


「先ず、光は異合者で、超能力者であってるね?」

「はい、そうです」

「だけど、能力を完全には発現させていないと?」

「えぇ、まだ無意識下で一回しか発動してません。修行の間でも発現しませんでした。明嵐先生によると、吸収系の能力ではないかと言ってましたが……」

「……ふむ、それでも能力は未知数、さらに――、か。なんとも言えないな……。しかもこの歳で前線に出すのはちょっと危険だな、異合者だとしても」


 この人はオレが「神混じり」と知っているが、部隊長はそれを知らないため芝居をうってくれている。

 今オレがそれだとバレてないことに疑問を感じる人もいるだろう。それはもちろん、霊力を完璧にコントロール出来るようになったからである。

 それまで垂れ流していた霊力の漏れを抑えるまでに成長し、さらに体の内にある霊力を圧縮するように小さくしているのだ。まぁそれでも、霊力の存在は隠すことは出来ないため、現在周りからは少し霊力の多いやつ、といった風に見られている。

 修行にはかなりの年数がかかったが、霊力を自在に扱えるようになって良かったと心底思う。

 だが天宮城元帥の言うように、オレが「神混じり」ということを伏せると、あまりアピールできるとこがないのが残念だ。


「いやいや、年齢のこと言うなら、春行のやつは二年も前からもう俺のところで活躍しているぞ?! こいつも問題ないのではないか?!」

「いや、そうもいかないでしょー。彼はもう能力を発現させて、さらに剣術で類希な才能を開花させていたから異例であって、この子はまだ未熟。まだ伸びしろがあるなら後ろで控えさせておくべきよ。ね、だからお願い、炊事に来て!」


 そう。

 ハルはもう一昨年から戦闘部隊の最前列で戦っていて、もう何十体もの怪異をほふっていると聞く。

 さらに、剣術をオレよりも早く完成させたどころか、能力「武創クリエイト」を使いこなしている。

 ハルは天才だ。あれには何年経っても追いつけない、とさえ思う。それほどの才を持っているからこそ、異例で齢九歳で戦闘部隊に配属されたのだ。


「……君の意見はどうなんだい……? こういう時は、ちゃんと言葉で言った方がいいよ、僕みたいになるから……」


 オレにそう助言した人は、フフっと自嘲するかのように虚ろな笑いを見せる。

 ……運送部隊の隊長、とことん暗い人だな。さっきブラックとかなんとか言っていたが、百鬼夜行ひゃっきやぎょうの福利厚生はどうなっているのだろうか。とりあえず、この人に休みをあげてほしい。

 その人から助言をもらい、オレが出した答え。やはりオレは――。


「――オレは、戦闘部隊が良いです」

「ぃよしっ!!!」 「「「ちっ」」」


 他の部隊長たちから舌打ちが聞こえたが、気にしないでおこう。というか、さっきの轍部隊長まで舌打ちしたのか。ちょっと申し訳ない気持ちになった。


「オレは確かに、ハル……春行ほどの才はありません。でも、修行の間、何回も師匠と同行し怪異と戦いました。実際の戦闘経験が無い人よりは動けると自負しています。だからどうか、戦闘部隊で任務に加わらせて下さい。お願いします」


 オレは頭を深く下げ、懇願する。

 オレはこれ以上、留まってはいられない。前に進むんだ。強くなるためにも。……叔父さんとの約束を守るためにも。

 オレのその様子を見て、天宮城元帥は頬を緩める。オレはそれが見えていないが、雰囲気でなんとなくそう感じた。


「……ふむ。その心意気を呑むとしよう。だが、やはり危険なのでは、と思う人もいるだろう。そこで、一旦戦闘部隊の小隊に配属し、そこで一緒に依頼をこなしてもらう。依頼達成が十件を越えたら、正式に加入だ。それなら君の力を示せるだろうし、皆も納得してくれるはずだ。どうかな?」

「なるほど……」


 十件か。それなら確かに、依頼達成がまぐれでも頼りっきりだったとも言わせないレベルだ。多すぎることもないので目標にしやすい。

 これをすぐに思いつく天宮城元帥すごいなと改めて感心する。


「はい。それで構いません。お願い、します」

「わかった。皆もそれでいいか?」

「「「はっ!」」」


 天宮城元帥の問いに、部隊長たちが一斉に口を揃える。

 これで、オレの戦闘部隊の仮配属が決定したのだった。


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