第2話 光と異合者
怪異。
怪異とは、怪しく人とは異なる者たちのことを言う。また、それらが引き起こす現象のことを指す場合もあるが、大体は幽霊や妖怪などの者たちのことを言う。
霊能者。
霊能者とは怪異を退治、封印する者たちのことを言い、常日頃から人に仇なす怪異を狩る仕事をしている。
超能力者。
霊能者たちの中でも
霊能者の中でも異質と言われる存在で、狩るべきと言える怪異を体に宿している者たちを指す。"異"なるものと"合"わさっているためこの呼び名がついた。大体が、合わさっている怪異の持つ固有の能力を持っている。怪異を宿しているため、大昔には狩られる対象であったこともある。現在は人間、霊能者として認められているが差別はなくなっておらず、霊能者からは嫌われている存在。
……以上が、移動中に説明されたことである。はっきり言って怪異を全く信じていなかったオレからすれば信じ難いことを捲し立てられた気分だが、目の前と自分の体であんなことが起きた以上、信じないわけにもいかない。
そして、オレは
曰く、「これから行くとこに詳しいやつがいるからそいつに聞け」だそうだ。説明責任を果たしやがれ。
そんなこんなでオレが連れて来られたのは、武家屋敷を何倍にもでかくしたかのような屋敷……もはや城とも呼べるような場所だった。
その屋敷を所有している組織の名は
この百鬼夜行という組織は霊能者の組織ではあるのだが、まさに名は体をあらわす、といったような所で、異合者を快く受け入れているところだ。
というか、この組織が設立された理由は、今以上に異合者が冷遇されていた頃、
ここにオレを連れて来たオッサン、
こんなに綺麗に治ったのに異常?とか思ったが、普通はオレの体が膨大な霊力に耐えきれていること自体がおかしいらしい。とりあえずオレは渋々ついて来ている。
そしててっきりこの屋敷に入ると思っていたオレだったが、オッサンは屋敷に入ることなかった。
「こっちだ」
向かった先にあったのは、屋敷の
オッサンとオレはその建物に入り、ある部屋の前まで案内されて中に入ると、若い男性が待っていた。
「やあ、僕の名前は
見たところ年齢は二十代後半で、少し癖がある茶髪、眼鏡をかけている。白衣を着ているのでいかにも医者っぽい。オレはとりあえず会釈する。
因みに、オッサンは部屋に入らずどっかに行ってしまった。アレも初対面のようなものだが、初対面のやつと一人で会わされるこっちの身にもなれ。
「それで、体はなんともないかい? 見たところ大丈夫そうだけど」
「いや、大丈夫って言ってるのに連れて来られたんだけど……」
「ははは、まあそう言わず、ちょっと調べさせてねー」
ベッドに座らせられ、採血のための注射をされる。医者って言ってるけど、こんな緩そうなオッサンで大丈夫かと少し不安になる。
二十代半ばでオッサン?と思う人もいるかもしれないが、十代にもなっていないオレからすれば二十代から五十代は全員オッサンだ。
採血が終わると、明嵐のオッサンは直ぐに検査の作業に入った。だが、検査には時間がかかり、一ヶ月はかかる。
昔のことはわからないが、文明が衰退した今、先進医療などというものは存在しない。他の分野もそうだ。
現代と呼ばれた時代から異常なまでに発展した技術は、ほんのひと握りしか残っていない。それ以外に失われた技術のことを、今では「
異常も無いのに一ヶ月も待たされるのかとかなりウンザリしたオレだったが、それは杞憂に終わる。作業の終わった明嵐のオッサンが、信じられないことを口にする。
「じゃああと一時間ぐらいで終わるから、それまで少しお話ししよっか?」
「……へ? 一時間?」
「? うん、一時間で終わるよ? 僕がそういう風に作ったからね」
「作った!? それを!? オッサンが!?」
「オッサンって……。まあ、そうだよ。百鬼夜行にある通信機やこの検査機、架の義肢も僕が『失われた遺産』を復興させて作ったものだよ」
苦笑しながら、長髪のオッサンが付けていた通信機を見せびらかした。
正直、びっくりした。まさか「失われた遺産」の復興を成功させた人がいるなんて……。
「失われた遺産」を復興させその技術で家族を守る、という夢を持っていたオレとしては、尊敬に値する人だ。
よし、これからこの人を先生と呼ぼう。うんそれがいい。
「さて、何を話そうかな。あ! そうだ、苗字の方は聞いてなかったね。光くんの苗字はなんて言うんだい?」
「オレの苗字、ですか? オレのフルネームは物部 光、ですけど……」
「……! 物部、か……なるほどね、だからか……」
「……?」
なんか妙な反応された。そういえば、移動中の時に長髪のオッサンにも同じ質問をされて同じように答えたら「そうか……生きていたのか……」って呟いていた。
オレにはなんの事か分からなかったが、オレの苗字には何かあるのだろうか?
「あの……?」
「あぁ、ゴメンね、いきなり自分の世界に入っちゃって。ちょっと衝撃的だったからね」
「いや、それはいいんですけど……オレの苗字に何かあるんですか?」
「うーん、そうだねぇ……。その話は後でおいおいするとしようかな。物事には順序があるからね」
「はぁ……?」
「一応言っておくけど、意地悪でこう言ってるわけじゃないからね?ちゃんと教えるから」
「まぁ、それならいいですけど……」
かなり気になるが、先生が後で言うって言ってるんだ。それはあとの楽しみとしてとっておこう。
「じゃあそうだなぁー、怪異とか霊能者の話はしたって架から聞いたから……
「はい、先生っ!」
「せ、先生? 僕……のことだよね」
「はい! オレ、将来の夢は『失われた遺産』の復興だったんで、もう既にいくつも成功している先生のことを尊敬してます! だから先生って呼ばせてください!」
「べ、別にいいけど……君、変わり身早いね? 口調まで変わってるし……。ま、まぁいいや」
先生は苦笑したが、呼ぶことは許してくれたみたいだ。やはり先生、懐が深い。
オレが話の腰を折ってしまったからか、先生は咳払いを一つしてから話始めた。
「えーと霊力っていうのは何も、霊能者だけが持っている力じゃないんだ。動物だけでなく植物も含めた生き物全員が持ってる。もちろん人間も。霊力は運動や生活するだけでも使うんだ。どうやって使っているかというと……なんて言ったらわかり易いかな」
先生が何で例えようか悩んでいると、オレは思いついた仮説を口にした。
「それは、運動だけでなく動いたりするときに筋肉が霊力を使って初めて動くってことですか? 人間のエネルギー源が霊力だと?」
「え、あ、うん、そう、そういうこと。……ねぇ、君ほんとに七歳?」
「となると……食事したり睡眠など休息をとることで霊力が回復するってことですよね?霊力と生命力は違うんですか?」
「やっぱ君七歳じゃないよね絶対。……いや、霊力と、生命力とか呼ばれる力は基本同じだよ。僕らは霊力を使うとき、ストッパーをかけるようにできている。例えば、運動を極限まで頑張るとするだろう? そうすると、疲れ果てて動けなくなる。そうなったら立ち上がることすら難しくなるよね? それがストッパーが働いている証拠だ。それ以上霊力を使ったら生命維持に支障をきたすから、脳が、体がそれ以上霊力を使うことを拒否するんだ。……まあ本当の極限状態等になるとリミッター外す、わかりやすく言えば火事場の馬鹿力を出す人はたまにいるけど、あれほんとに良くないからやらないように」
「わかりました、気をつけますっ!」
オレは元気よく答え、頭を下げた。
「まあ光くんなら心配要らないと思うけどね。なんたって『神混じり』だ、霊力が極限まで無くなるなんてことはそう起こらないだろうから」
「……その、『神混じり』ってなんですか? 長髪のオッサンにはオレは異合者って言われたんですけど、……やっぱり異合者が全員、オレみたいに不死身ではないんですよね?」
「うん、そうだよ。そうだね、異合者のことを話すには怪異から話した方がいいね。怪異のことは聞いただろうけど、詳しく一から説明するよ」
「怪異っていうのは、まぁ、
「なるほど……」
「だけど何事も例外があるように、これにも例外が存在する。例外が一番多いのは、神や神獣たちだ。神話に出てくる神や神獣はもちろん、信仰によって力は左右される。だけど、問題はそれらに出てこない、伝承にも、話や噂にも出てこない者たちだ。信仰もされていないのに神や神獣、土地神として存在出来ている、つまり、彼らは自らの持つ霊力や能力だけで自身という存在を支えている者たちなんだ。そういう者たちは決まって霊力量が異常に多い。神を超える霊力なんてざらにいるほどだ。それが、君の中にいる怪異だ。その霊力量なら、推定ではあるけど神獣だと思う。普通なら混じる、なんてことは有り得ない。なぜならベースとなる体が、異常な程の量の霊力に耐えきれないんだ。怪異と混ざって生まれる原理は今でも謎なんだけど、異合者は基本、霊力量が少ない怪異が混ざっているだけだ。だから普通の人や霊能者より霊力があっても、再生してもギリギリ腕や足一本が限界だ。だが、君は違った。再生よりも高次元な、『復元』という再生をしたんだ。これは、神獣か神でしか出来ない再生の仕方だ。さらに、霊力パターンを見る限り『信仰要らず』の神獣が合わさっている。霊力量は普通の神獣とそんな変わらないぐらいだけど、やっぱり、体が耐えきれているのは異常を通り越して奇跡に近いんだ。その証拠でもあるように、『神混じり』の異合者の例は君を合わせてたったの三例だけ。さらにその二例目から千年は経ってる。これを聞いたら、君がどれだけ特別な状況にあるか、わかるよね」
話がひと段落つき、先生は口を閉じた。対してオレは、スケールの大きさに圧倒されてしばらく口を開くことが出来なかった。
それに。
「……オレが、たった三例の内の一人……。しかもそんな化け物が、オレの中に、いるのか………」
漸く口が開いたものの、口から出たのは、先生に言った言葉ではなく呟きに近いものだった。
だってそうだ。得体のしれない者が自分の体にいるっていうだけでも気持ち悪いのに、それが怪異の中でも上位種、神獣だと言うのであれば尚更……恐怖しかない。
あれだけ死んでもオレに何もしてこないのは、幸運にしか思えなかった。
そんなオレを見ていた先生は、オレの頭に手をのせる。
「ごめんごめん、怖がらせるつもりはなかったんだ。大丈夫だよ、君の中にいる神獣は少なくとも今は活動している様子はない。聞けば、架が来る前に何度も死んでいたようだけど、それでも暴れていない。だから、余程のことがない限り目覚めることはないと思うよ。また覚めていたとしても、暴れていないってことは君に干渉できないってことだ。心配しなくていい」
「けど……先生、例が少なくてわからないんですよね? 今暴れていなくても、いつ暴れるかはわからない……。その時、オレはどうなるのか……」
「そうだね……でもそんな時が来ても心配しないで。君には、この
「え……あの長髪のオッサンが? そんなに強いの?」
そうオレが問うと先生は、オレを安心させるためだけの笑顔だけでなく、本心の笑顔をみせる。どこか、嬉しそうな顔で。
「あぁ! 少なくとも、この日本においては最強と言っていい。そして僕も力になるよ。もし君の中の神獣が暴れても、僕の技術を総動員してそれを押さえる薬や道具を作ってみせるからさ。だから、僕達に任せて。君は何も心配しなくていいから! 僕達は、君の味方だよ」
先生はオレに笑顔でそう言ってくれた。
とても不安だったけど……この人達なら、本当になんとかしてくれそうだ。
「ありがとう、ございます……!」
オレは心からの感謝を込めて、頭を下げた。
「頭なんか下げなくてもいいって! 大人が子どもである君を守るのは当然のことだよ」
「それでも、『人に良くしてくれた時は必ず感謝を述べる』というのが、叔父さんとの約束なので。これぐらいは当然です」
「……そっか。君の叔父さんは、とても立派な人だったみたいだね」
「はい……オレの、最も尊敬してる人です。……あ、いえ、先生のこともちゃんと尊敬してますよ?でもやっぱりなんと言うか……」
オレがあたふたと慌てて弁解しようとするも、先生はオレのそんな様子を見て声を出して笑いだした。
「あははははは! わかってるって、君のかけがえのない人だったんだろう?」
「……はい」
オレは少し恥ずかしかったが、照れながらもそう答えた。
すると、先生は何かを思い出した顔をする。
「そうだ、また蒸し返すようで悪いんだけど、君の体が神獣、土地神クラスの霊力量に耐えられていることは奇跡と言ったよね?」
「? はい、それが……?」
「あー、いや、奇跡に近いのは変わりないんだけど、君の姓を聞いてどこか納得したんだよね。……多分、君の体がその霊力量に耐えきれているのは、血筋が関係していると思う。あの物部家の血筋なら耐えられてもおかしくない。いやまさか、まだ生きているとは思わなかったよ」
「……? それってどういう……? あのオッサンも先生も、なんか妙な反応してましたけど、オレにはさっぱり……」
「あれ、親から聞いてなかったかい? ……あー、いや、君はまだ幼いし仕方がないか。実は、君の姓である物部……物部家は約三十年前、光くんの両親と叔父さんを残して全員死んでいるんだ。本家も、分家も、ね」
「え……?」
先生のとんでも発言を聞き、オレはそんな呆けた声で返すことしか、出来なかった。
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