第9話 12月の満月へ

拝啓


見慣れないものが空を漂い続けた挙句、やり切れない思いが破裂したような雲が支配を続けていますが、いかがお過ごしでしょうか。


私と言えば、長く伸びた髪を束ねながら、恋を忘れたカラスの様に黒いコートに身を包み、凍てつく空気を吸い続ける生活です。


耳を澄ませば、12月の景色の吐息が聞こえてきそうで、白く吐き出される私の息と同期するようで、心も気持ちも凛としそうな予感がします。


宙(ソラ)に浮かぶ事に飽きた満月が、大地に転がっている様子を見ると、やはり帰るべき場所は大地なのでしょうか。はるか彼方のそのまた先の彼方では、温もりも優しさもなく、ただただ厳しいだけなのですね。


大事なものを全て焼き払い、焦げ付いた思い出よりも大切なものがあると聞きましたが、それは何でしょうか。私が思うのは、無色透明の未来の果てにどんな色を塗るのかと言うのに尽きると。輝きを増していく満月の様に、私たち人も輝く必要があるようです。


何もかもリセットして、零から始まるのはとても勇気が必要ですが、飛び込んでしまえば、なるようになるのでしょうね。


では今日の手紙はこの辺で。変わらず照らし続ける生活を祈ります。


敬具

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る