四章 織姫と彦星 ①

――ひかりちゃんに会いたいってさ


……私に会いたい。

 

一くんが、私に。

 



帰宅した私は、帰り際に麗央ねえから渡された小さな紙と睨めっこをしていた。


「一にね、

〝ひかりちゃんがもし僕と会ってもいいって言ってくれたら渡してほしい〟

って言われてたんだよね」


そう言われて渡されたこれには、



〝 090−××××−××××

また会いたいです

連絡待ってます

小熊一 〟




と書かれていた。




私は、一くんに会いたい、なんてハッキリと言えなかった。

だけど、ちゃんと話さなくちゃいけない。


――そう、思えた。


だから受け取った。



さすがに、いきなり電話をかけられる程の勇気はなかったし、気持ちの整理もまだちゃんとできていなかった。


だから、電話番号を登録して、ショートメッセージを作成した。



〝一くんお久しぶりです 星野ひかりです〟


〝麗央ねえから電話番号をもらったので連絡しました〟



――送信



何て送ればいいのか分からなくて、ありきたりな文になってしまった。


……ちょっと素気なかったかな?

 

何はともあれ、送信した以上もう後戻りはできない。

これから少しずつ、絡まってしまったものを解いていこう。


大丈夫、

そう自分に言い聞かせて。

まずは返信が来るのを待つ。


今日はいろんなことがあり過ぎて、ドッと疲労感が押し寄せた。


……まぶたが重い。


私は、ゆっくりと意識を手放した。




♢ ♢ ♢ ♢




自分の電話番号に一言添えて、ひかりちゃんに渡してほしい、なんて頼んでみたはいいものの。


ひかりちゃんは、僕に会いたいと思ってくれるだろうか。


僕の目に罪悪感を抱いていたら?

他の理由でも、もしかしたら会いたくないと思ってるかもしれない。

 

うーんと、そんなことをグルグル考えていたら、あっという間に一日が過ぎていた。

五コマ分あった講義は、どれ一つ内容なんて頭に入っていなかった。


講堂の時計は十八時を過ぎていて。

とりあえず、麗央ねえに夕飯は何がいいか聞いて今日は帰ろう。

そう思いスマホを手に取ると、知らない番号からショートメッセージが届いていた。


開くと、


〝星野ひかり〟の文字。




「――ッ!」



思わず大きな声が出そうになったのを何とか堪え、メッセージを読む。


麗央ねえから連絡先をもらったってことは、僕と会ってもいいってことだよね?

胸の奥から嬉しさが込み上げてくる。

おおった手の下で頬が緩み、口元がにやけるのを感じる。


会える、会えるんだ!


真っ暗だった視界は、半分色を取り戻した。

自由に動く体で、手で、君に触れたい。

音を発せる喉で、口で、君への言葉を紡ぐよ。



四年という歳月さいげつて、僕たちはきっと変わった。


もうあの頃には〝戻れない〟

 

……でも、戻る必要はない、そう思ってる。


分かれた川が、やがて合流し、海に向かうように。




「僕は、君とこの先を——」



♢ ♢ ♢ ♢

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