迷い星 ④

「一、ちょっといい?」


どこか緊張感のある雰囲気で、麗央ねえは僕に声をかけた。


「うん、どうかした?」

「…………」

「………………」


緊張感は増す一方で。

沈黙が続く中、大きく息を吸って覚悟を決めたような眼差しで、僕を見た。


「回りくどいのとか苦手だから、単刀直入に言うね。」

「うん」

「星野ひかりちゃん、憶えてる?」


「……え」

 

何で麗央ねえから彼女の名前が?

いや、麗央ねえも彼女のことを知ってる。


……でも、何で今?

 

「私が解説員で入ってるプラネタリウム、新人が一人入ったって言ったでしょ? その新人がね、星野ひかりちゃんなの」



僕が目を覚ました時、彼女はもういなかった。


「ひかりちゃんはお父さんのお仕事の関係で、遠くに引っ越した」


僕はそれ以外教えてもらえなかった。


最初は、周りが気を遣って僕に教えてくれないんだと思ってた。

……けど、多分違う。


教えてくれないんじゃなくて、知らなかったんだ、周りの人も。


そうなると、導き出される答えは一つ。


〝ひかりちゃんは、僕に会いたくない〟


だった。


引っ越し先も、連絡先も伝えないということは、つまりそう言うこと。

彼女は、もう僕に会いたくないのかもしれない。


でも、それでも、


麗央ねえの話を聞いて、真っ先に思ったのは、


「ひかりちゃんに会いたい」


だった。

 


僕の中の、彼女の記憶。


最後の彼女は六等星のように。

消え入りそうな声で、何度も「ごめんね」を繰り返した。

 

一度見失った、僕の一等星。

 

やっと見つけた。

 

迷惑かもしれない。

それでも、

君に伝えたいことがたくさんあるんだ。

 


後悔も、

反省も、

感謝も、


そして、まだ子供だった僕には区別がつかなかった、


……君への好意、も。



全部、全部、全部、



――全部、君に伝えたい。



そして知りたい。

君の気持ちを。

君が、何を思って、何を感じて、何を抱えているのかを。



目の周りが、喉の奥が、じんわり温かくなるのを感じながら。

やっとの思いで、僕は言葉を紡いだ。



「……会いたい、」


ひかりちゃんに会って、話がしたい。

 

 


  ♢ ♢ ♢ ♢


 

 

やっぱり、一はひかりちゃんを責めたりなんかしてない。

そこにあるのは、自分の知らない内にいなくなっちゃった彼女に、当時言えなかったことを、自分の気持ちを伝えたいという純粋な気持ち、ただそれだけ。


こういう場合、当人同士での話し合いが一番確実で手っ取り早い。


だから、一の「ひかりちゃんに会って話がしたい」って言うのは、個人的には大賛成なんだけど……


問題は……ひかりちゃんの方。

 

お節介かもと思いつつも、一には、今私が知り得る限りのひかりちゃんのことを話した。


……と言っても、そんなに多くはないけど。


それでも、プラネタリウムに、星に対して苦手意識を持っていることは火を見るより明らかで。

その原因は恐らく、あの事故に由縁するもの。

 

だからいきなり一が会いに行っても、きっとひかりちゃんは困るだろう。


なら、どうするか。

 

今のひかりちゃんがどう思ってるかは分からない。

けれど、できれば、彼女の方からも一に会いたいと、そう思ってくれたら嬉しい。


「まずは私から少し話してみるよ」


そう一に伝えた。

 

  

……伝えたはいいものの、

さて、どうしたものかな。   

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