迷い星 ③

僕の目が見えなくなったのは、四年前の冬。

星を見に行った時、足を滑らせたのが原因だ。


打ちどころが悪く、あの日から僕は右目の視力を失った。


でも、それを誰かのせいにしようとは思わない。

一時は両目とも危ういなんて言われてたけど、今は左目の視力はほぼ回復しているんだし。


まあ、結果論なのかもしれないけど。

 

そして、後悔している。


「雨上がりで危ないから、今日は裏山に行かないこと」


母の言いつけを守るべきだった。

守っていれば、僕は右目の視力を失わなかったし、何より、あの子を〝ひかりちゃん〟を危険に晒すこともなかった。

……全て、たらればの話だけど。


──あの日、十二月十五日は〝ふたご座流星群が極大きょくだいを迎える日〟だった。


しぶんぎ座流星群、ペルセウス座流星群と並んで、年間三大流星群と呼ばれている。


ふたご座流星群は、

活動度かつどうどが高い(他に比べ、見える、見えないの当たり外れが小さい)こと

放射点ほうしゃてんが日没からほぼ一晩中、地平線の上に出ていること

・夜が一年の中で最も長い時期にあたること、大気の透明度も良い時期であること


これらの理由で、一晩のうちに観測できる流星の数が、最も多いと言われている。


しかし、極大(その流星群が最も活発に活動する時期)を過ぎてしまうと、急激に観測できる数が減少するという特徴があった。


だから、この日を逃してはダメだと思った。

 

ひかりちゃんに、どうしても、ふたご座流星群を見せてあげたかった。

 

 

ひかりちゃんの母親は、彼女が六歳の時に他界している。

ふたご座流星群が極大を迎える数日前、彼女の母親の七回忌があった。

 

「星を見るのが好きなの!」

「死んじゃった人はね、お星様になって、私たちを見守ってくれてるんだって、お父さんに教えてもらったの」

「だから、お母さんはお星様になったんだよって、会いたくなったら、お星様を見上げてごらんって!」

 

その言葉を思い出した。


夜空から星がこぼれ落ちるような流星群。

天気予報は雨だったのに。

奇跡的にも晴れたその日。

 

僕は言いつけを破って、ひかりちゃんを裏山へ連れ出した。

 

 

  ♢ ♢ ♢ ♢

 


 

一は時々、うなされている。

ルームシェアを始めて四ヶ月、片手で数えられるくらいだから本当に時々。

 

でも魘されている時、決まって言うことがある。

 

「泣かないで、ごめんね、気にしないで」


ああ、あの子もこの子も、過去にとらわれたまま。

どこにも行けずに、もがいて、苦しんでいる。

 

……私はどうするべき?

 

ひかりちゃんに私自身のことを話さないのも、一にひかりちゃんのことを教えないのも。


それは二人のため。



……二人のため?



本当に?

 



――違う。

 

今を苦しんでいる二人。

過去に戻ることはできないから。


だから、抜け出すには進むしかない。

 

なら、私の答えは決まっている。

その手助けをしたい。

 

私にしかできない……ううん、今の私だからできる手助けを。

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