迷い星 ②
夏休みだからか、子供連れの人は多いけど、それでも上映回数が決まっているため、プラネタリウムの受付は他に比べるとそこまで忙しくはなかった。
「ひかりちゃん、お疲れ様!」
「
初日から研修を担当してくれている八木さんは、新人の私を何かと気にかけてくれる、お母さんみたいな人。
「これから麗央さんとお昼に行くんだけど、ひかりちゃんもどう?」
「ぜひ!」
「でね、麗央さんが星空の解説をするようになってから、来場者数がビックリするくらい増えたのよ〜!」
「八木さん、そんな大げさですって」
「そんなことないわよ、ファンクラブもあるって噂じゃない?」
「ファンクラブは分かりませんが、私の友だちも麗央さんのファンって言ってました!」
「うーん、何だか照れるな……」
純が言ってた通り、麗央さんはすごく美人で、声もこう、落ち着きがあって心地の良い響きがする、そんな声だった。
実際に麗央さんの星空解説を聞くことは、多分できないけど、それでも純がファンになる気持ちが分かった。
「そういえば、もうすぐアレよね! 流星群が見られるのよね!」
「そうですね、東京でも明かりの少ないところでなら見えると思いますよ」
「プラネタリウムもいいけど、やっぱり生で見たいわよね。何て言ったっけ、えーっと…」
「ペルセウス座流星群ですか?」
「そう、それ!」
「年間三大流星群の一つで、比較的明るいことで有名で、うっすら雲がかかってても観測できるって言われてるくらいなので、きっとできますよ!」
そう言い終わると、八木さんはポカンとした顔で私を見た。
あれ、私何か変なこと言ったかな……
「……すごい、すごいよ、ひかりちゃん!」
「え?」
「よく知ってるわねえ! きっとひかりちゃんも星が好きなのね」
八木さんにそう言われ、前に純に言われたことを思い出した。
〜〜〜〜〜これかっ‼︎
というか、麗央さんがいるのに出しゃばり過ぎた!
「あの、すみません私…」
「何で謝るの? すぐに知識が出るくらい、星、好きなんだね?」
麗央さんはくしゃっと笑いながらそう言った。
――ひかりちゃんは本当に星、好きなんだね?
あれ?
私前にも、同じこと言われたような気がする。
……誰だったかな?
「ひかりちゃんさ、麗央さんの解説聞いたことある?」
「いえ、」
「ならさ、この後の回で、中入って聞いておいでよ! カウンターには私がいるから」
「あ、えっと」
答えに困って、
「……苦手なんです、暗いところ」
私は、
♢ ♢ ♢ ♢
……きっと嘘。
――苦手なんです、暗いところ。
その言葉を聞いて、すぐにそう思った。
いや、もしかしたら暗がりも苦手になってるかもしれない。
けれど、少なくとも八木さんに対しての返事として、彼女は嘘を吐いている。
……でも、今はそう言うしかないのかな。
昔、私がまだ上京する前。
いとこの一から、よく遊ぶ女の子の話を聞いた。
「お星様が大好きな、星野ひかりちゃん」
夜にこっそりと家を抜け出して天体観測をしに行っちゃうくらいには、星が大好きな子だった。
一の後ろをずっとついて歩いてて、まるで兄妹みたいで微笑ましかった。
私は、あの光景を今でも憶えてる。
「麗央ねえ! お星様の写真見せて!」
一の真似をして、私のことを〝麗央ねえ〟と呼んでいた。
星空の写真集がお気に入りだったね。
最初は、星が好きなのも一の真似をしているんだと思っていたんだけど。
小学校低学年の子が、真似で写真集を何時間も眺めていられるとは思えない。
本当に、星が、星空が好きだったんだね。
……それなのに。
それだけ好きだったのに。
〝好きなものを好きじゃいられなくなる〟って、どんな気持ちなんだろう。
きっと私が想像し得ないくらい、辛くて、悲しくて、苦しいものだと思う。
あの事故が起きたのは、私が上京してから三年後の冬だった。
事情は電話で聞いていた。
一とも話した。
事故の当時のこと、それからのこと。
言いたいことも言えないまま、気付いたらひかりちゃんは引っ越してしまっていたこと。
本当の姉のように慕ってくれていた、二人が大好きだった。
「困った時は、麗央ねえに任せなさい!」
何て言ってたのに。
肝心な時、私は二人の側にいてあげられなかった。
……何も、できなかった。
だから、
だから今度は、
今度こそは、二人の力になりたい。
……そう、思うよ。
♢ ♢ ♢ ♢
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