第4話:想定外の事態 ③-1

 そして、入国審査と税関を抜けて手荷物を受け取り、到着ロビーに出た。


 すると、スーツ姿の男性がこちらに向かって歩いてきた。すると部長が「ナジャム君お迎えありがとう」と男性に言って荷物を渡していたが、彼にはさっぱり誰なのか分からなかった。


 その時、小野部長が「彼はドバイ支社の支社長だよ」と東山の耳元で耳打ちしてくれた。


 その話を聞いた彼はびっくりしてしまった。なぜなら、今まで海外出張でドバイに来たことはあったが、今回の男性ではなく、若手社員のお迎えだったため、今回の出張がどれだけ重要な出張なのかを物語っていた。


 その後、現地のオフィスで現地の社員とミーティングと社内状況報告、国内取引進捗確認などを行い、午後からマリックス社に向かった。


 マリックス社までは自社オフィスから車で30分だが、マリックス社の社屋の前に着いて驚いた。


 その理由が”社屋の高さ“だ。彼はさまざまな国の大手企業や中小企業とやりとりしてきたが、これまで訪問した会社で社屋が70階建てというのは聞いたこともないし、今まで一番高くても25階建てだったことからびっくりして開いた口がふさがらなかった。


 エントランスを入って受け付けに申し出ると「お待ちしておりました。担当者が55階の5503会議室でお待ちですので、向かってください」と言われたが、まるでホテルの部屋番号のような数字に驚いていた。


 そして、エレベーターに乗り、55階に向かったが、彼は緊張しすぎて今にも吐きそうになっていた。


 55階に着くとそこは日本と違い、異次元の世界が広がっていた。


 なぜなら、各部・各課のオフィスと会議室がたくさん並んでいて、会議室に関しても5人程度の部屋から数百人収容可能な部屋まで大小あるなど日本ではあまり考えられない造りになっていた。


 そして、指定された部屋に行くとアジア事業部のジャラム部長とアッサムアジア担当マネージャー、ジョセフヨーロッパ担当マネージャーが待っていた。


 3人はそれぞれ海外用の名刺を渡し、話しの席についた。


 すると、ジャラム部長から「遠く日本から来てくれてありがとう。私たちはあなたたちと契約を打ち切るつもりはないが、今回起きたトラブルの説明を受けてからでないと取引再開は出来ない」と部長に伝えると、部長が「この度はマリックス社に対して担当者の不行き届きがありましたことを確認いたしました。このようなトラブルを起こしてしまい申し訳なかったです。当該社員に対しては私たちの方から指導を行い、担当から外すことといたしました。」と伝えた。


 その後、これまでに起きたトラブルの経緯と説明、これらのトラブルに関しての改善案などを先方に提示するなど取引再開に向けて交渉を進めていた。


そして、新しい担当者が誰なのかを発表する事になったが、部長はギリギリまで悩んでいた。というのは、現在は10人の役職者を含む社員で担当エリア別のマネージャー、その他70人がエリア別に振り分けられる形で担当者がいるが、全てのエリアを担当した経験があるのは20人しかいない。そのため、今回トラブルを起こした米山に関しては中東担当からアジア・国内担当へ配置換えを行い、主任である東山が中東とヨーロッパを兼任する形で担当することになった。


 ただ、相手からするとあり得ない選択と思ったのだろう。


 その理由として“兼任させるということは彼以外に適任者が誰もいないということになり、私たちは彼の健康を危惧している”という日本の価値観と海外の価値観のズレが生んだ違和感だった。


 確かに、他の取引先とのミーティングに参加しても複数エリアに同じ担当者が参加しているという会社はほとんどなく、“上司”として参加することはあっても“担当者”として参加する人はほとんどいなかった。


 そのため、東山を起用したことに相手の会社からは疑問の声が上がっていたのだ。


 ただ、先方としてはあるメリットもあった。それは“日本の担当者がヨーロッパと中東を兼任しているということはそれぞれのエリアで販路拡大や取引仲介も出来るため、お互いにWin-Winの関係を築ける”ということだった。


 その後、再びオフィスに戻り、2ヶ月後に控えている新商品販売開始に向けたプロモーションの打ち合わせと輸入手順の確認などを行った。


 その夜、ホテルにチェックインして、部屋に入り、パソコンを開くとあるメールに目が留まった。


 そこには“一部商品の到着遅延のおしらせ”と書いてあった。


 彼は少し前から先方とやりとりしていて、覚悟していたが、実際にこのような通知が来ると、やはり避けて通れない問題だった。


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【続】クロッシングポイント NOTTI @masa_notti

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