第3話:想定外の事態 ③
その不安とは“若年層の人材流出”だ。
拓海の会社は毎年人材が減っていき、現時点で入社3年以内の在籍率が65%と悪くはないが、流出した35%の社員の中には将来の役員候補や社内で検討されている海外進出をする際に起用する予定だった社員もいたため、社長にとってはそのような社員の在籍期間を長くするために必要な事が何かを模索していた。
ただ、毎年採用をしていると志望学生の傾向が見えて来ることもある。
例えば、彼の会社では海外の事業所の設置や海外企業との取引の開始など海外に目が向いているため、ここ最近は国際系の学科の学生が一般職を、有名難関大学の理系学科の学生が技術職をそれぞれ志望してくる事が増えた。
しかし、内定を出して、入社に至ったのは拓海の入社年で一般職300人採用のところで200人、技術職80人採用のところ50人と毎年数十人から数百人が内定辞退を選んでいる。
そして、入社した社員の2割前後が2年以内で転職もしくは知り合いの独立に伴う引き抜きでの退職を選択しているため、この部分をどのように改善していくのか、自分たちの人材育成が間違っていないのかをすぐにでも役職者を集めて会議をしていかないと、人材不足など手遅れになってからでは遅くなってしまう。
実はこの頃入社当時から仲が良かった同期である東山の出向に関する噂が流れた。
彼は国際事業部のエースと言われていたが、直近3ヶ月の業務成績が振るわず、小さなスランプ状態になっていた。そこで、彼の自信を取り戻してもらうために部長から子会社の経営立て直しのためのメンバーとして出向することが伝えられたというのだ。
この時、彼は結婚3年目で、現在は奥さんのお腹に来年の夏頃に生まれる子供がいた。そんな状況で子会社に出向というのは本人にとっても屈辱だった。
なぜなら、彼がスランプに陥った理由が同期の米山が中東の取引先から取引停止を受けて、その影響が彼の担当しているヨーロッパの企業に飛び火したことで会社自体の信用に傷が付き、取引制限を受けたのだ。
彼は飛び火した理由が分からなかったが、後日、彼の元に現地で仲良くしている社員さんから連絡が来た。
そこに書かれていたのは「僕としてはリュウと取引したいけど、親会社から止められちゃって・・・」という内容だった。
何と、米山の担当していた会社は東山の担当している会社の親会社グループで貿易部門全体を担当している元請け企業だったということを初めて知り、その子会社を担当していた久留というまだ20代の社員が何とかフォローしようとしていたのだ。
彼はこの事実を聞いて、米山と久留を呼び、「何とかして信頼回復を目指さないとこのままでは3人まとめて飛ばされる可能性がある」と伝えると、米山は「いきなり先方から取引停止を言われたのに何で自分のせいになっているの?」と自分の責任ではなく、あくまで“先方からストップがかかった”という認識だったのだ。
しかし、久留は「親会社の方からは取引停止の理由が届いていないため、調査するから待って欲しい」というバレイ・トレーディングからの連絡や「久留さんが担当な弊社としては安心なので、親会社を説得します」というラターニャ・トレーディングからの連絡など関係子会社から取引再開を要望する声が上がっていた。
そして、親会社であるマリックス・トレーディングUAEから「直接話したいことがある」という連絡を受け、主任の東山と常田部長、小野貿易管理部長の3人でドバイとバーレーンに飛び、直接親会社との話し合いが持たれることになった。
この出張は彼にとって運命を左右するほどの大きな出張になるということはまだ知るよしもなかった。
1週間後、3人は夜のドバイ行きの便で日本を出発した。
機内ではエコノミークラスに東山が、ビジネスクラスに部長二人がそれぞれ座っていた。
東山も本音は“ビジネスクラスに座りたかった”と思っていたが、社内規定で課長以上にならないとビジネスクラスには座れない事になっていた。
そして、機内食を食べて、現地で使う書類の電子化を終わらせ、仮眠を取った。
数時間仮眠をとり、彼が起きるとCAさんが席に来てくださり、「朝食いかがなさいますか?」と尋ねてくれた。
彼は「いただけますか?」と答えて、朝食が運ばれてきた。そして、朝食を食べて到着に向けて片付けを始めた。
2時間後、ドバイ空港に到着するとビジネスクラスの上司2人は先に降機し、あとから降機した東山は少し遅れて合流した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます