学園追放③ 鑑定したら激レアアイテムだった
男がオレに指輪を差しだし、鑑定しろとオレに迫る。
「あの、ウチ、まだ開店していないんですがね」
ムッとして思わずそう答えてしまう。
カギをかけておくべきだったかな、うかつだった。
でもどうあれ、レンの流した噂がうまく広まってるようだ。
それを聞いてオープン前にも関わらずオレを頼ってきたのだろう。
だとしたら、無下にするのもなんだな。
そう思い、オレはカウンターに戻ると男から指輪を受け取り、意識を集中する。
加護は身体能力や技能の向上の他に、固有の特殊能力をもたらすことがある。
それはスキルと呼ばれ、『鑑定士の加護』の場合は最低一つ得ることが可能だ。
数十秒ほど経つと、やがて目前の空間上に文字やら図形やらが浮かんでくる。
それはまるでゲームのステータスウインドウのよう。
もう少し時間が経てば、そこに鑑定物の情報が表示されるはずである。
これが『鑑定士の加護』を神から受けた者全員が持つスキル『鑑定眼』。
この世界には、過去・現在・未来の情報が集う世界樹という存在があるらしい。
鑑定眼はそこから、見たものの情報を引き出すことができるのだ。
ただオレのは、他の鑑定士のものとはかなり毛色が違うようである。
普通は頭に文章が浮かんだり声が聞こえるだけらしい。
本来の鑑定眼スキルとオレの魂とが同調して変異したのではないか。
学園の教師はそういっていた。
そんなわけか、表示される文字も日本語や英語である。
また一般的な鑑定士は品物や魔物しか鑑定できない。
だがオレの場合はそれだけではなく、目の前にあるモノ全てを鑑定できた。
それができるのが転生者だからなのか熟練度によるものなのかは分からない。
『万物の鑑定眼』と言っていい、相当便利に使えるはずのオレのスキル。
だがオレは自分ルールで、人に対しては使わないことにしている。
また、全てのモノが鑑定できることを誰にも話さないことに決めてもいた。
知らなくてもいい情報を知ってどんな災難にあうか分かったもんじゃないし。
また、それができるというだけでまわりから警戒されるだろうから。
だがもしこれを学園に話していれば、もしかして退学みたいなことには――。
いやどうだろうな。
結局、勇者によって追い出されていただろうか……。
なんて考えているうちに鑑定結果が出る。
……?
なんだ? 結果の各項目が『?』の文字で完全に埋まってる……。
普通、鑑定結果にはそのアイテムの重要度を示すレアリティランクが示される。
そのランクが高ければ高いほど鑑定結果から情報が欠落するのだ。
一般的にはレアリティランク2あたりから情報の欠如が見られるらしい。
ちなみにオレの場合はランク3までは問題ない。
だがそれを越えると、表示の所々に虫食いのように『?』の文字が表われる。
それでもランク4でここまで情報が欠落しているのなんて見たことなかった。
てか、ランクすら分からないって、どういうことだ?
この指輪、ひょっとしたらランク5あるいは6以上まであるかもしれない。
そんな鑑定結果でも、名前だけはなんとか表示されたので読んでみる。
『コーデリアの指輪』
……コーデリアって人の名前か?
最近どこかで聞いたような……。
それにしても、アイテム名に個人の名前が入っているというのは珍しい。
普通、アイテムの持つ効能が入るんだけどな。
例えば「"神速"の指輪」とか「"鉄壁"のネックレス」とか。
あるいは有名人が関わったもの、効果のない装飾品なら材質や銘がつくことも。
こんな風に人の名前がつくというのは、もっと特殊なケースに限られるのだ。
男を見ると、焦りやおびえが表情や仕草に如実に表れている。
ハッキリいって、怪しい。
「なあ、これ、どこで手に入れたんだ?」
「なんでそれをお前に教える必要がある!?
鑑定に場所なんて関係ねーだろ!」
「普通はそうなんだけどね。
レア――いや、特別なアイテムらしくて鑑定がうまくいかないんだ。
場所が分かればヒントになるかもしれない」
「ああ? 近くのダンジョンでだよ!
いいから早くしな!
お前、転生者なんだろ!?
これくらい簡単に鑑定できるんじゃないのか!?」
なにかを隠しているように思える。
どうにも、きな臭いな……。
その時、さきほど男が入ってきたのと同じ勢いで扉が開かれる。
が、そこに人はいなかった。
……いや、間違い。ちびっこくて見えなかった。
現れたのは一人の愛らしい金髪少女。
「すみません! 指輪を持った男の方がこちらに――」
姿に似つかわしい鈴が揺れたような声をその少女は奏でる。
そしてオレの持つ指輪を見て一瞬固まり、カウンターへと駆け込んできた。
彼女が近くに寄ると、その可愛さがより感じられた。
入学したての小学生を思わせる小柄な体格、幼い顔、ショートの金髪。
着ている服がドレスなら、まさにお姫様のイメージにぴったりである。
笑顔もきっと愛らしいに違いないが、あいにくその表情は必死さに満ちていた。
そして視線はオレが手にしている指輪に注がれている。
ん? 彼女の服、普通クラスの制服じゃないか?
てことはウチの学園の学生?
なら、オレの歳と大差ないってことか。
こんなに小っこいのに。
オレは思わず自分に課している禁を破り、彼女に対して鑑定眼を使ってしまう。
だってこんな可愛い子、名前くらい知りたいじゃないか。
そして鑑定結果を見たわけだが、その情報にも欠落が発生していた。
人にもレアリティランクは存在し、オレの人物鑑定はその影響を受ける。
彼女のレアリティランクは4。それだと基本的なステータスしか分からない。
それでも名前だけは出てくる
リタ……
リタちゃんか。
その姿に似つかわしい、かわいい名前だ。
さて、他に情報は……。
だがオレは、そこから数文字先まで読んだだけで大体の事情を察してしまった。
さて、どうしたもんかな。
あまりいざこざに巻き込まれたくないんだが……。
考えあぐねていると、彼女は声高らかに自身の得ただろう確信を口にした。
「返してください!
その指輪、そこの方がわたしから盗んだんです!」
男を見ると、その表情から焦りの色が完全に消えていた。
彼女をあなどったのか、あるいは開き直ったのかもしれない。
「は? なにをいってる?
これはオレが近くの遺跡で見つけたものだ!
それとも証拠でもあるのか?」
男が断言すると、それは……と彼女が困惑した表情を浮かべながらうつむく。
確かに、この指輪には持ち主を特定できるような特徴はなかった。
また鑑定眼でも現在の所有者までは分からない。
それはオレの場合でも同じだ。
今、『自分のものである』という主張を通すのは無理筋だろう。
――と、普通そう思うよな。
「あるよ、証拠」
オレはそう口にした。
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