学園追放② 学級委員長、レン

 学園寮を追い出されても住めそうな場所はないか。働き口はないか。

 オレは昼休み中頃のタイミング、レンさんにダメ元で聞いてみる事にした。

 

「あの、レンさん」


「ひゃい!」


「ひゃい? あの、頼みたいことというか、聞きたいことがあるんだけど……」


「え、ええ、何かしら!?」


「あ、いや、ここでは話しにくいから……ついてきてくれるかな……?」


 オレはそう言って教室を出る。

 普段なら逃げられていたところだが、彼女もついてきてくれた。

 表情や声色から深刻さを察してくれたのかもしれない。


 そして階段の一階と二階の間のスペースで事情を説明してみた。




「そんな話聞いていないわ!? ついてきて! 一緒に抗議に行きましょう!」


 彼女は話のさわりを聞いただけで激おこ。

 職員室まで吹っ飛ばさんとする勢いでオレの腕を引き二階へ上がろうとする。

 てか、こんなに荒ぶった彼女を見たことがない。


「ああ! いや、待ってくれ!

 大ごとにするつもりはないんだ」


「そんな! あなたはそれでいいの!?」


「いや、良くはないんだけどさ。

 レンさんが本気になって怒ってくれたのがうれしくて、もう、いいかなって。

 オレ、レンさんに嫌われてると思ってたんだ。

 あまり目を合わせてくれないし」


「まさか! 嫌っているだなんて!

 ただ、あなたのことは前々からちょっと気に……ね。

 でも、ふんぎりがつかなかったというか、なんというか……」


「ああ、ありがとう、もう十分だよ」


 偽りない感想だ。

 オレのせいで彼女の学園での立場を悪くするのはいたたまれない。


「……その、わたしになにか力になれること、ないかしら?」


「ああ、実はそれで声を掛けたんだ。

 寮を追い出された後、住む場所や収入の当てがなくてさ。

 レンさんなら何かツテを持ってないかなって」


「そうね……。

 ええ! そういうことならとっておきのがあるわ。

 今日の放課後に紹介してあげる!」


「ホント!? ありがとう!

 やっぱりレンさんに声を掛けて良かった!」


「きゅぅっ」


「きゅぅ?」


「コ、コホン。ちょっと悲鳴が。

 で、でもね、その代わり……条件……というかお願い……。

 というか、そういうのがあるんだけど……いいかしら?」


 彼女は何かの条件を持ち出そうとしてくる。

 が、オレにとってはむしろその方が気が楽だ。

 快く了承する。


「そ、それなら……。

 今からね、あなたのことを『シュウくん』って名前で呼ばせて欲しいの!」


「そんなこと? ああ、かまわない。

 これからはオレのことをシュウでもシュウくんでも好きに呼んでくれ」


「ホント!? ありがとう!!!

 それでね、それでね。わたしのことをその……ね。

 『お姉ちゃん』ってよ――いや! 今のはなし! それはいくらなんでも」


「レン姉さん」


「きゅぅーーっっっっ」


「で、いいかな?

 さすがにお姉ちゃん、は恥ずかしいので、姉さん、と呼ばせてもらえれば」


「かまわないわ! むしろそれはそれでアリ!!!」


「そ、そう。じゃあ他にやって欲しいことは――」


「も、もう、放課後まで待てないわね!

 今から行きましょう! そう! それがいいわ!

 お姉ちゃんに任せなさい!!」


「ちょっ、やっぱり待った! ダメだろ、勝手に早退とか。

 その、姉さん、なんだからそういうところはもっとしっかりしないと」


「そ、そうね。じゃあ放課後ね。

 その……シュウくん」


 照れくさそうに彼女は微笑んだ。




 学園は王都ラルディアの北の外縁あたりに校舎をかまえている。


 そこから王都中央の王城を挟んで反対側の外れ。

 中央に比べて少しさびれた、かといって貧民区ほどうらぶれてはいない。

 そんな場所にある雑貨屋。


 放課後、レンはオレをそこへ案内してくれた。


 閉まっていた店のカギを開けてもらい、中に入る。

 棚に商品はほとんどなく、奥の方には木箱やタルが積まれていた。

 正直店というより倉庫っぽい。


 続いて入ってきたレンはオレの前に立つと、腕を左右に広げ満面の笑みを浮かべ


「わたしのお店へようこそ~~。シュウくん!」


 そんなことを言った。


「え? ……えぇぇ!!!?」


「あの、いくら何でも驚きすぎよ? まあ、半分ウソなんだけど」


「ウソかよ。

 さすがにそんな早く店なんて持てないよな。

 でも、半分って?」


「うん。いい機会だからちょっとお店を始めさせてもらおうかなって思ってね」


 話を聞くに、レンは教会に寄付されたこの店舗の保守を任されていたらしい。

 そしてその見返りとして建物を倉庫みたいに使わせてもらっていたそうだ。

 今後はそれを雑貨屋として運用。

 そしてオレを店員として雇うという。


 任される仕事は基本的に店番。

 そして客や他の店から持ち込まれた品の鑑定だ。

 ゆくゆくは掘り出しモノの探索もやって欲しいとのこと。


「教会の許可はもうとってあるわ。

 言っておくけど、わたしはシュウくんに楽させるつもりはないんだからね?」


「分かった、がんばるよ。レン姉さんのために」


「きゅぅーーっっっっ」




 ちなみに店には屋根裏部屋があり、なんとか寝泊まり出来ないこともない。

 レンも「体に悪い」と言いつつ許可してくれた。

 つまり収入と住む場所の確保という問題は解決の目処が立ったわけだ。

 オレの命運は、レンの店が成功するかどうかにかかっている。


 正直、レンの態度もふくめていろいろ面食らいはした。

 でも不思議とそれほど不安はない。

 どのみち他に当てはないんだ。がんばるしかないだろう。




 それから数日。


 午前は学園で授業、午後は店でオープン準備という生活をオレは送っていた。

 ちなみに夜は寮に帰って寝泊まりしている。

 もう学園に通う必要はないが、ギリギリまで今のサイクルでいく予定だ。

 午前中には気になる授業もあるし、なにより学園や寮の飯はタダなので。


 ちなみにオープンは一ヶ月後くらい。


 レンはそれに向けて商品の手配や各種手続きに奔走している。

 『史上初! 転生者鑑定士のいる店』みたいなウワサも流しているようだ。

 その辺りはもう、レンに任せるしかない。


 オレはといえば、今日も届いた品や元からあるアイテムの整理を行っている。



 そこへ不意に、何者かが勢いよく扉を開き中へ入ってきた。

 一瞬レンかと思ったが、違った。


 「これを、鑑定してくれ!」


 見ず知らずの男は切れた息を整える間もなく、一つの指輪を差し出し怒鳴った。

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