前章「御前試合編」

学園追放① 転生者学級から追放された

 オレはある日、一ヶ月後に学園を退学させられることを通達された。


 理由をたずねたが、返ってきたのはいいわけがましい返答。

 だが結局「オレが役立たずだから」ってのが本音なんだろう。

 話のあと、オレは反論する間も与えられず職員室から退室させられる。


 そんなオレに、一人の見知った男子が待ち構えていたように近づいてきた。


「シュウくん……。こんなことになってすまないと思う

 僕も、共に転生した者として学園に精一杯働きかけたんだけど……」


 そいつは申しわけなさそうに言葉を投げかけてくる。



 そう、転生したのはオレだけじゃなかったんだ。


 儀式によって元の世界に開かれたのは関東がすっぽり入るほどの召喚円。

 その円内にあった適性のある死者48名分の魂が引き寄せられたという。

 しかもオレはトラック事故にあった誰かの巻き添いで一緒に召喚されたらしい。


 そして彼もその48名のうちの一人。

 しかも同じ転生者にして唯一勇者を名乗ることが許された存在だ。


 その実力は皆も認めるところで、それにおごることなく振る舞いは紳士的。

 文武両道の完璧超人。

 周りからはそう評されている。


 そいつはオレのそばまで近寄るとささやいた。

 表情を意地悪そうに歪めて。


「テメエのような役立たずは一秒でも早くこの学園から追い出すようにってな」


 これが勇者『神宮 壮五』、その本性である。



「なるほど、退学はお前の仕業か。

 勇者様ともあろう者が、一体なんの恨みでオレにこんなことするんだ?」


「はあ?

 なんでオレ様がテメエごときゴミ鑑定士に恨みを抱かなきゃならねえ?

 魔物退治に全然役立たないクソ虫が。

 そんなのが戦場をうろついていたら目障りで邪魔。

 それだけだっての」


 この世界に存在する全ての人間は神から加護『ジョブクラス』を受ける。

 転生者も例外ではなく、ほとんどの場合、戦闘向けのモノが与えられるらしい。


 だがオレに与えられたのは『鑑定士の加護』。

 巻き添えで召喚された影響か、戦闘向けではなかった。

 ちなみに、転生者でその加護が与えられた例は過去にないようだ。


「そんなことはない。

 鑑定で敵の弱点を見つけて上手く使えば――」


「アホか。そんなの、この世界のカス鑑定士にでも出来ることだろ。

 第一、魔物なんてみんな過去に鑑定済みで弱点なんて分かってんだ。

 今更鑑定する必要なんてあるか?

 この寄生虫野郎」


 つい魔が差して反論してしまった。

 だが、返ってくるのはお決まりのセリフ。


「なのにお前はトレーニングにも参加しやがらねえ。

 この世界のカス戦士にも劣るくせに。

 もっとも、参加されても迷惑なだけだがな。

 そんな奴がクラスにのほほんと居座っていたら集中できねえってんだ。

 大体、男のくせに指輪付けてるなんてキモいんだよ」


 ここぞとばかりに言いたい放題である。


 てかお前はオレに参加して欲しいのかイヤなのか、どっちなんだ。

 それに、指輪はこの世界では男でも使ってるマジックアイテムなんだが。


 適当に聞き流していると、不意に勇者を呼ぶ声がした。

 すると、こいつは急に態度を変える。


「ああ、分かったよ!

 それじゃあ、シュウくんも気を落とさずに。

 力になれることがあったら遠慮なく頼って欲しい」


 と、勇者は口調を好青年風に戻して返事をする。

 そして、


「それと、退学と同時に学園寮から退去することになるから。

 荷物をまとめておくんだな。

 当然、支給されたもの、支給金で買ったモノも置いてけよ?

 もっとも、てめえの汚臭の染みついたモノなんてとっとと焼却するけどな」


 そんな捨て台詞を残し、この場を離れていった。 

 口元にわずかにあざけりの笑みを残したまま。


 てかそれは、丸裸で寮を出ていけ、ってことじゃないか。


 奴はいつも八方美人で振る舞っているが、オレにはこんな感じで接してくる。

 いやがらせをしてくるのも今に始まったことじゃない。




 確かにオレは、戦闘訓練はともかくトレーニングには参加していなかった。


 だがオレがいくら体を鍛えても、戦士系加護を受けた子供にもおよばない。

 一方鑑定士の技量を鍛えれば、加護も強まり基礎能力が多少でも増幅される。

 そのことが、転生者として強化された鑑定士の能力の一つで分かっていた。


 それを何度学園の教師や他の転生者へ説明したことか。

 だけど連中が信じたのは、勇者の唱えるありきたりな古くさい精神論。

 結局、誰にも分かってもらえなかった。




 ……詰まるところ、人付き合いの悪さが問題だったんだろうな。

 だから誰もオレの言うことに耳を貸してくれないということなんだろうさ。

 だけど、それってここまでの扱いを受けるほどのことか? クソッ。




 もうすぐ昼休みになろうとしている。

 オレは教室に戻る気にもなれず、適当に学園内を彷徨いていた。


 ……しかしこれからどうするか。

 寮を追い出されるなら住む場所を探さないといけない。

 また、食費なども自分で稼がないといけないだろう。


 面倒だ。

 このまま寮に帰ってしまおうか。


 ……いや、まてよ。

 その前にやれることが一つあるか。




 転生者クラス学級委員長。

 名は『恋(レン)』という。

 姓は……なんだっけ?


 彼女はオレと同じく非戦闘向けの『商人の加護』を受ける者。

 でもオレとは違い、人柄の良さを買われてみなをまとめる役に収まっていた。

 しかも学園外のいろいろな人物とも信頼関係を築いているようだ。

 そんな彼女なら、働き口や住める場所について知ってるかもしれない。


 彼女を見ると、腰にまで届きそうな黒髪が目立つ。

 しかも前髪パッツン美少女である。

 ちなみにオレも同じ黒髪で、この世界では珍しい髪色だ。


 クラスの中では比較的長身。

 それでいて威圧感みたいなモノはない。

 表情も物腰もしゃべり方も、なんていうか柔らかい。

 それも相まって、『クラスのお姉さん』という雰囲気を醸し出している。

 このクラスでは一番話しかけやすい。


 しかし、不安はある。

 知っていたとしても、はたして委員長はオレに教えてくれるだろうか。

 なにしろ彼女、オレにだけカタい態度で接してくるのだ。


 例えば、たまに目が合うとすぐにあらぬ方向へそらす。

 話しかけようとすると慌ててどこかに行ってしまうこともあった。

 てか、クラスで彼女と会話をしたことないのってオレくらいじゃないか?

 勇者ほど露骨にイヤな感じはしないが、地味にショックだ。


 だが彼女以外に当てはない。

 オレは彼女にダメ元で声をかけた。

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