第12話 初デート
あまねは今日、三四郎とデートする。オリックス対ロッテの試合を観に行くのだ。前日は男の人との初デートなのでドキドキしていたが、ぐっすりと眠れた。三四郎は自分と同じようにドキドキしているだろうか。いや、おそらくしていないだろうなと思った。だって三四郎はひょうきんだから。あまねはそんなことを考えながら黒のスカートをはき、ピンクの半袖ティーシャツを着た。ピンクのティーシャツでかわいさを出していこうと思った。でも客観的に自分を見たときにそこまでかわいくないよな、とも思った。でもそんなことを考えていても楽しくないとも思ったので、だからそんなネガティブ思考はやめたほうがいいと思った。いらないことを考えすぎるのがあまねの特徴だ。
「いってきますっ」
日曜日の昼前、リビングルームでくつろいでいる母と父にそう言い、あまねは家を出た。おばあちゃんは老人集会所でカラオケなのでいなかった。門を出るときパトリシェフがこちらをジッと見ていた。『もう家を出るの?』と、さびしいことを考えている顔をしていた。あまねは心の中で『パトリシェフ、あたし今日楽しんでくる』と言った。
地元の駅に着くと三四郎が自販機の前で立って待っていた。
あまねが手をふると「こんにちは、セニョリータ」と三四郎がおどけた。三四郎はベージュの半パンに赤の七分袖のティーシャツを着ていた。首からは金色のネックレスをして、黒の革のバッグを持っていた。
「こんにちは」とあまねは笑って言った。
「良い笑顔やな、あまねちゃん」三四郎がニタニタしながら言った。結構オシャレだなと思った。こんなにオシャレな人の隣にいるのが誇らしいと思った。それにちょっとだけかっこいいし。さぁ行こうかと三四郎が言い、二人は京セラドーム大阪を目指した。あまねはルンルンだった。
だがこのあと三四郎が驚愕の行動に出ることをあまねは予期していなかった。
あまねは電車内でとても驚いていた。
三四郎がバッグからスケッチブックを取り出し、あまねの大してかわいくない顔を描き出したからだ。
「うまいですね」
その絵はかなりうまかった。中学生の描く絵のレベルじゃなかった。でもちょっとやめてほしい。
「せやろ」三四郎はニタニタした。
「でもそんなリアルに描かんといてください」あまねは恥ずかしながら言った。
「いや、リアルに描きたい」三四郎はそう言うと、実際に見たこともないのに、あまねのオッパイや秘部を描写しだした。
あまねはカチンときた。
「やめて下さいよっ、変態っぃぃ」
「やめへんでぇ、描くで俺は、へんずりはかけへんけどな。ハハハッ」
二人はやりとりを周りの人は笑っていた。
あまねは恥ずかしいと思った。
品のない人だとは思っていたが、ここまで品のない人だとは思わなかった。でもそれを許してしまう自分がいた。でもちょっとだけ残念だ。隣にいる人がもっとまじめでまともな人であったらいいのに。ふとそんなことを考えた。でも話し相手がまじめな人だったらこんなに気分が乱高下することもないだろうと思った。だから初デートはちょっと不まじめな人としたほうが楽しいんじゃないかと思った。
三四郎はなおもニタニタしながらあまねの裸を描き続けた。
あまねはもう黙っていた。
そして電車は難波駅に着き、阪神線に乗り換えた。
さすがに野球を観に行く人で満員の阪神電車では、三四郎はデッサンしなかった。
でもやっぱり隣にいるのはまじめな人のほうが安心できて好きだなと思った。ふと三四郎の顔を見た。その顔はとても楽しそうな良い笑顔をしていた。
あまねは今日デートして良かったとその時に思った。
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