第10話 男の過去

 二人は公園のベンチに座ったままでいた。


 「統合失調症の診断を受けたのは中学二年の秋やった。幻聴は主に俺の悪口と例の声の低い男の声や。悪口は友達の声やった。低い男の声は、俺の行動をいちいち解説してくるねん。例えば、今通学路を歩いていますとか、今上靴に履き替えましたとか、今トイレに入りましたとか。そんなことをいちいち俺に報告してくる。それが中二の夏。そして夏休みの最後の日に俺は家で発狂した。そして病院に入った。閉鎖病棟やった。」


 三四郎は自分の過去を語った。あまねは話が重くて苦しくなってきたが最後まで、うんうんと聞いた。


 話を聞いて、あまねは自分がいじめられた経験なんか三四郎と比べたら全然大した事ないなと思った。あんなことで悩んでいた自分がバカだと思った。


 「閉鎖病棟に入ったとき、俺は自分は普通の中学生やないんやなと思った」

 「悲しかったですか?」

 「いや、悲しくなかった。閉鎖病棟に来て妙に腑に落ちた。やっぱり自分は普通じゃないってここに来てはっきりと証明されたような気がした。今まで生きてきてずっと自分に違和感を感じとってん。なんか人と違うなって」

 「人と違うって個性的でいいと思いますけど」

 「それはわかる。わかるで。でも俺はあまりにも人と違いすぎた。そのせいで普通の人より俺はかなり苦労してる。それが受け入れられへん」

 話題が重くなってきた。話を変えることにした。

 「そもそも病気になったきっかけって何なんですか?」

 こんなこと聞いてはいけない気がしたが聞いた。

 「小学校五年のときから中学一年までいじめられてた。そのストレスで頭が暴走しだしたんやと思う」

 「そんなことがあったんですか……」

 「でも本で読んだけど統合失調症って発症する原因が科学的に証明されてないらしい。ストレスが原因って学者たちは言ってるけど。だから理屈で考えてみると俺が統合失調症になった原因も証明されないことになるねん。だからなんで俺は統合失調症になったかがわからんねん」

 

 あらためてあまねはこんな病気があるんだと思った。なんとも言えない気持ちになった。

 「もう帰ろうか」

 三四郎が寂しく言った。

 「はい」とあまねが消え入りそうな声で言った。

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