第9話 真実
「なんであんなことしたん?」
あまねは三四郎と帰りの電車の中で話していた。三四郎はさっきまで交番にいたが、釈放された。あまねはその間交番の外で三四郎を待っていた。
「あまねちゃんが危ないと思ったから」、「守らなあかんと思ってん」三四郎は傷ついた顔で恥ずかしそうに笑った。
それを聞いてあまねはうれしかった。その言葉が聞きたかった。
「三四郎さん、ありがとう」とあまねは心を込めて言った。
電車はあまねと三四郎の最寄駅である美加の台駅についた。
仕事帰りのサラリーマンや部活帰りの高校生や大学生たちでホームは溢れていた。中学生の二人は雑踏の中でその存在は浮いていた。
「公園行こっか」
三四郎が言った。
「はい」
あまねは小さく答えた。
あまねはまだ家には帰りたくないと思った。もっともっと三四郎と一緒にいたいと思った。
二人は公園のベンチに座っていた。お互いの体温がわかるぐらいに近づいて座っていた。
「俺、おかしいやろ?駅でハーモニカ吹いてるなんて」
三四郎は顔を歪ませた。
「ちょっとだけ変やなって思うだけですけど……」
あまねは言葉をにごした。
「俺さ、病気やねん」
三四郎はポケットからハーモニカを取り出して、それを手でもてあそんだ。
「えっ、そうなんですか?」
一体なんの病気だろうか。確かに三四郎の言動は奇特だ。
「俺、トウゴウシッチョウショウやねん。人とちょっと違うねん。普通の人間じゃないねん」
「トウゴウシッチョウショウってどんな病気ですか?」
「統合失調症って言うのは幻聴が聞こえたり、幻覚が見えたり、変な妄想をしたりする病気のこと」
正直驚いた。幻聴とか幻覚があったらヤバいんじゃないか。三四郎は大丈夫なのか。
「大丈夫ですか?てかそんな病気あるんですね……」
「百人に一人はなる病気らしい」
「そうなんですか…病気、しんどいですか?」
「ああ、地獄だ。寝るとき以外はずっと幻聴が聞こえてるからな。男の人の低い声で俺の行動を一つ一つ解説されるんだ。その男に監視されてるんだ。」
一体どういうことなんだ。あまねは言葉を失った。
三四郎はニタニタと笑いだした。そして急に「俺は世間に自分の存在を認めてほしいのかもしれない。ハーモニカの演奏を通して。苦しんでる自分を認知してほしいのかもしれないな」と言い出した。
ハーモニカの演奏で病気は認知されないだろうとあまねは思った。だって論理的に考えて両者は関連しないからだ。でもそれは指摘しないことにした。三四郎の頭な中はきっと複雑なことになっているのだろう。だって幻聴とか幻覚や妄想があるんだから。
「寂しいねん、俺。こんなんなってしもうて……」
三四郎は顔をくしゃくしゃにして泣き出した。頬に涙の筋が伝う。
あまねはなにも言葉をかけられなかった。
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