第7話 ハーモニカを吹く少年
時刻は午後七時。
あまねはお母さんと二人で、夕飯を食べていた。夕飯はとんかつと千切りキャベツ、味噌汁、たくあん、白米だった。
祖母はいつも四時ぐらいに夕飯を食べる。お父さんは帰りが遅くなり、お兄ちゃんはバイトだ。
だからいつもあまねはお母さんと夕飯を食べる。
「あんた、最近、河内長野駅のロータリーのところであんたの中学校の生徒が夕方ハーモニカ吹いてんで」とお母さんがとんかつを箸で持ち上げながら言った。仕事帰りに見たらしい。お母さんの仕事場は河内長野駅にある銀行に勤めている。
河内長野駅とは大阪の南海高野線の河内長野駅のことである。あまねの最寄り駅である美加の台駅から二駅先の駅が河内長野駅だ。
「なんでうちの学校ってわかったん?」
「制服着てたから」
「誰やろ。男?女?」あまねは首をひょいとかしげた。
「男の子やった」
「どんな感じの男やった?」
「それがまあまあかっこいい子やってん」
「誰やろな。でもそんなことするってそうとう変わってんな」
あまねはクスクスと笑った。お母さんも笑った。
「ほんでさあ、その子のブレザーの胸のポケットのところにフランスパン刺さっててん」
お母さんはゲラゲラと舌を見せ笑った。
あの人や、とあまねは思った。
あの人とは宮本三四郎のことである。
なんとも言えない気持ちになったが、明日、見に行って見ようかなと思った。
冷やかしてやろうと思った。
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