第4話 宮本三四郎

あまねに微笑みかけるそのチャラい先輩はたのしそうだった。


「白夜行やん」


彼は言った。


「おもしろいですよね」


あまねはエクボを作り言った。

うまく笑えているだろうか。

なぜかそのことが心配になった。

なぜなら最近はめったに笑うことが少なくなったからだ。


彼はイスに座りいきなり自己紹介した。


「僕、宮本三四郎っていうねん。よろしく。名前なんていうん?」


髪をかきあげながら彼は屈託なく言った。歯並びもよく爽やかなスマイルだった。


「あ、えっと、二階堂あまねと言います」


あまねはそれだけいうと顔がホテてってきた。緊張しているのだ。学校で会話したのも久しぶりだったからだ。


「あまねちゃんかあ、かわいい名前やなあ」


彼はヘラヘラ笑っていた。


一体なにが面白いのだろうか。


そして彼は首の角度をカクカクと何度も変えながら「まあまあな顔やな」と言った。


失礼な人だ。


あまねは三四郎を変わった人だと思った。だから図書室に来ているのではないかと思った。なぜなら図書室というのは変わり者の聖地だからだ。図書室にはありとあらゆる人間が来ている。友達と遊ぶのに協調性のない子、いじめられている子、ただ本が好きな子、女のコの体に関する本が読みたいだけな子、様々だ。


宮本三四郎は顔がカッコいいのに態度と言葉でそれを台無しにしているなと思った。


あまねは三四郎に構わず、読書を続けた。


「あまねちゃん?」

「はい」

「怒ってる?」

「怒ってません」

「じゃあなんで黙ってんの?」

「本読みたいから」

「ふ〜ん」


三四郎は楽しくなさそうだった。


しかしあまねは三四郎が自分に興味をもっていると思った。


あまねはうれしかった。


人と話したのは久しぶりだ。


止まっていた心の鼓動がドキドキと動き出したような気がしてきた。


「宮本さん」

あまねは勇気を出して言うことにした。

「うん?」

三四郎は髪をかきあげた。男子にしては繊細な指から、絹のような髪がこぼれ落ちる。


「あの、しゃべってくれてありがとうございました」


あまねは立ち上がり、ペコリと頭を下げた。


「そんなたいそうな。全然ええで!また話そ!」


短い会話だったが楽しかった。


あまねはじゃあと言って席を離れた。昼休みはまだ終わっていなかったが、人と話したのが久しぶりだったせいか、心臓がドキドキして止まらないので図書室から出ることにした。

ドキドキして三四郎のまえにいるのが耐えられなかった。


しかしあまねはあのまま図書室で宮本三四郎と話がしていたいと思っていた。


三四郎もあまねともっと話したいから「ここにいてくれ」とあまねに言ってほしかった。


そんなことを考えているとあまねはなんだかおかしくて吹き出してしまった。


三四郎は失礼なことを言うが、なんだかあの人間性は好きだ。


廊下から外を見ると透き通るような空の青さだった。それはあまねの心のように美しかった。


あまねは小学生の頃のように軽くスキップして教室に帰った。

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