第2話 図書室

中学一年のときに体が臭くなってからあまねの環境は激変した。


学校では多くの友達に物理的な距離をおかれた。


こんなにも自分の周りから友達がいなくなると思わなかった。


もちろん寂しかった。


消えてしまいたかった。


あまねには価値がないんだと思った。


しかし学校で起こっていることは家族には言えなかった。


なぜなら悲しませたくなかったからだ。


それと同時に自分の悲しい、寂しい、とかいう感情を家族に話すのが恥ずかしかった。


あまねは自分は強い女のコだと自負していたから。


臭くなる前は男のコにからかわれたりしても言い返したりしていたが、今はもうそんな気力はなくなっていた。


「あまねっ!臭いで!」


男のコからそう言われたときは、うっと心にふたをして自分の感情を押し殺し、「ごめん…」とだけ言った。


その男のコはあまねのことをバケモノでも見るような視線をあまねにおくっていた。



中学二年になってからあまねは昼休みになると図書室に行くことを覚えた。


昼休みの図書室はいつも空いている。


あまねは人が多いところだと、自分が臭くて迷惑をかけるから、なるべく人が少ない図書室で過ごしたほうがいいと思った。


教室二部屋分ぐらいのサイズの少し小さい図書室はガラガラだ。


あまねはいつも一番端の席で東野圭吾のミステリー小説を読んでいた。


東野圭吾はあまねのお気に入りの作家だ。


あまねの席の前にはなぜかいつもひとつ年上の男の先輩が座っていた。


けっこうチャラい感じの先輩だった。髪の毛もジャニーズみたいにロン毛にして、少し茶髪っぽかった。


いつもその先輩が廊下とかで友達とふざけ合ったりしているのを見る。


なんかあんまり賢くなさそうで本なんか読まなさそうだが、なぜかその先輩はいつもあまねの前の席で東野圭吾を読んでいた。


なんでその先輩は図書室なんかにいるのだろう。


あまねは少しその先輩が気になり始めていた。

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