　地下通路は非常灯だけで薄暗い。

　彼女はその地下通路をスタスタと歩いて行く。

　廊下の行き止まりにあるドアノブを掴んで勢いよく開けた。

「失礼しまーす、連れてきたよー」

　部屋の照明は壁際のライトとデスクスタンドだけで全体が薄暗い。

　デスクの他に応接セット、キャビネットがあり部屋の奥には別の扉がある。

　デスクでノートPCのキーボードを叩いている男性が顔を上げ

「ちょっと待って」

　と言いキーボードを叩き続ける。

「入って」

　彼女は自分の家のように招き入れ、応接セットのソファに座るように指さす。

　言われるままにソファに座ると彼女はバッグを横に置き、部屋の奥にある扉を開け、ペットボトルのお茶を２本持って戻ってきた。

　１本をテーブルに、もう１本のキャップを開け、立ったままゴクゴクと飲み始める。

「フーッ、一息つきました。見つからないようにダッシュで駅に行くの、大変だったんだから」

　それで駅に着くまで彼女の姿を見なかったんだ。

　デスクの男性がノートPCを閉じて立ち上がり、向かいのソファに座る。

　自分の親と歳は変わらないように見えるが、黒のシャツにレザージャケット、黒いジーンズにワークブーツと、この辺（あたり）ではなかなか見ない大人の格好。

　それよりスキンヘッドに茶色のサングラスを掛け、あごヒゲを生やしている風貌が目立つ。

　「失礼するよ」ポケットからタバコを取り出して火をつけて吸い込み、満足げに煙を噴き出している。

「叔父さん、私の前ではタバコを吸わないでと言ったでしょう？　前で吸うと髪の毛や服に匂いがついて臭くなるんだから」

　叔父さん？　怪しい格好をした男性は彼女の叔父さん？

「悪い悪い。今までちょっと根（こん）を詰めていたから。息抜きをしないとな」

「またゴースト？」

「そんなところ。君がアレを作った人？」

　アレって何？　何も聞いてないけど。

「何でしょう？」

「彼女から聞いてないの？　大学に入ってからの話」

　彼女から聞いたこと？　ってアレのこと？

「『東京で一緒に暮らそう』とは聞きましたが」

　彼女から『叔父さん』と呼ばれる男性は、吸い掛けたタバコを離し『ゴホッ、ゴホッ』と思いっきり咳き込んでいた。

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