第5話
「まあ、それはともかく。君たちに伝えたいのはこれからの活動方針だよ」
「カツドウホウシン」
桜宮が口にした単語を悠飛が顔を歪めながら片言で呟く。
雅哉はピクリと反応したもののじっとしており、その隣で時雨は目を見開いて桜宮に問う。
「活動方針って具体的にどうするんですか?」
「ああ、それはね……」
「少し待ってください。言わないでください」
コイツは何を察したんだ。
普段は黙って聞いている悠飛からの早口ストップに他の四人は「え」と小さく驚きの声をあげる。
悠飛は胃のあたりを抑え、深呼吸をした。
その様子に桜宮がなんとも言えない表情になる。
「悠飛くん、いいかな?」
「……どうぞ」
悠飛の許可を得て神妙な面持ちのまま桜宮は話を再開する。
「実は、結構前から上がってた話なんだけど。ギャップで売らないか?」
シーン
訳が分からないというように固まったままの四人に桜宮は補足を始める。
「えーっと、つまりね。君たちは本当の性格とキャラの違いが大きいでしょう?だから、そこを上手く使ってやってかないかっていう話でね……」
「はああああああああああっ!?」
「しゃああああああああああっ!」
対照的な悠飛の悲痛な叫び声と雅哉の歓声が我慢出来ないというように響き渡る。
桜宮と悠太は驚いたように肩を揺らし、時雨はやっぱりという表情を浮かべた。
フラフラと部屋の端まで行って頭を壁にぶつける悠飛を横目に時雨は額に手を当てた。
「あーあー。それにしたって突然ですね、桜宮さん」
「確かに突然なんだけどね。さっきも言ったけど前からこの話はあったんだよ。というか、このままいくと確実に悠飛くんが倒れるでしょう?」
「まあ、その通りですね」
桜宮の正論に時雨は思わず天を仰ぐ。
実際にストレスで数ヶ月前に悠飛は体調を崩したばかりだ。
その横では雅哉が嬉々として悠太に仕事の話を持ちかけていた。
自由すぎる雅哉に時雨はもう一度遠い目になりながら伸びをした。
「私も悪女キャラとか疲れたしこれからは好き勝手やらせてもらおうかな」
時雨の呟きに桜宮はギョッとして首を傾げる。
「好き勝手って何するの?」
「……パッとは思いつきませんけど取り敢えず悪女キャラはもうやりたくません」
一瞬突拍子もないことを言われると思った桜宮は時雨の言葉に安堵する。
容姿、歌、ダンス……様々な点から事務所でも優れた三人を寄せ集めて出来たのが「Prolog」というグループだ。
天才タイプの雅哉は自由人で突拍子もない。
努力家タイプの悠飛は実力の割に自己肯定感が低い。
中間にあたる時雨はと言えば、上手く二人をまとめあげる、何気に一番分からない人物なのだ。
まともだが、何をしだすか分からない。
三人の中でもいつも扱いに困るのは時雨だったりする。
「いやぁ、これは忙しくなるぞ」
そうとも知らず時雨はグループのメンバー二人を無視し、あははと空元気に笑うのだった。
ビジネス不仲は結構面倒 波野夜緒 @honcl
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