第3話
しゃがみながら驚いて質問する時雨に悠太は一人残された悠飛の方を指す。
そこには悠飛ともう一人、黒髪に細身の女性がおり、時雨と雅哉はキョトンと顔を見合わせた。
女性は悠飛の腕に自らの腕を絡めるとニヤニヤ笑いだした。
「あ、悠飛くぅん。今夜空いてる?」
「いやー、ちょっと空いてないんすよねー」
悠飛の取り繕った笑顔と対応に三人は自動販売機の陰から絶対最後まで見学しようと心に誓った。
悠太の手を外し、雅哉は口を開く。
「アイツのキャラは面倒だな」
というのも、悠飛の容姿は女性をすぐ虜にすることで有名だ。
それにプラスして仕事では人当たりのいいキャラを演じているため共演者キラーと評判なのだがそれが凶と出ることが多い。
彼に関係を迫る女性の中には既婚者もおり、過去に泥沼になった経験は一度や二度じゃない。
そして、それを防ぐためにサポートしつつも泥沼になったらなったでドラマ感覚で楽しみ、なんなら実況を始めるグループのメンバーとマネージャー。
「あれ、清楚系女優のナントカさんじゃん。新婚だった気がするんだけど。そーえば、この間兄さんと遊んでたな……。旦那さんに動画撮って今度見せようかな」
「すごいな。確か三十代そこそこのはずなのに堂々と二十代前半の男と浮気しようとしてるぞ、あー……ナントカ女優。あと、旦那連れてこい」
「二人ともすごい失礼だね。あと、好奇心で目が輝いてるよ」
コソコソと失礼なことを言いまくる二人に悠太がツッコミを入れるが、彼も口ではこう言いつつ楽しんでいたりする。
とはいえ、飛び抜けて整った容姿の時雨と雅哉の場合、いくら女優と言えど霞んで見えるためしょうがないのかもしれない。
悠飛という真のツッコミ不在で会話は進んでいき、女優のナントカの行動も少しずつヒートアップしていく。
素が出かけている悠飛の表情に時雨の少ないの良心が痛んだ。
流石に少し可哀想かもしれない、と。
グループのリーダーであり幼馴染でもある青年を見つめ、時雨は仕方なく立ち上がった。
「二人とも。最後まで見学できずに乱入したいと思ってしまった私を許せ」
「悠飛を助けるんじゃなくてただ単に乱入したいっていうのが時雨らしいね」
「え、ちゃんと助けるよ?私そこまで良心がないと思われてるの?」
「しょうがない。行け」
二人から出た許可に時雨は解せぬと心の中で呟きつつ、わざとヒールの音を鳴らし笑みを深めた。
突然の登場に悠飛は遅いと言わんばかりの恨みがましそうな顔で、女性の方はギョッとしたような顔で時雨を見た。
「あら、こんばんは。うちのグループのリーダーに何か御用かしら?」
「み、美神さん。こんばんは」
青ざめる女性と時雨は反応を伺いながら世間話を始める。
その様子を自動販売機の陰から引き続き見学している雅哉と悠太は女性にエアー拍手を送っていた。
「時雨の必殺・精神抉りを受けても逃げ出さないなんて肝が据わってるな」
「逸材だよ、ナントカさん」
ここに悠飛がいたら「名前くらい覚えてろよ」とツッコミを入れるのであろうが、何度も言うが現在はツッコミ不在だ。
そして、時雨の攻撃は続く。
「兄とこの間共演されていましたよね?演技力が本当に高くて……驚きました。勿論、その後のプライベートでも、ね?」
時雨がスマホを取り出し、女性に突きつける。
「なっ、なんでそれを……」
それを見た女性の顔色が青から白に変わっていく。
おそらく今の言葉がどういう意味か理解したのだろう。
不憫だなと思いつつ悠飛は小さく息を吐く。
女性の旦那には撮影でお世話になった経験があるためなんとも言えない複雑な気持ちだ。
「ふふ、バラされたくなかったら……早く彼から離れてくださって?」
「は、はい……」
真顔の圧にずりずりと女性が後ずさるのを確認し、時雨は何事もなかったかのように明るく笑う。
「では、私はこれで。ナン……貴女、顔色が悪くて体調が悪そうですもの。ここで長らく引き止めるのも申し訳ないですし」
「そ、そうですか?で、ではさようなら!」
時雨の悪意ある攻撃が効いたのか女性は逃げるようにその場を去った。
ナントカさんと言いかけたのは相手が気づいてないため、気にすることも無い。
何はともあれ、流石国宝級イケメンランキングに殿堂入りしている兄と叔父を持つ時雨の顔面の破壊力は並じゃない。
やろうと思えば顔だけで女性を泣かすことができるレベルだ。
まあ、一番敵にまわしてはいけない部類の人間である。
そんな時雨は女性が去ったのを見て自動販売機の陰にいる二人に話しかける。
「もう行ったよ。帰ろう、悠飛の家に」
「は?お前、俺の家を自分の家だと勘ち……」
「そうだな。帰るか」
「帰ろう帰ろう」
「聞けよ!」
そんなやり取りをしながら四人は帰って行った……悠飛の家に。
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