第2話






私の名前は不知火 百合。不知火はそのままシラヌイと読むが、百合の方はユリじゃなくてリリ。つまりカタカナで書くとシラヌイ リリとなります。


父と母から聞いた話によると、不知火の方は父の家名だがリリは母の種族であるサキュバスからリリスの意味と百合のようなキレイな女の子になって欲しいという二つの意味を込めた名前らしい。結構かわいい名前だし、ちゃんと私の血統を示す名前にもなっているので結構好きなの。



……え? サキュバス?



あぁそういえば普通に生活していれば馴染みのない言葉でしたね。少々お時間いただきまして説明させていただきます。



古来より、悪魔や妖怪、そういった化け物の伝承は各地で伝えられています。本の中に存在する単純な一文から壁画に描かれる禍々しい常軌を逸した生物たち。現代を生きる私たちからすれば、科学の発展もあり、単なる与太話と判断するはずです。


でも、少し疑問に思いませんか? 単なる文章だけならまだしも、絵画や石造に象られる化け物たち。アレを何のヒントもなしに思いつくことができるでしょうか? 全く見たことのない生物たちをあれほど正確に、また生き生きと表現することができるでしょうか?



答えは、否。


あの作品たちを描いた方々すべて、彼彼女たちは実際に本物を見ているのです。




そう、怪異は存在します。



ただ、その存在を理解したくない、理解できない方々がそう叫んでいただけ。人々は自身の精神の安寧を維持するために信じなかっただけにすぎません。


信じられない? ならこの私がいい例でしょう。私は母がサキュバス、父が人間の所謂ハーフと呼ばれるもの。怪異と平穏が生み出した結晶となります。母からサキュバスとしての容姿と魔力を受け継ぎ、父からは人としての感性と寿命を頂きました。


ほら、私の容姿をよく見てください。戸籍上は日本人の両親を持つ私ですが、発育がいいでしょう? 髪色も魔の赤い月を表す紅。普段は隠蔽の魔法で隠してはいますが、人ならざる者の証であるヤギのような角と腰から生える悪魔の羽。これでもまだ信じられませんか?




ふふ、信じてくださってありがとうございます。



……え? なぜまだ人間が滅びてないのか、ですか? 本当に怪異が存在し、神話や伝承にある化け物たちが本当に存在しているのなら人間はとっくの昔に滅びているはずだ?


なるほど、確かにそう考えるのも無理ないかもしれません。確かにあなたは見たことが無いかもしれませんが、よく物語に出てくるゴブリンやオーク、ミノタウロスやドラゴンなどの怪異は存在しますし、伝承に残されている強さと同等、またそれ以上の力を持っている方々も多数いらっしゃいます。


それが何故人間を滅ぼしてないかと言うと……、単にその理由がないからです。


怪異によっては人間の感情を食べたり、私たちサキュバスのように男性から頂くような種族が存在しますし、物を食べずに生活できる種も多くいます。また人間側も滅ぼされることを危惧して組織だった行動をしていると聞きますし、そんな組織は思っているよりも多数の怪異に対する対抗策を持っていたりするものです。


それにたまぁ~に私の父のような怪異を超える存在の人間が出てくることもあるみたいですから安易に手が出せないみたいなんですよね。ま、たまにそれを忘れて突撃してくる輩もいますが……。





ま、長々と話しましたが私、不知火百合はサキュバスと人間のハーフになります。





そんな人の感性を持ちながら女性としてほぼ最上の魔の美を母から受け継いだ私にも悩みがあるのです。えぇ、怪異として最上の美と魔力を持つサキュバスの女王である母の娘でも、私は単なる高校生。悩みの一つや二つ存在しておりますとも。





その悩みは…………、







私のパートナーである昇くんがハーレムを拡大してくれないのです!!!







そう! 運よく私と同じクラスになった同級生の鈴夏 昇くんです! 彼とは家が隣と言うこともあり幼い時からずっと一緒に居ました。やさしく、誠実で、礼儀正しくて、顔も私好み。まさに最上の男性。私のパートナーになってくれる人! うふぇ、考えていたらよだれが……。


いえ、すみませんね。そんな素晴らしい昇くんですが、もっと素晴らしいこともあります。そう! 男性としての雄の部分も最上だったのです! まさに天啓! サキュバスの血が流れる者としてそういった下の関係は避けられない命題です! 自分が好きな殿方が、そっちでも最上だと知れば……、後はもうわかりますよね?


先日、と言っても中学を卒業した後ですが色々と楽しませてもらったので間違いありません。本っ当に素晴らしかったです。マーラ様に感謝のキスをささげたいぐらいの物でした! ほんとは母が勧めてくれたように始めての月ものが来た後に食べてしまう予定でしたが、母と私で画策していた計画が父に発覚。『サキュバスとして仕方ないのかもしれないが、さすがに見逃せん、というか早すぎ。あちらの親御さんにも申し訳が立たないし、昇君のことも考えなさい。』と、怒られてしまったので今まで固唾をのんで待っていたわけです。ホントは成人まで待つように言われていたんですけど……、テヘッ! 破っちゃいました!



ふむ、確かにあなたの言う通り普通なら自身の彼氏にn股、浮気をしてほしいと考えるのはおかしいのかもしれません。まぁ私のサキュバスとしての血がそうさせるのかもしれませんが……、あんまりそういった束縛は好みじゃないのですよね。どちらかと言うとこの素晴らしいオスをもっと他のメスに知って欲しい。といった感じでしょうか? それに誰かが独り占めしようとしたら私の魔法で焼き殺してあげますので安心です。


……あと、恥ずかしい話になるのですが、昇くんのアレが逞しすぎて……、サキュバスの血が入っている私でも全部受けきれないんですよね。頂いたお情け全部魔力に変換したとしても両方ともパンクしそうになるのに昇くんの息子さんはまだまだ元気いっぱい。サキュバスとしてはありがたい話なのですが、ちょっと困っちゃう……。




まぁそんなわけで私の同志ともいえる新たなハーレムメンバーを探しているのですが……、昇くんが一向にOKしてくれないのです! よさそうな人を発見して紹介したとしても『僕は百合ちゃん一筋だから。それに紹介してくれた子にも浮気前提な人が相手なんて嫌でしょ?』と正論で殴ってくるのです!


う~ん! カッコよ! さすが私の旦那様! 運動会の最中も私の体力のこととか! 魔力がパンクしてないかとか色々気にかけて私が無理しないようにしてくれる紳士! そんなやさしいとこに私は惚れたのですよ! これでもっとメンバーを増やしてくれればありがたいんですけどねぇ……。





あ! でもでも今日! よさそう人を二人も見つけちゃったのです! 家の外でするときはいつも人払いの魔法と認識阻害、隠蔽の魔法とかを色々張っていまして、ちょっとお腹が減ってしまったので放課後の教室で昇くんにおねだりして遊んでいたところ……、なんとそれを通り抜けて教室を覗いてきた方々がいたんですよ!


二人とも同じクラスの人で翠野さんの方は何故か避けられているせいでよく知りませんし、こちらからコンタクトを取る前に教室から去ってしまったのですが、その後にやってきた桃川さんは最初の自己紹介で軽くしゃべって人となりぐらいは解っていました! とても元気溌剌な方でしたし、私たちのプレイを見て顔真っ赤にしながら目が離せないという感じでしたので興味はあるはず! しかも私と違って一部が控えめな方ですので昇くんも味変が出来て楽しいかと思い誘ってみたのですが……、何故か逃げられてしまいました。


翠野さんはよく解りませんが桃川さんはおそらく周りに言いふらしたりすることはないでしょう。まぁもし言いふらして学校生活がしづらくなるのなら魔法で記憶いじればいいだけですしね! うん。また今度機会があれば誘ってみましょう! 昇くんは相手の方を気にかけて正攻法では頷いてくれそうにないのでもう既成事実作ってしまえば何も問題はないですね!








 コンコン!



おや? 誰か来たみたいですね?



「少しいいかい、百合?」



「あ! パパ! 開いてるよ~。」



「……はぁ、すまないが出てきてくれるかい?」




? どうしたんだろ? ……あ! そういえば今日からパパとママは海外出張で当分留守にするんだった! てっきり忘れてた~。お見送りしてくれ、ってことかな?




「は~い。どうかしたのパパ? もう出発するの?」



「まぁそれもそうなのだけど……、父と言ってもあんまり異性を簡単に部屋に入れるものじゃないよ、百合。これから一月近く家を空けるのだし、特に昇くんに迷惑かけないようにね。」



「う、うん。解ってるよパパ~!」




ま、マズい。もしかしてバレてる? ママはできるだけ早くしてほしいみたいな感じだったから初めての後は報告しに行ったけどパパはそういうのお堅いんだ! 成人するまで我慢するって約束しちゃったし……、怒ると怖いし……、とりあえずごまかさねば!



「そ、それよりも! 今回行くのはヨーロッパだっけ?」



「うん? 言ってなかったけ? 今回はルーマニアの方に行ってくるんだよ。何でも吸血鬼の奴らがまた揉め事を起こしそうな感じみたいでね……、一応母さんと一緒にお話し、もしくは制圧に行ってくるわけだよ。」



「へ~、そうなんだ。」



まぁ私、サキュバスを母に持つくらいなので私たち家族も普通じゃない。パパは怪異側が人間に関わり過ぎないようにしたり、人間が怪異側にちょっかいをかけるのを防いだりする仕事をしている。たぶん今回もその口だろう、……でもいつもならパパだけで行く感じなのに今回はママも一緒に行くんだ。




「あぁ、確か串刺し公爵だったか? その方と母さんが知り合いみたいでね。ちょうどその地域の吸血鬼のまとめ役が彼らしく、ついでに挨拶しに行くみたいなんだ。」



「なるほど~、んで~? 解決したらそのままお二人でラブラブデートってわけですかぁ?」



ちょっと気恥ずかしいこともあるけど、パパとママはずっとラブラブだ。昇くんとそういった関係になりたいぐらいの目標でもある。



「ははは、揶揄ないでくれ。……あ、それとパトロールのことだがちゃんと装備を付けて、前に渡した緊急用の宝玉をちゃんと持って行くんだぞ? 私たちは海外にいるからすぐには向かえないし、最近この辺は大人しいから大丈夫だと思うが……、危険を感じれば昇君と一緒にすぐ逃げなさい。」



「うん、解ってる。それに昇くんも最近戦えるようになってきたし大丈夫!」



パトロール、というのは怪異側を見回るのではなくどちらかというと人間側を見回る物。まぁ一応怪異側も見るっちゃ見るのだけど……、最近ネットの怪奇現象とかで話題になって命知らずの馬鹿がマジもんの怪異に突撃したり、怪異を悪いことに利用したりする人もいる。


大体は怪異に食われて終わるんだけどたまに全部吸収したり、変な共存体系を取ったりするのもいるから……、ま、一般の方に問題が行く前に解決してしまおうというわけですね。最初はパパのお手伝いだったけど力あるものの義務と言いますか、ハーフの存在証明と言いますか……、そんな感じです。


それにしても私が危険に飛び込んでいるのを知って自分も戦い、私を守れるようにパパに修行を付けてもらっている昇くんのことを考えると……、たまりませんなぁ。




「そうか……、じゃ、そろそろ出発しないと飛行機に間に合わないな。じゃ、行ってくる。」



「あ、うん。玄関まで見送るね。……ソノ、ガンバッテクダサイ。」




私は玄関から出て車の運転席に乗っていく父を、片言で見送った。助手席に座る母から『私も頑張ってくるから、百合ちゃんは昇くんと楽しむのよ!』みたいな感じでウインクを頂いた。そういえばこの前ママから『そういえば百合ちゃん、弟と妹どっちがいい?』って聞かれたような……、あ、うん。


まぁ半端者の私と比べれば本物、しかもママはその最上級に位置する女王だ。そのサキュバスパワーは私と比べ物にならないわけで……、私はゆっくりと発進する父の車にゆっくりと手を合わせることしかできなかった。



南無南無。



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