TS美少女は世界の判別に苦しむ

サイリウム

第1話


「~~~~~~~~!!!!!」



廊下まで響く甘ったるい声。あと一秒声が聞こえるのが遅ければ普通に『コンニチハ!』してしまいそうだったのでギリギリセーフである。いや風紀的に全くセーフではないが!


幸いなことに見渡す限り廊下は私以外の人影はなく、教室内で盛り合っているクラスメイトお二人が今いる場所がそういうホテルでなくて学び舎であること以外は大丈夫であろう。


こちとらそういうのに理解がある人間だ。伊達に見た目以上生きてはないのでこのことを広めたりするような畜生でもないし、男性のお相手さんは我慢するのが厳しい恵体である。若いしそういったことに無茶苦茶関心があるお年頃なのは理解できるのでそれはいい。それはいいのだけど……



問題は私がいる世界の方向性を理解しちゃったんですよね……。



高校のうっすい壁向こうにいらっしゃるお二人はいかにも、って感じのさっぱり系イケメンと赤髪のグラマラス、問言葉を超えた普通日本人ではありえないような凹凸を持つ少女のカップル。向かいましてはその壁の向こう側。こちらに居ますはわたくしでございます。


ちなみに留意していただきたい点にわたくしも女性で胸部装甲が日本人にしてはかなり盛られておりまして……、髪が緑色。しかもツインテールなんですよね。


しかも先日出席した入学式に後何人か無茶苦茶目立つ髪色の子いたんですよね! 周りの男子女子大体黒や茶なのにピンクとか! 真っ赤とか! 明らかに染めないと出ないような色を地毛でやっているんですよね! あと私もそうなんですよね!




もう、おわかりですよね?




「この世界、明らかにR18じゃんか……」




なお、注意書きとしておそらく私も攻略対象に含まれている、という地雷アリ。



やってられっか、こんなクソゲー!






 ーーーーーーーーー




おそらくどの世界に行ったとしても校長先生の話は長くてつまらない。ちょうどい睡眠時間であるなぁ、というのは同じであろう。


たぶんだが記憶が戻る前の私もそうだったのであろう。


入学式と意気込んだはいいがテンション高めのせいで少し疲れてしまった。そこにちょうどいい睡眠時間がやってきたためこれ幸いと飛び込んでお休みしてたらこれだよ。



なんで目が覚めたら前世の記憶が戻ってるんですかねぇ?




こういう物語のはじめ!って感じは肉親を失った時のショックで……、とか階段から落ちて頭を打って……とか、高熱にうなされて……とか、暴走トラックに襲われて……、イヤ最後は異世界転生行きだな。


目が覚めたら戦国時代にタイムスリップしちゃいました! みたいな感じで内心大慌てのわたくし、長々と続く校長先生のお話、興味無さそうに聞くor夢の国に飛び立つ生徒たち。うんカオスですね!




まぁいつまでも錯乱していても何も始まらない。現状把握に努めると致しましょう。



私、翠野いすず! 都内に住みます今日から高校生のピカピカ乙女! 先ほど前世の記憶を思い出したおそらく転生者ってやつでさぁ! 思い出した感じ前世の記憶とこれまでの記憶全部思い出せる感じで、前世思い出す前の行動を振り返っても『あ、これ俺絶対する行動やん』ってものばっかり! 多分意識とかは地続きで憑依とかそういうのではないと思う。まぁ私が生まれた瞬間に元々あった意識が塗り潰されてしまったかもしれないので言い切れないけど……、まぁ面白おかしく真っ当に人生を楽しむのでそうならば許してほしい。


前世はどこにでもいる男性で趣味はアニメ漫画などのサブカル系。最後の記憶は年齢28の時で仕事してる情景。仕事はきつかったけど別にブラックとかではなかったので単に運が悪くて死んでしまったのだろう、若くして死んじゃったから神様が転生させてくれた感じですかね? 前世含めて今まで神様なんて見たことなかったし、無宗教だったんだけど転生させてくれたお礼をどっかにしないといけませんかも?


んで、今世はさっきも言ったけどニコニコ乙女! TSですねぇ! 使わずに置いておいた大事な息子君はお亡くなりになってしまいましたがこれはこれで……、記憶にある鏡で見たお顔は結構かわいいですし、前世で同級生だったら玉砕覚悟でアタックするぐらい。体も『親ホントに日本人か?』って思うぐらい出るとこ出てて引くとこ引き締まってますし、髪色も緑色なんでアニメとかで出てきそ………




って緑!?




今世、というか前世も好きだったのでその影響でハイのツインテールで腰までかかる自慢の髪をひっつかんでまじまじと見る。うわホントに緑やん……、しかも光沢がある感じの鮮やか緑やん……、えぇ?? 私染めてんの? いや今のママの髪色も緑色だから遺伝なんだろうけど……えぇ??


ち、ちなみに私以外の髪色ってどんな感じなんですかね? わ、私だけ場違いな色とかじゃないよね? 私が転生した世界髪色カラフル世界だよね? ゲーミングしてるよね?



今世の記憶を漁ればいいものを半ば現実逃避するように周りを見渡す。



左隣、黒。

右隣、黒。


前、黒。


もっと見回して、黒、黒、茶、黒、黒、茶、赤、黒、茶、黒、黒、青、黒、黒、黒。


前をよく見て校長先生、……カツラ。




あぁ、校長先生結構頭髪気にしてるのね……、でもちょっとズレてるからバレバレなんだよなぁ……




というか今変な色なかった? 赤とか青とか明らかにヤバい色合ったよね?


今度は主張が激しい髪色を探すとしまして……



私の何列か前に赤色髪、制服から見て女子。違うクラスに青色髪、こちらも制服から見ておなご。あと今の位置からは見えないけど入学式を行っている体育館に入るときに見かけたピンクの髪色。前世思い出す前に確か『可愛らしい髪色だなぁ……、女の子だし仲良くできるかな?』って思ってたから合計三人。


皆さん女子で、しかも特徴的な髪色。あとなんか色が際立つような光沢でてるてるですやん、てるてる坊主ですやん! よくアニメとかでよくある背景モブと主人公orメイン格キャラを識別するためによくある色分けですやん!




「え~、では。校長先生のクッソ長いお話も終わりましたんで! 次は在校生徒代表として生徒会会長の挨拶です。ほらみんな起きてくださ~い!」





うわ、校長先生かわいそ……、いや確かに長いしつまらなかったけどそこまで言わんでも……、校長先生涙ぐんでいるし、もしかして先生方からいじめられてんのかな……。



そんなことを考えながら視線を前に移す。


ピンと伸びた姿勢。卑しすぎない程度に盛られた女神のごとき胸部装甲。所作からにじみ出る品の良さ。男だったころにすれ違えば必ず振り返っていたであろう容姿。見るからにお嬢様な方が生徒会会長として挨拶をするために壇上に上がっていた。


校長の長い話に眠っていた生徒たちが起床しだし、お立ち台に上がろうとする彼女を見て感嘆を思わず漏らしてしまう新入生たち。その声の大半を占めるのが男性だったことで、そういえば私が入学する学校共学だったわ、と思い出す。



私? もちろん声出ちゃったよ? だって……




「金髪縦ロールじゃん……、初めて見た……。」




昨今のアニメや漫画で他の髪型に淘汰されつつある金髪縦ロール。その形どうやって維持してるんですかと聞いてみたい髪型がそこにあった。



うっわ、マジかよロールですよロール! 初めて見たよコレ! うわヤッベ! リアルで見られるとかマジヤバ谷園! しかも昭和なロールじゃなくて完全にイマドキファッションに適応したビューティフルロールじゃん! うわ何本ロールしてるんやろ? 見た感じ後ろまできっちりやん! 触ってみてぇ……!




「新入生の皆様。ご入学おめでとうございます。生徒会にて生徒会長を務めます“土御門 グレイス マーガレット”と申します。まぁ長いのでマーガレットとお呼びください、以後お見知りおきを。また、この場を借りましてわたくしの父であるこの学園の理事長に変わりましてご挨拶させていただきます。本学園は……」




おぉ……! 名前的に外国人風なミドルネームあるしもしかしてハーフ? いや正直髪色とかで判断できないから体系とかで判断するしかないけど明らかに日本人体形じゃない! 凹凸が激しい! しかも理事長さんの娘ってことですし一人称『わたくし』ですわよ! お嬢様ですわよ! 性癖集めすぎですわよ! 青少年の情緒ぶっ壊れてしまいますわ~~!






ふぅ、落ち着いた。



とりあえず、今ある情報だけでどんな世界に転生したか考えてみよう。自分の顔やストーリーの目玉になりそうな生徒会長の顔は前世の記憶を漁っても登場する作品はなかった。つまりそういう元ネタがない、もしくは私が知らなかった世界である。


なのでどんなジャンルか考えてみることにする。




主要人物全員女子で、年は高めだけど高校生。明らかに違う髪色でうまく重ならないように分けられている。しかも私含めて5人もいるぞい!



……もしやこの世界。女児向け美少女ヒーローの世界か!?



こういう美少女ヒーローもののお話って大体中学生がメインだけど、小さいお友達以外に大きい大人のお友達を購買層にするためにキャラたちの年齢層を引き上げたと考えればつじつまが合う!



え、何? もしかしなくても私の髪色から主要キャラクターだよね!? 緑だから三番目か四番目ぐらいに加入する色だよね! ということは私も変身して戦ったりするの!? うっわマジでワクワクするんだけど! なんか額からビームとかハート形の光弾とか出して戦うんでしょ! もと男として少しばかり恥ずかしい気持ちあるけどでもやってみたくね! やってみたいよね!


いや異世界転生とかもいいんだよ? ほら剣と魔法使ってチートしたり、世界救ったり、冒険したり、ハーレム作ったりするのええやん? 解るで、解るんやけど……、やっぱ変身ヒーローには敵わんよな! 全ての男の子夢なんだよ、変身して怪人怪獣と戦って人知れず世界の平和を守るため戦っていく姿! くぅ~~っかっこいいねぇ! 痺れるねぇ! 意気だねぇ!




「……では、私からはこれで以上とさせていただきます。」




おっと、妄想してたらいつの間にか会長のご挨拶が終わってしまいましたな。う~む、お声も素晴らしい透き通った感じでしたのでもうちょっと聞きたかったんですけど……ま、この髪色的に会長も主要人物だろうし今後会うこともあるでしょう。仲良くなったら縦ロール毎朝どうやって整えてるか聞いてみヨット!




「はい、では~。お次に新入生代表挨拶ですね。お願いします~。」




新入生の挨拶ということで私が座っていた列の先頭から返事が聞こえ、例の赤髪の女性が立ち上がる。ほへぇ、あの人新入生代表だったんですねぇ。こういう挨拶って大体主席入学者がやるもんですし赤髪の子頭賢いのですね。……え? 私? 真ん中らへんですよ? 入学した高校一応進学校の私立なのである程度の学力はあると思うんですけど……。ま、記憶は戻ってなかったけど、今世の趣味も漫画とかアニメだとかのサブカル方面ですし、出来るだけそっちに時間割きたいタイプなので決して真面目な生徒じゃありませんぜ。


因みにわざわざ勉強して私立高校受験に挑んだ理由はこの学校が家から近かったことと制服が比較的可愛かったのが理由。中学はセーラー服でこっちはブレザー。前世も今世もセーラー服はそこまで好きじゃなかったですし、もうちょっと遠くにある公立高校もセーラー。頑張って勉強してこっちに入ろうと思った私、慧眼でしたなぁ。


お、そうこう考えている間にいつの間にか赤髪ちゃんが壇上に立ってますね。校長に生徒会長のお話両方とも聞き流しちゃったんですからこれぐらいはちゃんと聞きますか。もし同じクラスだったら代表挨拶の話から会話弾むかもしれませんしね!



そんなことを思いながら壇上に目を向ける私。間に入ったのは……、これでもかと盛られた胸部装甲だった。




「でっっっっっっか……」




私がつい口から洩れてしまった言葉。たぶん壇上に立つ彼女を見た人すべてがそう思うに違いない。いやマジでデカいなお前さん。髪色は鮮やかな赤髪でお目目パッチり凛々しいお顔。んで作画班の性癖じゃないとおかしいぐらい盛られた胸。ちゃんと引き締まったお腹にしっかり肉がついているお尻。まさにボンキュッボン、いやボカンキュッボンだなこりゃ……。絶対男子の中で家帰ったら夜のお供にする奴いるぞあれ。




「新入生代表、“不知火百合”! 新緑が日に鮮やかに彩る季節となる中、私たちは今日この“聖デメトリオス高等学園”の門をくぐりました。真新しい制服に……」




なるほど、『しらぬい りり』ちゃんって言うんですね。名前から見るに会長さんみたいに海外の血が入ってない日本人なんですかね? まぁ名前だけじゃ決められないですけど日本っぽい名前なので日本人と仮定しましょう。


……いやホントに日本人か? 私も出るとこ出てて引っ込むとこ引っ込んでるからあんま言えませんけど! 親族に海外の血なんか混ざってませんけど! いや典型的寸胴体系を持つ日本人にその体系はなんかもうおかしくないか! というか西洋人の体系としてもちょっと出過ぎじゃない胸! ほら横に座ってる典型的日本人女性の体形、というかまな板を持つ女の子憤怒の形相で前睨んでるよ! 明らかに敵視してるよあの胸部装甲! でも私も敵視されそうなぐらいあるので何も言えないんですけどね!






ん? ちょっと待てよ? もう一度髪色が派手派手な私たちを確認しなおしてみよう。


まず私。胸部ありで顔もヨシ。アニメに出てくるような緑髪ツインテール。


次に会長、土御門 グレイス マーガレット。……もう長いからマガちゃんって呼んじゃえ。金髪縦ロールの絶滅危惧種でお嬢様キャラという人気出そうな美人さん。


三つ目に赤髪ちゃんこと不知火さん。46㎝二連砲塔持ちで若干外にはねる天然パーマ風の赤髪美人。


四番打者にピンク髪の女の子。こちらは比較的起伏の乏しい、というか希少価値をお持ちのおにゃのこ。


最後に未だ後ろ姿しか見えない青髪の人。ストレートヘアーでなんだか和風な雰囲気を醸し出している。





…………これさ、普通に考えれば美少女攻略ゲームじゃね?



場所学園だし、共学だし、かわいこちゃんもいっぱい。んでいろんな趣味嗜好に合うようにお嬢様にツインテ、ダイナマイトにおチビちゃんに和風キャラ。しかも一部幼児抜け作品群に相応しくない盛り付け方が存在している!


明らかにこの中から一人若しくは複数人選んで男女の仲発展させてスチルたくさん回収しましょうねぇ! なゲームじゃねぇか! くそったれ!


そうだよね! 普通変身ヒーローとかありえませんよね! 学校にテロリスト来ないかなぁ……とか、式の最中に巨大ロボットが侵入してこないかなぁ……とかのレベルといっしょですよね! 厨二病末期患者の妄想ですよねこんなもん! 普通に考えたら美少女ゲームだよコレ!


私が記憶戻したタイミングもある意味解るわ! だって入学式と言ったら物語のはじめですもんね! んでこの新入生の中に主人公君がいるんですよね! 顔見せのために赤髪ちゃんと会長さん出してこの部分プロモーションビデオで出せば購買者増えますもんね! だってみんなでかいの好きだもんね! 好きじゃなくてもインパクトあるもんね! 記憶残るもんね!






いや、マジか。私攻略されんの? 部外者から人の恋愛や男女の関係性の構築見るのは嫌いではないんですけど当事者はちょっとご遠慮いただけると……。しかもこちとら前世の記憶復活したばっかりなんでその整理もしたいですし、もと男なのでそういった恋愛はちょっとご勘弁なんですよね。


元々自分が関係してくる恋愛には全く持って興味がなかったみたいですし、前世男の属性が追加されたせいでちょっと困ると言いますか。あ、別に単なる遊び相手としての男友達なら大丈夫だと思います。






にしても攻略されるキャラでそれがTSしてるツインテ美女か。普通にゲームとしてアリだな。元男性としての記憶と価値観を持っているせいで精神がぐちゃぐちゃになっているところを主人公君が行くりと友達になっていって……、それでいつの間に女性側も一緒にいて楽しいLikeから、恋愛対象としてのLoveを知っていく過程……。



うん、当事者じゃなければ面白いでしょうね。やられる側はたまったもんじゃないですが!





まぁでもそのこの世界の主人公がどんな奴か知らないですしお寿司、前世の記憶戻ったばっかりなのでその整理もしたいですし、今のところは普通の高校生活を楽しむ感じでいいですかねぇ? 多分この世界が美少女攻略ゲームなら主人公君がラッキースケベなんかするでしょうし髪色が周りと違う方々を注目していたらある程度解るでしょ。それに私の予想が間違っている可能性もあるでしょうし、今のところは静観が正解ですね。







 ーーーーーーーーー




と、思ってた時期が私にもありました!



時期というか数日前なんですけどね!




入学式から数日後で各教科のガイダンスだとか部活動の勧誘とかが活発になってきた4月上旬。桜がそろそろ花びらを落として葉桜に変わろうかという時期。たまたま自身の教室に明日提出の宿題を忘れてしまったので帰宅途中にUターンして帰ってきたわけですよ! この宿題数学の宿題で結構量あるんで明日の朝にやるわけにもいかないですし、入学して早々『宿題忘れました!』なんか言いたくなかったので帰ってきたんですよ!



そしたら何ですか一体! 中にいる御両人に気付かれないようにこっそり伺ってみれば例の赤髪ちゃんと主人公らしき男性がパーリナァイしてるじゃねぇですか! そういった異性不純交遊項目は成人してからとユアマザー&ファザーに教えてもらわなかったのかい!? そもそも学校の教室で夕日見ながらプロレスすんじゃねぇ!



そんなことよりもマズい! マズいよこの状況! いや確かに今この状況は爆弾処理で切るコードの色間違った時よりもマズいけど一番ヤバいの私が置かれている状況!


入学式の時に考えてたけど私ら数名の髪色異常チームって明らかに主要人物だよね! んでその筆頭格の赤髪ちゃんがいま情事の真っ最中だよね! んで時期的に入学して数日でこんな関係性築けるなんて普通ありえません!


可能性として考えられるのはそういったR18作品群でよくある、『最初らへんに本番シーン入れといて体験版だとかに入れやすいようにしとこう! 販促だぁ!』みたいなやつですよねコレ!





あぁ、マズい、まずいぞこれは。赤髪ちゃんがやられたってっことは普通に私も標的になるわけだぞ……。前世関連のおかげで色々解ってしまう上に、そもそも男としての記憶持っている奴が男と合体するのは正直気色が悪い。記憶の整理とか自分の中で区切りが付けば変わるのかもしれんが今この状況でコネクトなんて反吐が出る。


しかも、この数日普通に過ごしたおかげで今いる世界の文化レベルが前世と同じ現代レベルってことは解っていて、異世界ものの魔物とかそういう化け物がいないおかげで生命の危機はないと判断して安心していたけど、R18ゲームだとしたら前提がすぐに崩れるぞこれは! 生命じゃなくて貞操の危機なんか誰が解るか!


嫌なことに製作者の趣味嗜好によるけど下手したら主人公君以外にも敵出てくるわけで、エロゲ世界なら万年脳内ピンクばっかりでもおかしくない。最悪路地裏で複数に囲まれてゲームオーバーが普通にあり得る……。



一応前世で親の勧めと言うこともあって、護身術みたいな感じで空手なんか習っていたことあるけど今じゃ知識だけある感じですし、そもそもわたくし好き好んで運動するタイプじゃないので今の体単なるおにゃのこなんですよねぇ! よわよわですねぇ! それにこういうエロゲって大体武力ある奴でも何かしらの理由付けられて最後まで行くこと普通にあるんですよねぇ! 詰みですねぇ!


現状できるのは登校&帰宅時にできるだけ明るくて人の目があるような道を通ること、あとそういう攻略系のイベントがありそうな人物や場所には近づかないようにしないと……。それに忘れてはいけないのが今教室でプロレスが行われていること。付近で音立てたら2対1の無差別マッチが発生してもおかしくない。だってそういうゲーム世界ですもんね!




というわけで抜き足差し足で総員撤退だぁ! 私は実家に帰らせていただきます!





 ーーーーーーーーー





私、桃川歩! 15歳! 歩くってかいて”あゆみ”って読みます! この春真っ盛りのなか数日前に聖デメトリオス高等学園に入学した新一年生です! 名前からなんだか宗教色強そうな学校……、ということもなく先々代の学園建てた人がそういうお病気だったそうで名付けられたこの学校は普通の進学校。実家から距離もあったんだけど、とっても制服がかわいくて、しかも学校の設備も最近建て替えられたらしくてとってもきれいでおしゃれな所です!


中学生の時あんまり勉強していなかったせいで、受験勉強はとっても大変でしたが何とか受かることが出来ました! ま、補欠合格なんですけど……。


でも合格は合格! 晴れて憧れだったブレザーの制服に身を包んで今日も登校です! 家から学校が当かったせいでパパやママに無理言って一人暮らしをさせてもらってますが寂しくなんかありません! だって私のクラスにはいい人ばっかりなんですもん!



「おっはようございま~す!」



入学して数日ですが中学の時と同じように大きな声であいさつしながら教室の扉を開ける。最初はみんな驚いて挨拶してくれなかったけど今は返してくれる人も多い。ほら、例えば翠野さん!



「おはよ、あゆむちん。今日も元気ですなぁ……。」



このキレイな緑色のツインテールの人は翠野いすずさん! 私のちょうど前の席に座っている人! 最初“みどりの”って読みが読めなくてなんと呼べばいいのかわからなくてあたふたしちゃったけど笑って許してくれたやさしい人! しかも解りにくかったら“みどり”でいいって言ってくれたの! こういうあだ名みたいなの新しい友達が出来たみたいでとってもいいよね!



「も~! みどりさん! 私は“あゆむ”じゃなくて“あゆみ”です! 昨日も言いましたよ!」



「いや~、あゆむちんのぷりぷり怒ってる姿が癒しでさぁ……。ほら? 最近物騒じゃん? こんな世の中じゃ大天使あゆむちんの怒ってる姿見てないとやってられませんて。お前もそう思うよな半田ァ~?」



「えぇ! 何故に俺! いや急に振らんでくださいよ! なして!」



みどりさんは同い年のはずなんだけど一緒にいると安心感があるし、なんだかお姉さんみたいな感じがする。そのせいでいつもさん付けしちゃうんだ! ……まぁでも急に隣にいる男子に声かけるのはびっくりすると思うよ? しかもいつも半田君に声かけてるし。



「ハンディも反応面白いなぁ! やっぱいじりがいある奴は違うぜ。ほれ、褒美に自慢のツインテ触らせてやろ。」



「イ、イエ。マニアッテマス。」



うん、やっぱりみどりさんスキンシップ激しいよね、半田君顔真っ赤だもん。昨日私急に後ろから抱き締められたりしたし……、それに自分の髪男の子に触らせるのってあんまりしないよね。う~む、誰にでも開かれているこの雰囲気がみどりさんをさん付けしたくなる所以かもしれない。あ、あと抱き着かれたときのお胸の柔らかさと大きさも関係するかも……。私ぺったんこだもんね。



「あ、そういえば今日数学の復習してこいって言ってたけどやってきた、あゆむちん? 確か小テストだよ?」



「…………やば! 忘れてた!」



そ、そうだった! 何か忘れているような気がするなぁ? って思ってたら数学の予習やってくるの忘れてた! 担当の先生すごくコワイ人だし、『必ず予習復習を行うこと。授業前に前回の内容の小テストを行うので用意しておくように。……点数が悪かった者は覚悟しておけ。』って言ってた!



きのう完全に忘れててテレビとかネットとかして遊んでたせいで全然頭入ってない~!!



「にゃは! やっぱか~。んじゃみどりさんが教えてあげるとしますかねぇ……。よいしょっと! ほら半田ァ! お前も机持っておいで、ついでにお前さんも教えてやろう!」



さっきまで椅子を反対から座っていたのを勢いよく立ち上がって机を反転。あとみどりさんの隣にいる半田君も呼んで朝礼の時間まで急遽数学の勉強にしてもみどりさんすごいなぁ、このまえ『頭? いやそんなに良くないよ? せいぜい真ん中行ってるぐらいじゃないの?』って言ったたけどすごく教え方うまい! みどりちゃんが真ん中だったら天辺はどれだけすごいんだ、ってぐらい! やっぱり誰かに教えられるぐらい何度も復習とかしているのかなぁ?




その後。みどりさんのおかげで私は何とか数学の小テストで合格点を取れました! 範囲は少なかったけどたぶん教えてもらわなかったらボロボロだったと思う。みどりさんに感謝だね! あ、でも半田君はみどりさんのせいで集中できなかったせいで落ちていました。……やっぱり大きいのは卑怯だと思います!




まぁでも! 実家で私のこと心配してくれるパパにママ。私は素敵な友達に囲まれて今高校生活を満喫しています!






























……の、はずだったんだけど……。






「~~~~~~~~!!!!!」











「あわ、あわわわわわわわわ。」







せっかく高校に入ったんだし何か部活動をしようと思って色々見学した帰り、今日見学会を行っていた美術部の人たちから部員の人が書いた絵を頂いちゃったので気分は上々! 大きめの作品なのでカバンに入らなかったので丸めた画用紙を乗せている感じ、カバンに入らなくてちょっと『むぅ!』って思っちゃったけどいい物もらえたからプラスだね! 


そんなウキウキしていた時に、たまたま教室に続く廊下を通っていた時に慌てて教室から離れていくみどりさんを見つけた。


言動はちょっと軽めな人だけどやることは結構しっかりしているみどりさんが何かから逃げるように急いで帰っていくのは珍しいし、彼女のイメージと合わない。それで、なんだか気は進まないんだけど興味の方が勝っちゃって、何があるらしい教室の方に近づいてみたら……!




覗いてみた教室では同じクラスの不知火さんと鈴夏くんが……、その、あの、えっと……。うん! ヤバイことしていたんです! 二人ともそんなに接点がなかったので最初の自己紹介ぐらいでしか話さなかったんですけど、なんか仲良さそうな気はしてたけど……、え!? えぇ!? そんな関係だったんですか!?


うわ、うわ、えぇ……。あ、あんなことするんだ……。しかもドアちょっと開いてるし、カーテンとか閉めてないし、声抑える感じもしないし……。うわぁ……。



確かにこれはみどりさんでも慌てて帰るよね……。私見ちゃったけどなんか悪い気がするし……。覗いたことで何かするわけじゃないけど、人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじゃうとか言うみたいだし、馬に蹴られたら華奢な私は多分すぐ死ぬ。死にたくないのでそっと帰るとしよう。


その場から離れようとした私。それまで見てはいけないのになぜか目が離せなくてドアの隙間から覗くような形だった。そのせいで体の重心が変になっていたせいか、それともちゃんと絵をしまわなかったせいか。




  カタン




部の見学会でお土産にもらった丸めた画用紙を落してしまったのだ。





(やっっっっっっばっっっっっっあぁぁぁぁぁ!!!!!!)





その音の発生源に向けていた顔をゆっくりと上げ教室の中を確認する。



赤髪の、不知火さんのキレイだけど少しとろんとしている赤い目と私の目が合った。




(ば、バレてるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!)




見えるのは鈴夏くんの背中と不知火さんの少し微笑んだ顔。彼女の口がゆっくりと音を発さずに動き出す。




(あ・な・た・も・ま・ざ・る・?)







過去最高速度で左右にぶれる私の顔。とにかくこの場から逃げ出したいの一心で落としてしまった画用紙をひろい上げ、出来るだけ音を立てないように全速力でその場から去った。




ど、どうしよう。明日からまともに教室に入れる気がしないィィィ!!!!!!





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