目を閉じて、5秒

 土曜日。俺とアキラは、学校の近くに時代に取り残されたように茂っている松の林を訪れた。


「相変わらず不気味なとこだな。」

「うん。」


真昼にも関わらず林の中は薄暗く、実際はそれほど大きくないこの林が、どこまでも続いているような感覚を覚える。こんな薄気味悪いところから早く離れたくて、アキラに早速始めよう、と声をかけた。


「おー。離れ離れになったらやだからさ、手え繋いでやろうぜ。」


アキラと手を繋いで、目を瞑る。小さな声でせーの、と呟き、覚えてきた例の歌を声を合わせて歌った。


おーきな栗のー下の木でー


わーたあしーもーあーなーたー


なーかーよーくー栗パーティー


おーきな栗のー下の木でー


そして、ゆっくり5秒数える。5秒の長さも、アキラと事前に確かめておいた。


 目を開ける。


 季節外れの紅葉がとても綺麗な、森の中だった。見上げると、都市伝説の通りにとても大きな栗が晴天に浮かんでいる。この辺りが周りよりも薄暗いのは栗の影に隠れているせいだろう。


「「・・・」」


あまりに驚いて、言葉が出なかった。来てはみたけれど、まだ半信半疑、いや、あるはずがないと思っていたのだ。それはアキラも同じだったようで、ぽかんと口を開けたまま、周りをキョロキョロと見回している。


「ほん、とに・・・。」

「ど、どうしようカナタ!俺、帰る方法わかんねえ!」

「落ち着けよアキラ。お前の話だと、木に入んなきゃいいんだろ?」


焦って涙目になりかけているアキラとは違って、なぜだか俺は冷静だった。


「そうだけど・・・。」

「なら、ちょっと歩き回ってみよう。どっかに出口があるかもしれないし。」

「そ、そうだな。じゃあ俺、ここに目印立てとく。ちょっと待ってな。」


そう言ってアキラは近くにあった木の枝を一本折り、地面に突き立てた。


「おし、行こうぜ。」

「うん。」


さっきまでの慌てた様子はどこへやら、アキラの目は怖いモノなど何もない、というようにキラキラとしていた。とりあえず栗の影の外に出よう、と足を踏み出した時だった。


「ありがたや、ありがたや、それ食べ尽くせや栗の山、永久に続けや栗パーティ」


歌が聞こえてきた。栗の真下の、扉のついた木の中からだ。歌声はだんだんと大きくなり・・・。鼓膜が破れそうになるまで響いた時、俺の意識は途絶えた。

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