ウワサバナシ

「なあ、『大きな栗の』って、知ってるか?」


クラスメイトのアキラがいつものイタズラっぽい目で言う。


「『大きな栗のー木の下でー』ってやつだろ?」


不思議な顔で聞き返す俺に、アキラは違う違う、と首を振った。


「都市伝説だよ、最近流行ってる。聞いたことない?」

「うん、知らない。」


アキラが目を丸くした。


「お前、遅れてんなあ。」

「うっせえ。で?何それ。」

「えっとな・・・」


 木がたくさん生えている場所に行って、目を瞑って某童謡のメロディーで決まった歌を歌う。歌い終わったあと目を瞑ったまま心の中で5秒数える。そして目を開ける。すると元いた場所とは違うところになっていて、上空には大きな大きな栗が浮かんでいる。栗の真下にある木には扉がついていて、その木の中に入ると、2度とそこから出ることはできない。


「って感じ。あと、絶対に2の倍数の人数でやんないといけないらしい。」

「木の中に入らなかったら出て来れるってこと?」

「うーん、そこまでは知らんなあ。俺も姉ちゃんから聞いただけでさ、姉ちゃんも友達から聞いたって言うから。」


どうも信憑性のない話だ。まあ都市伝説なんてそんなもんなんだろうけど。


「決まった歌って何?」

「あ、それは流石に知ってる。お前がさっき言ったやつの替え歌だよ。

 『大きな栗の下の木で 

 私もあなた

 仲良く栗パーティ

 大きな栗の下の木で』

ってやつ。」

「何栗パーティって。」

「栗ばっかりのパーティじゃねえの?」

「モンブランとか?」

「栗のごはん似とか。」

「栗のごはん似!?」

「煮るじゃなくて、似てる、の似な。」


2人で声をあげてしばらく笑った。


「で、さ。」


ようやく笑いがおさまった頃、アキラが切り出した。


「何?」

「これ、一緒に試してみねえ?」

「ええ・・・。」


正直、アキラなら言いかねないと思っていたが、実際に言われてみると少し面食らってしまう。


「マジで言ってる?」

「おう!」

「あ、そう・・・。」


少し興味はある。でも、どうせ本当じゃない、なんていう気持ちが勝っている。俺の迷いを見透かしたように、アキラが言う。


「どうせほんとじゃない、とか思ってんだろ?ならさ、俺らがほんとかどうか確かめてみようって!ほんとじゃなかったら何も起こんないんだし、ほんとになっても木の中に入んなきゃいいんだよ。戻り方は・・・わかんないけどさ。確かめてこれたら、俺たち英雄じゃん!」

「確かに・・・。」


英雄、英雄か。物語の中でしか聞いたことがないようなやつに、俺たちがなれるなら・・・やってみる価値はあるのかもしれない。


「わかった、行こうぜ、一緒に!」

「やった、お前ならそう言ってくれると思ってたよ!」


俺たちは土曜日に学校の近くの林に集合すると決めて、俺はワクワクしながらその日を過ごした。

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