第47話 脱線もまたよし1月15日

 料理人の部屋のドアを叩く。

 コンコン。コ、コン。コンココンコン。コココンコン。ンココンココ、コンコココンコン。

 これをつづけていると、手首小説のパクリ疑惑が浮上するからこの辺にしておく。

 ロックがはずされ、ドアが細く開いた。ドアを押して開く。

「九乃カナだ! 神妙にしろ!」

「ひいいいぃ」

 ドアがあたって、料理人が倒れた。床の上で震えている。

「やっぱり怪しい。そんなに怯えているということは、なにかやましいことがあるってことだな。ハイデを殺したのはお前だ!」

「ひいいっ、ちがいましゅ」

「ましゅって言ったぞ」

「九乃さん、やりすぎです」

 無月さんがひどいことをいう。料理人を助け起こす。

「アルプスでパンの修行をしたんだな、それでハイデと知り合いだった」

「ひい、すみませんすみません」

 犯行を認めるようだ。

「見えるのか、ハイデの幽霊が。殺したお前を憎いと言っているのだろう。胸から血を流して、カーテンに巻きつけられて、口からも血を垂らして、血走った眼で、お前を睨んでいるな」

「 👻 」

 料理人は気絶した。口から魂が出てゆくのが見えた。九乃カナは見える人になったみたいだ。


「それで、密室にどうやってはいった」

「無茶ですよー。意識が戻った瞬間尋問しても答えられる人はいませんて」

 九乃カナだったら答えるのに。そんなことないか。

「誰ですか」

「おうおうおう! この桜吹雪を忘れたたぁ言わせねえぜ」

「急にスイッチ入れないでください、なんのネタですか」

「遠山の金さんを知らねえたぁ言わせねえぜ」

「見たことありません。昭和ですか」

「昭和ですね。今調べたら平成にもやっていますな」

「今調べたって」

「メタ発言ですな」

 ごめんあそばせ。

「わたくしのこと忘れちゃったの?」

 メランコリー、九乃カナ。ふたたび登場。

「なんかヘンな人ですよね」

「胸にナイフ刺されたい?」

「ごめんなさいごめんなさい」

「ごめんなさいは一回!」

「ひいいぃ」

「さあ、そろそろ答えてもらおうか。密室にどうやってはいったのか」

「なんのことですか」

「とぼけるのか? 桜吹雪見せちゃうよ?」

 ないけどね。

「ひっ、殴らないで」

 いや、殴らないから。片肌脱ぐふりをしただけだって。

「よし、わかった。これ以上聞いても無駄ね。拷問にかけるまでもない。こんなにビクビクしているというのは、殺してしまった事実、死者を怖れているのだ」

 九乃カナは仁王立ち、手をぴんと挙げて、指は天を向いている。

「有罪! しょっぴけ」

 料理人を指さし、横に払った。

「さあ、きてもらおうか」

 無月さんもノリがわかってきたようだ。ふたりで容疑者をはさんで立ち上がらせた。

「九乃さん、どこへ連行しましょう」

「お昼を作らなくちゃだから、厨房ね。目を離さないで。包丁を凶器にして襲ってくるかも」

「危ないじゃないですか」

「厨房は1階でしょ、廊下の斧をもって行きなさい」

「なるほど」

「僕が殺しなんて怖いことするはずがありません」

「料理人なんて刃物をもったら人格がかわるものよ」

 九乃カナは背を向け歩き出した。


 玄関ホールとは反対にある階段へ九乃カナはやってきた。1階へ降りる。地下へ降りる階段の手前で止まった。

 上を向いて目をつむる。手を前に突き出し、前方を指す。手をあげおろししては、体の向きをかえ、足踏みまで。踊っているのか、歌舞伎のマネでもしているのか。動作をしながら廊下を移動する。

 最後に止まって、廊下での位置を確認した。

「なるほど、にゃーん」

 灰色の猫細胞が結論を出した。

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