第5話

「違和感? それって、ただの勘でしょう? そんなもので私を犯人呼ばわりするの?」


「まあまあ、話は最後まで聞いてください。確かにあなたの言う通り、最初は勘のようなものでした。しかし、その違和感の正体に気付いた今なら、あなたが犯人だという、論理的説明もできますよ。最初に言った通り、証拠はありませんけれどね」


「じゃあ、聞かせてよ。その論理的説明ってやつをさ」


「ええ。では、私たちがお義姉さんの部屋へ全員で行った時の話をしましょう。あの時、私たちは倒れているお義姉さんを発見しました。そして、私が脈を確認して、フィリップが人工呼吸をしようとしました。そこであなたは、フィリップを止めましたね」


「ええ、そうよ」


「それこそが、私が感じていた違和感の正体でした。私は、あなたの行動に違和感を覚えていたのです。それに気付いたので、私はあなたが犯人だと分かりました」


「はあ!? 何言っているの? お姉さま、頭がおかしくなったんじゃない? 私は、とっさの判断でフィリップを助けたのよ! 褒めてもらえるのならともかく、どうしてそれで犯人扱いされないといけないわけ!?」


「あぁ、あなたは、自分が犯したミスに気付いていないのですね……。そうです。あなたの言う通り、あなたはとっさの判断でフィリップを助けました。しかし、とっさの判断ゆえに、ミスを犯したのです」


 私はコーヒーを一口飲み、説明を続ける。


「まずは、お義姉さんの部屋へ行った時、彼女がどんな状態だったのか振り返ってみましょう。リアン、あなたもその姿を見て動揺していたましたね。いえ、正確には動揺しているふりをしていました。犯人であるあなたは、彼女が毒で亡くなっていることは分かっていたのですから。さて、発見された時のお義姉さんの状態はというと、頭から血を流して倒れていました。これが、重要なのです」


「べつに、そんなの重要なこととは思えないけど。お姉さまは、何が言いたいの?」


「人工呼吸しようとしたフィリップに対して、口に付着した毒が移るかもしれない、と言ってあなたが彼を止めた時、正直に言うと、私は感心しました。よくそんな可能性に気付いたなって思いました」


「何よ……、今更褒められても嬉しくないわ」


「でも、あとから思ったんです。あの状態の彼女を見て、毒殺だと思うのはおかしいと……」


「はあ!? どういうこと? 何がおかしいのよ!?」


「完全な矛盾とまでは言いませんが、あの状態の彼女を見てとっさに毒殺だと判断するのは、おかしいと言っているんです」


「何もおかしくないわ! 実際に毒殺だったじゃない!」


「私は最初、彼女は誰かに硬いもので殴られたのだと思いました。彼女は、んですよ。それを見て、とっさに毒殺だと思うでしょうか?」

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