第2話
「お義姉様、そんな……」
「リアン、しっかりして。あなた、憲兵の人間でしょう? どう対処すればいいの? みんなに指示を出して」
「あ、あぁ、お義姉様……、頭から血が出ているわ……」
リアンは動揺していて使い物にならないので、私は急いで義姉に駆け寄り、彼女の脈を確かめました。
「脈が止まっています! 動かしていいのか私には判断ができません。急いで医者を呼んでください!」
「そ、そんな……、姉さん」
フィリップが義姉の傍らに屈みました。
「人工呼吸すれば、意識が戻るかもしれない! やり方ならわかる」
「ダメよ! フィリップ!」
フィリップが人工呼吸しようとしましたが、リアンが叫んで止めました。
「ど、どうしてだ、リアン……」
「お義姉様の口に、毒物が付着しているかもしれないわ! 人工呼吸すれば、あなたの体内にも毒が入ってしまうわ!」
「そ、そんな、じゃあ、おれたちはどうすれば……」
私たちは突然の出来事に混乱していました……。
*
二時間後、屋敷の中ではたくさんの憲兵が作業をしていました。
義姉は病院に運ばれましたが、意識が戻ることはなかったそうです。
調査の結果、義姉の死因は遅効性の毒物によるものだと判明しました。
その毒物は、食事の時に義姉が使っていたグラスから検出されました。
頭から流れていた血は、倒れた際に机の角にぶつけたことが原因だったそうです。
私たちは簡単な事情聴取を受け、しばらくここにいるようにと指示されました。
私たちはソファに座って、時間が過ぎるのを待っていました。
誰も口を聞こうとしません。
あんなことがあったあとなので、誰も雑談しようという気にさえなりませんでした。
しかし、その沈黙をリアンが破りました。
「私、犯人が分かったわ! 犯人は、お姉さまよ!」
「……はい?」
ドヤ顔でそんなこと言われても……。
無駄だと思いつつも、私はため息をつきながら、妹に質問する。
「犯人が、私ですって? 何か、根拠があるのですか?」
「ええ、そうよ。根拠ならあるわ、お姉さま。これから説明してあげるけど、憲兵である私が言うんだから、間違いなく犯人はお姉さまよ!」
妹の言葉を聞いて、周りの人たちの視線が一斉に私の方を向きました。
その目は間違いなく私を疑っている目でした。
一瞬にして私は容疑者となったのです。
楽しいですねぇ。
「食事の時、お義姉様の隣はお姉さまだった。お義姉様のグラスの中に毒を仕込むことは、お姉さまなら容易にできたわ!」
「文字に起こさないと分かりにくいセリフですねぇ。まぁ、言いたいことはわかりました。でも、それなら反対側の隣にいたフィリップにだって可能だと思いますけど」
「フィリップがお義姉様を殺すわけないでしょう!」
とんでもない感情論です。
とても彼女が憲兵だとは思えません。
「それに、こういうこと、あまり言いたくはないのですけれど、誰にでも毒を仕込むチャンスはありましたよ。私とフィリップはさっき言った通りだとして、ワインを注いだシェフ、テーブルに料理を運んでいたメイドとリアン。隙を見て毒を仕込むことは、誰にでも可能だったのです」
「そ、そんなことないわ! もう、お姉さまが犯人でいいじゃない! 早く自首してよ!」
私に論破された途端、リアンはとんでもない暴論を言い始めました。
そして騒ぎを聞いた、この場を仕切っている憲兵が私たちのところへやってきました。
「いけませんよ、リアンさん。憲兵とはいえ、一応あなたも今は容疑者なのですから、おとなしくしていてください。憲兵隊の品格を疑われるような行動は慎んでください」
「あ、はい……。すいません」
情けないですねぇ。
彼に怒られて妹はしょんぼりとしていました。
とりあえず、私への疑いは晴れました。
正確には私だけに対する疑いというべきかもしれません。
とにかく、犯人がこの中いることは確実なのです。
いったい、誰なんでしょう?
実は頭の中で何かが引っかかっているのですが、何なのかよくわかりません。
何か、違和感を感じたような気がしたのですけれど……。
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