私の婚約者を奪った妹は、それを機に転落人生を歩み始めたようです。まあ、自業自得なんですけれどね……

下柳

第1話

「ローラ、お前との婚約は破棄する」


「はい?」


 私、ローラ・パーセルは、婚約者であるフィリップ・クラークに婚約破棄されました。

 えっと、突然のことで、意味が分からないのですけれど……。


「おれはついに、真実の愛を見つけたんだ」


「はぁ、真実の愛……、そうですか」


「おれは、リアンを愛しているんだ。それに気付いた瞬間、お前への愛も冷めたよ」


「お姉さま、私たち相思相愛だから、しかたがないわ。フィリップのことはあきらめて、ほかの男でも探すのね」


「はぁ……」


 もう、何もかもどうでもよくなっていました。

 私は妹のリアンに婚約者を奪われましたが、正直未練はありません。

 昔から姉のものを何でも奪う妹が、婚約者まで奪ったことには驚きましたが、浮気するようなダメな男に対する愛情は、一瞬で冷めてしまいました。


「あぁ、お姉さまから婚約者を奪って地獄に叩き落すこの瞬間、最高だわ。お姉さまのその暗い表情、たまらないわぁ」


 一人で勝手に悦に浸っているリアン。

 彼女は勘違いしていますが、私はショックなど受けていません。

 ただ呆れて言葉が出てこないだけです。

 それに、妹はもう一つ勘違いしています。


 これはあとになってわかることなのですが、地獄に落ちるのは私ではなく、妹だったのです。

 そして彼女を地獄に落とすのは、まったくの偶然なのですが、私なのでした。


     *


 フィリップに婚約破棄されてから一年後、妹のリアンと彼は結婚しました。

 そして、彼らが結婚してから数週間後、リアンから一通の手紙が届きました。

 それは、食事会の招待状でした。

 彼女は今、フィリップの実家である大きな屋敷で暮らしています。


 両親は亡くなっていて、義姉とメイドとシェフがその屋敷に一緒に住んでいるそうです。

 屋敷も含めて、義姉がすべての財産を継いでいると聞きました。

 どうせリアンは、フィリップとの結婚生活を私に見せびらかしたいから、食事会に招待したのでしょう。

 このまま断るのも、妹に馬鹿にされそうなので、行くことにしますか……。


「立派なお屋敷ですねぇ」


 食事会当日、私は屋敷を見上げていました。

 屋敷だけではなく、広い庭もあります。

 私は義姉に挨拶して、家の中に招待されました。

 家の中では、食事の準備をしている最中のようで、メイドが料理を運んでいます。


 そして驚いたことに、リアンもそれを手伝っています。

 小さい頃から家事なんてしなかった妹なのに、心を入れ替えたのでしょうか。

 そして食事会ですが、これはそこそこ楽しかったです。

 妹がフィリップとの仲を見せつけてくること以外は。

 まぁ、雇っているシェフの料理は美味しかったので、それでチャラということにしておきましょう。


「申し訳ありませんが、私、少し気分が優れないので、部屋でお休みしますね」


 義姉が席を立ち、リビングから出て行きました。

 メイドに支えられて階段を上っていますが、少し足元がふらついているような気がします。

 大丈夫でしょうか……。


 しばらくして、心配になったのか、リアンとフィリップが一度ずつ、義姉の様子を見に行っていました。

 そのあとメイドが様子を見に行って、リビングに戻ってきた数分後、上の階から何かが倒れたような音が聞こえました。


「あれ? なんだろう? 何か聞こえなかった?」


 リアンが上を向きながら言いました。


「たぶん姉さんだ。少し心配だから見てくるよ」


 フィリップが階段を上って行きました。そしてその数秒後……。


「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」


 フィリップの悲鳴が聞こえました。

 一階にいた私、リアン、メイド、シェフ、全員の目があいました。

 私たちはすぐに全員で上に向かいました。

 フィリップがドアが開いた部屋の前に立っています。

 おそらくここが義姉の部屋なのでしょう。

 私は部屋の中を覗き込みました。


 その光景を見て、私は驚きました。

 部屋の中央で、義姉が頭から血を流して倒れていたのです。

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