第24話 奇襲隊



「お~お~、やってるねぇ」


「派手じゃのう」


 ところ変わって巨大戦艦の遥か上空。


 巨大戦艦のちょうど真上にあたるところで海上を見下ろす集団があった。


 第一軍団軍団長≪橙霊血アウランティウム≫フロガと、彼が率いる第一軍団。


 その姿を巨大な白鱗のドラゴンに変えた第六軍団軍団長≪白竜血アルブス≫エルドラドと第六軍団たちだ。


 フロガはドラゴンになったエルドラドの背に乗って、この上空へ来ていた。


 他にも、第六軍団の何名かが第七軍団と同じようにその姿を巨大なワシやハヤブサ、ワイバーンなどに変えてその背中に第一軍団の者たちを乗せている。


 今回、別動隊として奇襲を仕掛ける役割は第一軍団と、飛行が得意な第六軍団に任されていた。


 彼らの視線の先には、巨大戦艦に向かって第二軍団が魔法を飛ばしていたり、第七軍団の怪獣たちがブレスを放っていたりしているのが見える。


 その様はまるでこれから怪獣対戦が始まるよう。


 ウェルテクスが放ったであろう最初の一発から、巨大戦艦は一方的に攻撃をくらって、いたるところから黒い煙をあげていた。


 が、転覆や沈没する感じは全くない。


 それどころか、よく目を凝らせばウェルテクスの攻撃意外は大したダメージになってないようにも見える。


「ありゃあ、出てくるのか? 敵さんは。ウェルテクスの攻撃しか効いてねぇし、あのままドデカいので突っ込んでくるじゃね?」


「心配しなくても大丈夫じゃろ。その可能性もなくはないじゃろうが、あの大きさゆえにか巨大戦艦の進みはゆっくりじゃし、一方的に攻撃されて黙ってはなかろうて」


 そうエルドラドが言った時、今まで大砲で砲撃を打つのみだった巨大戦艦に動きがあった。


 船体の上面や側面からハッチが開いたと思ったら、そこから次々と小型船が海面に着水していく。


 小型船と言っても、それは巨大戦艦から見て小型にしか見えないだけで、実際は大型船と評しておかしくない戦艦だが。


「どうやら、あの二人はしっかりと役目を果たしたようじゃな」


「あぁ、次はオレ様たちの番ってこった」


「そうじゃな。主らはどう動くつもりかのう?」


「あん? そんなん決まってんだろ、敵をぶっ殺す!」


「愚問だったかの。では、ワシらはあの大砲を壊すとしようか。届かないとしても脅威であろうし」


「好きにしやがれ。オレ様たちは先に行ってるぜ。——第一軍団、オレ様に続けッ!!」


 シルファたちの作戦が成功したのを見て、フロガは後ろに控える部下たちにそう叫ぶと、なんにも臆することなくエルドラドの上から飛び降りた。


「「「「「——うおおおおおおおおッ!!」」」」」


 そして、それに続くように第一軍団の血の気が多い者たちが我先にとばかりに身を投げ出してく。


「若いって言うのは活発でいいのぅ」


 エルドラドはそんな様子を眺めながら、縦に割れた黄金色の相貌を細める。


 そして、第一軍団の全員を見送った後、自分が率いる第六軍団に睨むように目を向けた。


「さて、言った通りじゃ。ワシらは敵の大砲を潰す。あれほどたくさんあるんじゃ、一つも破壊できなかった者はワシが直々に鍛え直してやる」


 第六軍団の飛行戦隊はエルドラドの言葉が本気であると察知して、ブルりと一瞬震えたように見えた。


 若いの活発でとかなんとか呟いてたけど、実はエルドラドが一番血気盛んなのは第六軍団では全員が知ってることだ。


 やると言ったら殺る。


 あのオニジジイはそういう存在。


「では行くぞ——第六軍団、突撃ィィィイイイイイッ!!」


 天空に、竜の咆哮が響いた。



 ■■



 頭にバンダナを巻いて、腰には刃が反れたサーベル。


 そんな海賊のような恰好をしてるポセイドンの眷属たちは、忙しそうに巨大戦艦のデッキの上を動き回る。


 その途端、彼らは空から聞こえた稲妻のような爆音が聞こえたような気がして、思わず空を仰いだ。


 眷属の一人の男が呟く。


「なんだぁ? 雷か?」


「んなわけないだろ。海の天候は気まぐれだが、この別世界の戦いの間だけは別だ」


「そうだったな。それじゃあ、今のは‥‥‥ん?」


 そう言われて男は納得しかけたものの、一瞬何かが見えたように感じて、さらに目を凝らす。


 やがてその男を含めて、一人また一人と、空から何かが落ちて来てることに気が付き始めた。


 最初は黒い点だったものが、徐々に大きくなって、ついにその正体に気が付いたときには、もう既にすぐそこまで迫ってきた後で。


「じゃ・ま・だぁぁぁぁッ!」


「ぶっ——べぇぇぇぇぇええええっ!!」


 ぼーっと上を見ていたその男は、上空から落ちてきたそのままの勢いでフロガに膝蹴りをされて吹き飛んで行った。


「なっ!? 敵——」


「うるせぇっ!」


「——ぐはっ!?」


 隣にいた別の眷属の男も、いったいどういう体感をしているのか、地面に着く前に思いっきり身体を捻った回し蹴りで叫ぶ前にのされる。


「ったく、雑魚かよ。おらっ、次行くぞっ!!」


 フロガはそう言うと、一瞬の交錯を見ていた別の敵の下に駆けていく。


 その時には、ポセイドンの眷属たちも何が起きたのかを理解したらしい。


 あちらこちらから敵襲を知らせる叫び声と、同時に悲鳴に何かが派手にぶつかる音が響いていく。


 もちろん、長年オールドデウスで戦ってきただけあって、ポセイドンの眷属たちも事態を把握してからの行動は早かった。


 空から落ちてくる敵に向かって銃を放ち、止む得ない場合はサーベルを抜いて身構える。


 やがて合わさる刃と刃、デッキの上のいたるところで戦闘が始まって、乱闘の様相を見せ始めた。


「この! 死ねっ!」


「ハッ! 遅えよ!」


 振り下ろされるサーベルを、フロガは半身になることで狙い通りギリギリだが最小限の動きをして余裕で避ける。


 そのまま、相手の懐に潜り込んで正拳突きを見舞うと。


「——ぐえっ!!」


 カエルのつぶれたようなうめき声を上げながら敵がくずおれた。


 その姿を見送りもせずに大きく一歩後ろに下がって——瞬間、フロガの目の前を訛り玉が通り過ぎていく。


「なっ、外した!? ——ぐっ!」


 フロガは銃を打ってきた男に一瞬で接近して、抵抗も許さずおもむろに首を締め上げた。


「ちまちまやっててもしょうがねえからな。答えろ、お前らのボスはどこだ?」


「せ、船長室だ。あの一番でかいやつ!」


「ほう? ずいぶんと聞き訳が良いじゃねえか? 罠か?」


 フロガがあっさりと情報を吐いた敵に疑わし気な視線で睨むと、その男はバカにするように鼻で笑った。


「ふんっ、そんなものにはめる必要などない。お前たちがちょっと強いくらいで俺たちの神には敵わないし、お前じゃダヴィドさんにも勝てないだろうよ!」


「ほう? そいつは楽しみだ」


「——ぁ」


 フロガは敵の物言いに怒るでもなく不敵に笑うと、もうお前に要は無いとばかりに抑えていた首をへし折る。


 光の粒子となって消えゆく、たった今倒した男の言葉を思い返しながら、教えられた通りウェルテクスが壊した一番大きいマストのような塔に向かって足を向けて。


 するとその時、近くにあった車庫のようなところのシャッターが開いて、中からぞろぞろと大量の敵兵が現れた。


「いたぞ! 敵だ!」


「チッ、めんどくせえな‥‥‥」


 さっさとぶち殺すか。


 フロガはそう思いながら、敵集団に飛び込もうとして‥‥‥ふと、そこに影が差したことに気が付いた。


 次の瞬間、上空から白く燃える灼熱のブレスが降ってきて、フロガが相対していた敵集団がチリも残さず消え去る。


「遅かったじゃねえかジジイ!」


 フロガは焼け焦げたその場に、ゆっくりと翼をはためかせて降りてくる白鱗のドラゴンに向かって叫んだ。


 やってきたのは、フロガの後に巨大戦艦に降下したエルドラドだ。


「ふぉっふぉ、年寄りを急かすでない」


 相変わらずドラゴンなのに戦場に似合わず好々爺な喋り方で会話を交わす。


「ぬかせ! あんたがジジイなのは見た目だけなの知ってんだからな!」


「ふぉっふぉっふぉ、何を言ってるのかわからんわい。それともフロガくんもこの後に手ほどきをしてあげようかの?」


「とぼけるなよ‥‥‥。それで? 何か用か?」


「おっと、そうじゃった。歳を取るとつい長話をしてしまうのお」


 臆面もなくそんなことを言うエルドラドに、フロガは全力のジト目を送る。


「といっても、別に難しいことじゃないわい。雑兵どもはワシらが引き受ける。フロガくんたちは真っすぐ首魁のもとへ向かってくれってことじゃ」


「お? なんだ、気が利くじゃねえか!」


「ふぉっふぉっふぉ、それじゃあ頼んだぞ」


 エルドラドはそれだけ言うと、また空へと飛び立っていった。。


 気が付けば第六軍団の他の団員たちも次々と降りてきて、おもむろに破壊行動をして暴れていく。


 狙いは、エルドラドの指示通りに優先して大砲を‥‥‥というか、エルドラドが発破をかけたからか、競うように潰していく。


 装弾や照準を合わせるために中にいた人など、ブレスに焼かれてひとたまりもないはずだ。


「ふむ、みなやる気があってよろしい。ではワシも、もうひと暴れしようかの」


 エルドラドはそうつぶやくと、たった今出てきた別の敵集団に向かって羽ばたく。


「ど、ドラゴンだ! ドラゴンが来たぞ!」


「ひるむなぁ! 手筈通り、バリスタで撃ち落とせ!」


 その集団の隊長らしき三角帽子を被った男が声を張り上げると、部下が後ろから弓を巨大化させたような兵器を引いてくる。


「照準合わせッ! ——ていッ!!」


 号令と同時に、発射される長槍のような矢。


 それは寸分たがわず、エルドラドの顔面、胴、翼、足に命中し。


「——なっ‥‥‥冗談だろ、超合金で作られた特別製の鏃だぞ」


 しかし、そのすべてが固い白鱗に弾かれてあらぬ方向へ飛んでいく。


「確かに、これはなかなかの威力よの。流石は先輩方と言ったところか」


 エルドラドは向けられたバリスタを興味深そうに見下ろす。


 実際、今放たれたバリスタは本来なら一般的な城壁くらいであれば崩すこともできただろうし、人間などにあたれば身体は爆散して粉みじんになっていたところだろう。


 エルドラドが耳をすませば、いつの間にかそこかしこで自分の部下たちの叫び声が聞こえてくる。


 これにやられたに違いない。


「しかし、ワシには効かなかったようじゃな」


 孤高の十二傑の中で、ドラゴンの姿になれば最も硬い防御力を持つおじいちゃん。


 それがエルドラドだ。


「ひ、怯むな! 次は目と口を狙え!」


「効かないからと、そう何度も受ける阿呆がおるか。——ほれ!」


 バリスタを再び打ち出そうとした瞬間、次はエルドラドが先に動き、もう興味は失せたとばかりに長い尻尾を振りかざした。


 その場にいた者たちはまるでほうきで掃かれるゴミの様に実にあっけなく吹き飛ばされていく。


「さて、落とされた奴らはどうしてくれようかのぅ」


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