第21話 海王神ポセイドンと会議後




「【世界の言葉】も【神々の黄昏ラグナロク】も、まぁ理解した。それで、これが一番気になるんだけど、さっきの【世界の言葉】によると、俺たちは海王神ポセイドンとやらと戦うことになってなかったか?」


 聞こえた話だと、海王神さんも地球の神のようだったけど‥‥‥仲間割れなのか?


「あ~‥‥‥これに関して伝えてなかったのは完全に私のミスよ、ごめんなさい」


 おや、素直に謝るなんて珍しい。


 セツナはペコリと頭を下げると、どういうことなのか説明してくれる。


「まず、海王神ポセイドンは私たちの先輩よ。それで、私が地球に戻ってる時に向こうもたまたま戻ってきてて話したの。その時に色々と教えてくれたついでに【神々の黄昏ラグナロク】での実践の練習をさせてくれることになって」


「ということは、海王神ポセイドンは仲間ってことか?」


「そういうこと。同じ世界の神同士で争ってる神々もいるけど、地球は基本協調路線を取ってるからね。これもその一環。いきなり他の世界の神と【神々の黄昏ラグナロク】をするのは慣れないからって、先輩の好意で戦ってくれるって。だから、負けても失うものはないわ」


 なるほど、海王神ポセイドンが【神々の黄昏ラグナロク】を体験させてくれるってことか。


 確かに、セツナから【神々の黄昏ラグナロク】の話を聞いただけだと、正直に言って別世界を作るとかスケールが大きすぎて、理解はできてもなんも実感が湧かなかったからこれはかなりありがたいな。


 セツナもゲームの世界を作れるけど、現実とゲームって根本的に違うらしいから。


「じゃあ、ここに来る前に言ってた水辺がどうにかなるかもしれないって言うのは、この勝負で海王神ポセイドンに勝ったら海を譲ってもらうっていう交渉をするってこと?」


「そういうことよ。海王神の名前の通り、先輩の支配領域はほとんどが海だから、勝ったらちょっと譲ってくれないかなって思ったの」


 やっぱり、ポセイドンさんの支配領域は海なんだ。


 生きていれば一回くらいその名前を聞くであろうポセイドンだもんね。


 それに『海王神』って‥‥‥ウチの『遊戯神』と比べて、名前負け感が半端じゃないだけど。


 海とゲームって圧倒的すぎない? 今回やるのは摸擬戦みたいものらしいけど、それでも勝てるのかな、俺ら。


「‥‥‥ちょっと、何か失礼なこと考えてるでしょ」


「いやいや、そんなことないけど‥‥‥でも事情は大体わかった」


 まぁまだ、転移はどんな感じかとか、支配領域のコピーとはどういうことなのかとか、【神々の黄昏ラグナロク】に関しては気になることはあるけど、あとのことは実際に体験してみる方が早そうだ。


「みんなもちゃんと理解できたか?」


 そう言って孤高の十二傑たちに視線を向けると、みんなも何となくは分かってるのだろう。


 難しい顔をしてる人はあまりいない。


「ようは、真正面からぶつかり合うってことだろ? 単純明快で結構じゃねぇか」


「ふぉっふぉ、老いぼれに難しいことはわからんわい」


「僕とおじいちゃんは、おっきくなってとにかく暴れれば、それだけでいつも勝っちゃうもんね!」


 ‥‥‥違った。


 フロガとエルドラドとウェルテクスは、とりあえず暴れようっていう脳筋野郎だったみたいだ。


 そんな人たちもいるけど、エルナを筆頭に他の者たちはちゃんと理解できてるようで、それぞれ疑問に思ったことをセツナに聞いてたりする。


「セツナ様。戦う意思を持つ者だけ転移させられる、とのことでしたが、それは明確な基準とかがあるのですか?」


「私もそこらへんはよくわからないのよね。たぶん、『よっしゃー! やるぞー!』とか思ってたらいけるんじゃない?」


「‥‥‥てきとーですね」


 けど、このことを俺たちに伝えるのをド忘れしてたセツナだからな。


 エルナがセツナに呆れた目を向けるのもよく分かる。


 そもそもセツナ自身がちゃんと【神々の黄昏ラグナロク】のシステムを理解できてるのか心配だ。


 そう考えると、練習の機会をくれる海王神ポセイドンには本当に感謝だな。


「お兄さま、当日の軍の編成などはどうしましょうか?」


「う~ん、せっかく被害なしで経験を積ませてもらえるんだから、全軍で行くか。【神々の黄昏ラグナロク】がどういうものか、軍全体で共有出来ておいた方がいいだろう」


「分かりました。アルディリアにも、必ず参加するように言っておきますね」


「頼んだ」


 それから、【世界の言葉】について住民たちになんて説明するのか決定したり、四日後の【神々の黄昏ラグナロク】までに準備する必要のあるものなどを話し合って、会議は進んでいった。



 ■■



「めぐみさんは今までずっとお兄さまと一緒にいらしたんですか?」


「そうだよ~、なのにりっくんったらここに来る時にあたしのこと置いていってね~。まったくもう」


「でも、お兄さまの気持ちもわかります。ここは危険なところですから」


「それはあたしもたくさん言われたからわかってるよ~。だけど、ルナちゃんみたいな可愛い義妹がいることも黙ってるんだから~」


「そ、そんな可愛いなんて‥‥‥」


 会議終了後、俺たちは城にあるサロンにやってきて談笑してる。


 会議中、エルナが俺のことをお兄さまって呼ぶことが気になってたらしいめぐみがエルナとお話したいって言ったのが事の発端だ。


 セツナはみんなに無視された傷心を癒やしに先に部屋に戻っていった。


 エルナの俺の事をお兄さま呼びは別に隠すことでもないし、めぐみにはこっちの世界では義兄としてやってきたことは既に伝えてある。


 そしたら案の定、めぐみはすぐにエルナと仲良くなって、ああして俺の話題で盛り上がってるわけだ。


 ちなみに、めぐみはエルナのことをルナちゃんと呼ぶことに決めたみたい。


「りっくんの義妹なら、あたしにとっても妹みたいなものだよ〜。ずっと妹が欲しいって思ってたから、ルナちゃんと仲良くなれて嬉しいな〜」


「私もめぐみさんとで会えて嬉しいです! ところで、『りっくん』ってお兄さまのことですよね?」


「そうだよ〜、一時期はりっくんって呼ぶと怒られたけど、あたしはずっとこうやって呼んでるよ〜」


「なんだか親しいのがよく分かっていいですね! めぐみさんはお兄さまが小さい頃も知ってるのですか?」


「もちろん! あたしとりっくんは同じ日に生まれたからね〜。小さい頃とも言わずなんでも知ってるよ〜」


「わぁ! お兄さまの小さな頃のお話すごく聞きたいです!」


「いいよ〜! りっくんって呼ぶと怒られた時はね、確か十二歳くらいのときで、あの時のりっくんは反抗期でね〜」


「おい、めぐみ! エルナに変な事言うなよ!」


 話の内容が変なことになってきて、すかさず割り込む。


 自分の昔話なんか聞きたくないぞ! それにどうせ、変に『天才~』とかもてはやされただけだからボッチで面白いことなんてないんだし。


「もぉ〜、変なことじゃないよ〜! それでねルナちゃん――」


 しかし、それでめぐみが止まらないことも分かってたけどね。


 あいつ、やたらと俺の話をするのが好きなんだよ。


 何が好きだとか、頭が凄くいいだとか。


 地球にいた頃、たまたま外に出たら近所のマダムたちと俺の話で盛り上がってた時は、さすがにびっくりした。


「なぁ、ヴォルク。めぐみの話止められない?」


 俺じゃ止められないのは経験済みなため、目の前で憮然と佇む親友に頼んでみる。


「我も興味ありますので」


「……」


 が、そう言ってめぐみの話にオオカミ耳をぴくぴく動かして聞き耳を立て始めた。


「アン……」


「アンも、リオン様の過去を知りたいです」


 そして、ここにもう一人。


 アンにも助けを求めたけど、彼女も彼女で何故か熱心にメモを取ってる。


 そこに何を書いてるのかね?


「はぁ‥‥‥」


 残念だけど、ここに俺の味方はいないようだ。


 俺はため息をついて、なんとなくサロンから見える城下の様子を眺める。


 図らずも、四日後についに練習とはいえ戦うことになってしまった。


 別に今更、怖いとは思わない。


 ヴォルクと度々摸擬戦とかしてたから、今の自分が地球にいた時より身体能力も上がって特殊能力も使えるようになって、圧倒的に強くなっている。


 ただ、いざその時になって俺は人の命を刈れるのか‥‥‥。


 日本で暴力沙汰なんて起こしたことないし、”オルタナティブ”で暴れられたのは、それがゲームだから。


 実際に現実になって、それでいざその時になった時、俺はしり込みせずにいれるだろうか。


 ただそれだけがちょっとだけ心配だった。


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