第20話 【世界の言葉】と【神々の黄昏】



「さあ、吐け! キリキリ吐け! あることないこと全部吐け! さっきの声はいったいなんなんだ!」


「な、なによぅ‥‥‥ちょっと伝えるのド忘れしてただけじゃない! あと、ないことまでは話せないわよ!」


「うるさい! 余計なことはしゃべるな!」


「ふぇ~‥‥‥そんな怒んないでよぅ」


 そうは言われても、何度も言うように情報とは何よりも重要なのだ。


 ビジネスでもホウレンソウが徹底されてるように。


 それを怠ったんだから、いくら女神でも怒られて当然だと思うね!


 威圧的に腕を組んで目の前で正座させているセツナをむっつりと睨む。


 これに懲りたら大いに反省して欲しい。


「りっくん、もうその辺にしときな~。みんなも待ってるよ~?」


 めぐみにそう言われて顔を上げると、確かにもうすでに孤高の十二傑たちは集まってた。


 場所は以前オールドデウスに来た時に会議をしたところと同じ孤高の十二傑たち専用の会議室。


 本来は孤高の十二傑と俺しか入室の許可は無いけれど、セツナとめぐみがいるのは、セツナには色々話を聞かなきゃいけないからと、めぐみはその場に居合わせた流れで、あと俺が信用を置ける人物としてみんなに紹介するため。


 それに、この二人にはこれからも例外としてこの会議室の入室は許可しようと思ってる。


 そういうことでみんなが集まる間にセツナを説教してたんだけど、時間は有限だし集まったならさっさと会議を始めるか。


 ちなみに今回もアルディリアとカグヤは来てない。


 いつものことなので今更気にしないけど。


 俺は気持ちを切り替えるために一つため息をついて、気分を皇帝モードにチェンジする。


「みんな急な招集をかけて済まない。さっそくだけど、会議を始める」


「「「「「「「「「——はっ!!」」」」」」」」」


「おぉ~、りっくんすごい‥‥‥」


「‥‥‥」


 うっ‥‥‥なんか、知り合いに見られるの結構恥ずかしいぞ。


 気分はあれだ、たぶん小学校の授業参観みたいな‥‥‥まぁ、俺の両親が授業参観に来たことなんて一度もないけど。


「やっと会議が始まるのね。ったく、神に正座させるなんて罰当たりにもほどが——」


「おい、誰が立っていいって言った? まだ座ってろ、オムライスにするぞ」


「ふぇ~‥‥‥」


 横目でギロリと睨むと、セツナは再びいそいそと涙目で座り直す。


 次に勝手に立ち上がったら膝の上に重石を置こう。


 さてと、ではさっそくセツナから話を‥‥‥と、行きたいところだけど、まずはめぐみとセツナの紹介からだな。


 セツナはともかく、めぐみのことはまだアンとウェルテクスしか知らないはずで、実際孤高の十二傑たちがここに入ってくる時、俺の傍にいるめぐみを見てみんな首を傾げてたから。


「こほんっ、議題はさっき聞こえてきた頭に直接語りかけて来た声についてだ。が、その前にこの二人を紹介する。何人かは会ったことがあるみたいだけど正座してるのが女神セツナで、こっちの子は俺の幼馴染のめぐみ。俺と同じくリアルから来て、それで俺がとても信頼してる人だからみんなも仲良くしてほしい」


「月見里めぐみです。よろしくお願いします」


「女神セツナよ!」


 二人を紹介すると、めぐみはぺこりと丁寧に頭を下げて、セツナは正座してるせいで威厳もへったくれもないけど胸を張って偉そうに挨拶した。


 対して、孤高の十二傑たちの反応はと言うと。


「お兄さまの‥‥‥幼馴染!?」


「あら、可愛らしい子ねぇ」


「あれが街中で噂になっていた陛下の‥‥‥? これは徹底的に近辺を調べる必要がありますわね」


「‥‥‥ふん」


 驚愕するエルナ、見定めるように見るシルファ、何かを考え込むアスタロッテ、未だに警戒心が抜けないのかむっつり顔のアンと女性陣の反応は様々。


 男性陣は、みんな好意的で「よろしくな」なんて気軽に返事を返してる。


 めぐみもそれに対して一人ひとりに返事を返しているのに、何故か女性陣には気づくか気づかないかの一瞬だけ鋭い視線を向けてる。


 まぁ、直ぐにいつも通りのぽわわんとした感じに戻るけど、この差はいったい何なんだろうか? 同じ女性同士感じる者があるとか? ‥‥‥まさか、これが女社会カーストの格付けか!?


 何かの掲示板なんかで聞いたことがある。


 あの一瞬の視線の交錯で、「あ、あの女には勝ったわね」「よし、私の方が可愛い」「あら? 貧相なお胸ですこと」みたいな火花散るやり取りが交わされると‥‥‥恐ろし。


 とまぁ、めぐみはこんな感じで、比べてセツナはと言うと。


「ね、ねぇ‥‥‥私もいるよ? 確かに初めましてじゃない人がほとんどだけどさ‥‥‥私、一応あなたたちの主神だよ? ‥‥‥ねぇ」


 さっきまで俺が説教してたせいで触らぬ神になんとやらってことなのか、それとも女神より俺の幼馴染という方がネームバリュー的に上なのか、無視というわけではないものの一切の興味が向けられてなかった。


 伸ばしかけた手がとても切なそうだ‥‥‥セツナだけに。


「‥‥‥あんた、なんかつまらないコト考えたでしょ」


「そんなわけないだろ‥‥‥はい、みんな注目!」


 図星を差されてたことはおくびにも出さず、余計な追及をされる前に会議を進めることにした。


「まず、さっきも伝えた通り、議題は頭に響くような謎の声に関してないんだけど、聞こえてなかった者はいるか?」


 状況確認のための質問に、全員首を振って聞こえていたことを示した。


 ちょうど声が聞こえて来た時に、【常夜の結界】の外にいたエルドラドにも聞こえてることから距離的な関係は無いのかもしれない。


「お兄さま、現在確認中ですがクレプスクルムいたすべての民が謎の声を聞いていたと思われます」


「住民たちの様子はどうなってる?」


「聞こえた直後は混乱してるようですが、直ぐに注意喚起をしたのでパニックにはなっておりません」


「さすがエルナだな。いつも頼りになるよ」


「えへへ、お兄さまの妹ですから」


 そのお兄さまは、その時街で遊んでました——なんて言えないなぁ‥‥‥もうちょっとシャキッとしてこ。


 とりあえず、あの謎の声による被害は今のところ特に出てないと。


 現状の確認は済んだし、そしたら今度こそセツナに真偽を問いただす番だな。


「それじゃあセツナ、あの謎の声とラグナロクだっけ? それについて詳しく教えてくれ」


「了解! やっと私の出番ってわけね!」


「正座のままな?」


「‥‥‥はい」


 さっき目を向けてもらえなかったからか、やっと注目を集めたことに意気揚々と立ち上がろうとするのを制止されて、渋々座り直したセツナは説明を始めた。


「まず、あのどこからともなく聞こえた声。アレは【ワールド・ディレクシオン】といって、通称【世界の言葉】って呼ばれてるわ。【世界の言葉】は簡単に言うとこの世界を管理するために、オールドデウスを作った高位の神々が設定した管理システムみたいなものね。例えば、戦争によって修復不可能な大規模地形破壊や環境破壊が起こった場合、それを直したりするの」


 セツナによれば、【世界の言葉】は他にも神々がオールドデウスに降臨するときのちょっとした手助けや、ラグナロクとやらの維持、管理、それから勝敗の審判の役目も担うらしい。


 つまりは名前の通り、この世界の管理者みたいなものだ。


 聞こえてきた声も無機質だったし人格も無いらしいから、本当にただ世界を管理するためだけのコンピューターみたいなものだろう。


「なるほど。それで、さっきから出てくるラグナロクって言うのは何なんだ?」


「ラグナロク、神々の黄昏。これも【世界ワールド・の言葉ディレクシオン】同様、神々が作ったこの世界を崩壊させないための戦争システムよ。【神々の黄昏ラグナロク】では普通のなんでもござれの戦争ではなく、戦う神同士で明確にルールや報酬などを事前に決めて、【世界の言葉】の管理の下に公平に戦うことになるわ」


 まずはざっくりと説明されて、それから細かいこと話してくれる。


 曰く、【神々の黄昏ラグナロク】は【世界の言葉】が作り出した別世界で戦うことになり、その際戦う者同士の支配領域をコピーし、その別世界に顕現させるため、戦争が終わっても元のオールドデウスに戻ってきたら、支配領域の街などは壊れてることはないらしい。


 人的被害もルールに『この戦いで死人は出ないものとする』というようなルールを定めれば、別世界から戻ってくる時に生き返るようだ。


 次に、オールドデウスでの支配領域が遠く離れてる世界同士でも【神々の黄昏ラグナロク】を申し込めば、世界で戦うことになるため、たとえこのオールドデウスの反対側にいたとしても戦うことができるそう。


「ま、もっと簡単に言えば、戦闘用フィールドに転移させられて、そこではっきりと白黒つけるみたいなもんよ。そしてその際に勝てれば交渉して決定した報酬は【世界の言葉】の下に必ず支払われることになる。相手の土地とか、資源とかね」


「なんとなく分かったけど。いくつか聞きたいことがある」


「なにかしら?」


「【世界の言葉】の声が聞こえた者全員が戦うことになるのか?」


 ようは【神々の黄昏ラグナロク】は、戦争の泥沼化を避けるために、別世界で堂々とタイマンでやり合おうってことだろう。


 俺が気になったのは、非戦闘員までそれに巻き込むことになるのかどうかだ。


「いいえ。【世界の言葉】が言っていた通り、戦う意思を持った者だけ時間が来たら転移させられるわ」


 セツナの答えにホッとする。


 よかった、それならめぐみを巻き込まなくて済みそうだ。たとえルールで死なないのだとしても、痛い思いはさせたくなかったからね。

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