第13話 始動



 さて、これで大体の方針と、各軍団の采配は決まったな。


 やり方とか細かい色々なことは軍団長たちに任せるとして、あと何かこの場で話しておくべきことは‥‥‥ん?


「はい、ウェルテクス君」


「はいっ! リオン陛下!」


 ピシッと無言で挙手をしてるので名指しで読んでみると、小学校で先生に当てられたようにウェルテクスが席を立つ。


「あの、僕たちは何をすればいいでしょう?」


「う~ん、第七軍団は今のところすることは無い‥‥‥かな」


「え、えぇ~! ぼ、僕もリオン様のお役に立ちたいです‥‥‥」


「いや、う~ん‥‥‥」


 ぶっちゃけ、第七軍団ができることが今は無い。


 第六軍団がクレプスクルムの空軍だとしたら、ウェルテクス率いる第七軍団は魚人系の者が多いため海軍の側面が強いからだ。


 今現在、この辺りに海が無いからその本領を発揮できない。


 何かを任せるとしても、他の軍団のサポートとしかないわけだけど。


 だから俺としては、不測の事態が起こった場合に備えての予備戦力として温存しておこうかと考えてた。


 それをウェルテクスに伝えようとして——。


「うぅ‥‥‥」


 けれど、何も任せてくれないと察したのか、子供特有の大きな瞳に涙が溜まっていくのを見て思わず口ごもる。


 くっ‥‥‥子供と女の涙に男は無力だ‥‥‥。


 というか、ウェルテクスは見た目が小学生の子供なんだから、前からなんか仕事を頼みにくいんだよね‥‥‥いや、まぁ、そういう風になったのは俺が育てた結果なんだけどさ。


 くっそ~‥‥‥何かないのか、子供でも任せられるような任務は‥‥‥。


 ——って! そうだ! あるじゃん、子供にでも任せられる任務! むしろ見た目が子供のウェルテクスに最適なことが! 危ない危ない、セツナに頼まれたのに忘れるところだった。


「よし、ウェルテクスの任務を決めた」


「ほんとですか! やったぁ!」


 瞳に溜まってた涙が宙に弾けてウェルテクスはすっごい嬉しそうな反応をしてくれる。


「みんなも知っといて欲しいんだけど、今クレプスクルムにはセツナ神国の生き残りも数名来てるらしい。ウェルテクスにはその者たちを探し出して、クレプスクルムじゃ勝手がわからないだろうから、城に招待して面倒をみてやってくれ」


「それが、僕の仕事ですか?」


 ウェルテクスは自分だけ任せられたことが他の者と全然違うからかキョトンとしてる。


「あぁ、ウェルテクスにしか頼めない仕事だ。任せてもいいか?」


「分かりました! 僕に任せてください、リオン様!」


 ふふふ、子供の見た目だから重要なことを任せてもらえれないって駄々をこねるかと思ったけど、言い方をちょっと変えてあげればちょろいもんだ。


 まぁ、実際、ウェルテクスがこれに最適なのは間違いないと思う。


 なんせ、今はもう敵対してないといえど、元々は先日まで争ってた敵同士。


 いくらセツナの指示でも、自分たちの国を滅ぼされた張本人である俺たちといきなり仲間になるっていっても難しいだろう。


 だからといって放置するわけにもいかないから、それなら敵の親玉であった俺や、セツナ神国で散々暴れまわった他の孤高の十二傑が担当するより、見た目が子供でセツナ神国は海に面してなかったからあまり活躍できなかったウェルテクスに任せた方が無駄な問題は起こらないかもしれない。


 そういう魂胆だ。


「ふふん! アスタロッテちゃん聞いた? リオン様が僕にしか頼めない仕事だって!」


「何ですのそのドヤ顔は! なんかむかつきますわ!」


 うんうん、その満点のショタスマイルで相手さんの敵愾心をメロメロにしてきてくれたまえ。


「アンはセツナとセツナ神国の人たちの部屋の用意を頼む」


「はい、心得ております」


 アンなら別に言わなくても今の会議の内容だけで、それくらい察してくれるだろうけど、一応形式だけ伝えておく。


 そしてやっぱり心配無用だったみたい。


 俺は知ってる。


 できる完璧メイドであるアンの「心得ております」の一言とは、既に部屋の掃除、ベットメイキング、その他もろもろの準備がすべて終わってることを意味するのだ。


 たぶんだけど、暗部の方でもうセツナ神国の人たちを見つけてマークしてあったんだろう。


 さらに、こうなることを見越して部屋の準備も完璧と‥‥‥本当に末恐ろしいな。


 本職は暗部のはずなんだけどな~‥‥‥本人にそれを言うと、「いいえ、アンはリオン様のメイドです」って真面目な顔で返されるけど、たぶんジョークのはずだ。


 自分の本職は忘れてないはず‥‥‥たまに、本当にメイドにしか見えないことがあるけど。


 っと、アンの本職が実際どっちなのかは今考えることじゃないな。


 方針が決まったなら、次は行動に移らないと。


「それじゃあ、全員自分の役目は理解したな? 最後に何かある者はいるか?」


 一人ひとり確認するように、顔を見渡してアイコンタクトを取り合う。


 すると、またしてもウェルテクスが手をあげた。


「あ、リオン様、僕から一つだけいいですか?」


「どうした?」


「はい、実は部下の方から水場の確保をしてほしいと言われてまして、お願いできませんか?」


「なるほど、ならアスタロッテが川や湖を発見した場合、そこの管理は第七軍団に任せる」


「はっ! ありがとうございます!」


 一応、クレプスクルムの広場には噴水があるけど、ウェルテクスの言う水場とはそういうことじゃないと思う。


 たぶん彼らは悠々と泳ぎたいんだろうから。


 それに水場の確保は割と重要案件だしね。


 さっき言った噴水は魔力で水を溢れさせるオブジェクトだから水が枯れることは無いけれど、農業とかを始めるなら水は必要不可欠だ。


 わざわざそこまで水を汲みに行って、往復してっていうのも時間の無駄だし。


 もちろん、魔法で水を作り出すことはできるけど、正直いざという時に魔力不足に陥るのは嫌だから、あまりやりたくないと思う。


 なるべく早く探した方がいいな。


「よし、もう大丈夫だな? それではこれにて会議を終了とする。——解散っ!!」


「「「「「「「「「——はっ!」」」」」」」」」


 俺の号令で、各軍団長たちが各々の役目を果たしに会議室を後にする。


 それを見送って、そっと皇帝として張っていた息を吐き出す。


 あまり堅苦しいのは好きじゃない。


 とりあえず、今できることは指示できたはずだ。


 当分は、大きな行動は起こさずに地盤固めを優先にしていこう。


 あとはセツナが戻ってきたらセツナの意見も聞きたいな。


 まだ俺の知らないことが色々とあるはずだ。


 来る時は結構慌ただしかったから、セツナが帰ってきたら一度腰を据えてじっくりと話したい。


 そんなことを考えながら、俺もまた自分の役割を全うしに行く。


 この国は俺の国だ。


 何としてでも守り抜く。


 そう、心に誓って。


 こうしてクレプスクルム帝国は動き始めた。

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