第12話 それぞれの役割

 


「よし、食料と近辺の森の開発はフロガとカイに、治安維持はダームエルの代わりにヴォルクが、その他の細かい問題は俺とエルナで対処する。当分の間、問題なければこれで行こう。何かある者は?」


 一応確認をと思って聞いてみれば、みんな納得しているようで頷いて了承の態度を示す。


 なら、国内のことで今すぐ決めることはこんなものだろう。


 時間が経てば、それに伴って色々と問題が出てくることになるけど、その都度臨機応変に解決していくしかないだろうな。


 まぁ、ある程度予測が立てられるところは立てておいて、また緊急マニュアルみたいのを作っておけばいいか。


「じゃあ、最後に一番重要な国外の問題だな。これに関しては、俺はほとんどの情報を持ってない。だから何か分かってることがあれば報告して欲しいが‥‥‥エルドラドは【常闇の結界】の外には出てないのか?」


「そうですな。あくまで結界の中から見ただけですわい」


「その時に何か気になる物は?」


「いえ、見た限り森や草原が続いてるのみで人工物らしきものは隠蔽されてない限り見えなかったのう」


「分かった。なら、情報を集めるのが先決だな」


 エルドラド以外の者たちの表情は芳しくないし、わかってるのは本当にこれだけだ。


 まず、この場所がどういう所なのか詳しく知らないと戦えるものも戦えない。


 敵はどういう奴らなのか、どんな国なのか、何を得意としているのか。


 後は、現在のクレプスクルムの場所も気になるな。


 接している国が一つとは限らないし、もしかしたら逆に巨大な大国の中にポツンと孤立してるなんてこともあるかも。


 一番理想的なのは、周りが誰も占領を宣言していない無法地帯であることが望ましい。


 直ぐに戦争できるほど、地盤が固まってないからね。


 まぁ、なんにせよ色々と備えていつでも動けるように準備しよう。


「まず、クレプスクルムがここにあるということが外部に知られてると思うか?」


「どうでしょう? 既にオールドデウスに来て数時間になりますが、外部からの接触があった報告はありません」


「えぇ、現在帝都周辺の警戒は私の第二軍団とフロガの第一軍団が担当してますが、部下から人影や強い存在感を放つ個体は見当たらないようです」


「オレ様のところも同じく、雑魚の魔物や動物のみだな」


「なら、今はまだ俺たちの存在は他勢力に確認されてないものとして話を進めよう」


 あまり楽観視はできないけど、かといってわからんものはわからん。


 もしかしたら、人工衛星的なものを空に飛ばしてる勢力がいるかもしれないし、相当遠くまで見れるようになる魔法やアイテムがあるかもしれない。


 何があるかわからないオールドデウスなんだから油断だけはしないようにしないとね。


 最悪の場合も考えて、もしもバレていたらその時の対処法も考えておけばいい。


「ということで、まずは知られていないというアドバンテージを守ることを考えよう。バレていたとしてもクレプスクルムの情報が筒抜けになることは何としても避けたい」


 情報は何をするにおいても重要になってくる。


 ”オルタナティブ”では情報収集を疎かにした国は、直ぐに崩壊の道をたどることになるからな。


 つまりは敵の国内の地図、食料状況、人口、そういう様々な情報をいかにして入手するかが大切だ。


 そして、自分の情報をいかにして守り抜くのかも同じくらい大切になる。


 それはもう、みんなも分かってるため、直ぐに対応策が出てきた。


「警備の強化をしますか? 近衛騎士団から数名派遣することが可能です」


「暗部の方も何人かなら手伝うことができると思います」


 発言したのは、ヴォルクとアン。


 近衛騎士団も暗部も他の軍とは人数は少ないものの、一人ひとりが強力な個体が多く、全員がヒラの兵士何百人分の戦闘力を持ってるエリートチーム。


 その二つの部隊から数人でも警備に回せるのは心強いけど‥‥‥。


「それでも、まだ弱いな‥‥‥」


 俺は少し考えて、シルファの方を見た。


 彼女も俺と目があった瞬間、俺が何を考えてるのか分かったのか、誇らしそうに微笑んでくれる。


 お姉さんスマイルは強力だな‥‥‥よし、任せよう!


「第三軍団長シルファ」


「はい、リオン様」


「第三軍団は、会議が終わり次第帝都を覆う結界の構築、維持の担当を命じる。結界は魔法を遮断するものと侵入者を感知するものがいいな、できるか?」


「もちろんです。お任せくださいな」


 シルファ率いる第三軍団は、主に魔法が得意な者が多い。


 吸血鬼は基本魔法が使えるけど、その中でも特に抜きんでてる集団だから、きっとかなり強力な結界が張れるはず。


 国の守りに関しては、とりあえずこれくらいで、あと仕事を任せてないのはアスタロッテの第五軍団とエルドラドの第六軍団、ウェルテクスの第八軍団だな。


 けど、第五軍団と第六軍団に関しては、既に決めてある。


「それから第五軍団長アスタロッテ、第六軍団長エルドラド」


「「——はっ」」


「二人の軍には偵察と調査、地図の制作を任せたい。第五軍団は【常夜の結界】内を、第六軍団には結界外を頼む。なお、俺たち以外の存在を見つけたとしてもあくまで偵察のみで接触は禁じる。何かあったらその都度報告するように。第六軍団に関しては結界の外ということもあるからあまり無理はしなくていい、危なくなったら直ぐに撤退してくれ」


「了解しましたわ! 第五軍団、全力を持って!」


「リオン様の期待にしっかりとお答えしますぞ!」


「頼んだ」


 アスタロッテ率いる第五軍団は主に吸血鬼の種族特性である【霧化ネーベル】や【魅了チャーム】を得意としてるものが多く、他国への諜報活動や情報収集のエキスパート軍団だ。


 今回はちょっと毛色の違う未探索領域の調査だけど、それでも十分通用するはず。


 特によく地図の制作を頼むことが多かったから他の軍団じゃ見逃してしまうこともしっかりと記録してくれる。


 エルドラド率いる第六軍団は軍団長であるエルドラドがドラゴンということもあって、ほとんどが空を飛べるもので占められてる。


 吸血鬼たちの中でも特に飛行能力に優れてるものが集まった軍団だ。


 こういう他国を上空から観察するときにはよく重宝してる。


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