第10話 死の価値観の改め
——パンパン!
「はい、みんなちゅうも~く!」
手を叩いてちょっと大きな声を出せば、みんなの視線が俺に集まるのをしっかりと感じ取る。
「みんなの信頼、改めてありがとう。それに答えるためにも、これからのことを決めようと思う」
さっとそれだけ言えば、さっきまでの賑やかで浮ついた空気が一変。
全員の表情が引き締まって、孤高の十二傑に相応しい存在感を表していく。
「まずはこの現状をみんながどれくらい理解できてるかを知りたい。今から俺が話すことに間違ってることや知らなかったことがあったら教えて欲しい」
そう伝えて、俺はここに来る前にセツナから聞いたことと、セツナがみんなに伝えたであろうことの補足した説明をみんなに話していく。
こうやって人前で話すのは大学院の時ぶりかな? プレゼンテーション能力が落ちてないといいけど‥‥‥。
まず話すことはみんながいたゲームと俺がいたリアルの違い。
例えば死の価値観の違いとかだ。
後はそこでしてた俺の生活。
それとセツナの存在。
そして今、クレプスクルム帝国がある場所はゲームの”オルタナティブ”ではなく、しかしリアルとも違う、その両方が巧妙に混ざったような世界であるオールドデウスであること。
オールドデウスは神々の代理戦争を行っている場所で、”オルタナティブ”より強い敵がいるかもしれない危険なところであることと、俺たちが今まで敵国のトップだったセツナに頼まれてここに来た理由に成し遂げるべき使命。
「——まだ俺も分からないことがある思うけど、ざっくりとこんな感じかな? まぁ、実際は”オルタナティブ”にいた時とそんなに変わることは無いと思う。ここまでで、何かあるか?」
一旦話を止めて、みんながついてきているか確認をする。
が、流石に見た目は子供のウェルテクスでも居眠りするようなことはない。
それぞれ真面目な顔つきで俺の話を聞いていた。
「ほぼエルナたちが知り得てることと同じです。女神セツナから聞いたことよりも、お兄さまがいたリアルの説明が詳しかったことくらいでしょう‥‥‥けど」
妹モードから姫モードに意識を入れ替えたエルナが何故か心配そうな表情を向けてくる。
‥‥‥どうしたんだろう?
「まさか、陛下とわたくしたちの世界がそんなに違うものだとは思いませんでしたわ」
「そうじゃのう、死の重みが違い過ぎるわい」
「死んだらそこで終わり。蘇生ができないということが信じられません」
「あ~、世界の違いとかはどうでもいいだろ。実際オレ様たちの環境はそんなに変わらねぇんだし。けど、リオン様は大丈夫なのか?」
‥‥‥あ~、なるほど。
みんなの言いたいことがなんとなくわかった。
フロガの言う通り、みんなの環境にそこまで大きな変化はないけど、俺はもういわゆる異世界転移とか異世界転生をしたようなものだもんね。
人間、環境が大きく変わると何かとストレスとかがかかってうつ病とかになりやすいし。
けど、俺自身”オルタナティブ”の廃ゲーマーだったからか、こっちの方がしっくりきてる感じがするし、今のところ問題ない。
「心配してくれてありがと。確かに、これから大変に思うこととかあるかもしれないけど、その覚悟はここに来る時に済ませてきた。だから大丈夫だ。それより、俺的に心配なのはみんなの方だよ」
そう、みんながいた”オルタナティブ”のゲームの世界と俺がいたリアルの世界の違いで死の価値観を例に出したのは、みんなの方こそ今まで以上に危機感を持ってもらいたかったから。
「最初に言ったように、ここは”オルタナティブ”でもなく、俺のいた地球でもなく、その二つの世界が巧妙にに合わさった感じのオールドデウスだ。魔法はあるからたぶん蘇生の手段もあると考えられるが、けどダームエルの時みたいにできなければどうなると思う?」
”オルタナティブ”では、戦闘中に死亡するとその場で蘇生できなければ、一定期間そのキャラが使用不可になる。
それでも、その戦闘が終わってしばらくすれば自動的にもう一度使えるようになり、つまりは何もしなくても勝手に蘇生するようになってるようなものだ。
ゲーム内にいたみんなの視点からそれがどう感じていたのかはわからないけど、リアルから見た俺の視点だと、死んでも蘇るし絶対に無くなることはない本物の不老不死みたいなものだろう。
が、ここはゲームの”オルタナティブではない。
何度も言うようにオールドデウスだ。
「——たぶん、あくまで予測だけどここで死亡して蘇生が間に合わなかった場合、完全消滅の文字通りの『死』だと思う。なのに敵は”オルタナティブ”より強い、つまりは死にやすくなってる」
みんなも俺が何を伝えたいのかを理解できたのか、どんどん神妙な表情になってく。
誰かのつばを飲み込むゴクリと言う音がした。
「だ、だけどさ! すぐ蘇生できれば大丈夫なんだよね?」
「馬鹿者っ! ダームエルの時のことを忘れたのか!」
「ひぃっ!? ‥‥‥あ、まさかっ!」
楽観的なことを言ったウェルテクスにエルドラドが珍しく叱責を落とした。
そして叱られたウェルテクスも直ぐにあることを思い出したのだろう。
みるみる内に顔から血の気が引いていく。
みんなも思い出してほしい、俺たちがここに来る直前に何をしてたのか。
「‥‥‥エルナ、一応聞くけど【蘇生の腕輪】や【即刻蘇生薬】は何個残ってる?」
【蘇生の腕輪】と【即刻蘇生薬】は両方とも”オルタナティブ”ではポピュラーな蘇生アイテムだ。
俺は常に一定数をストックするようにしてきたけど‥‥‥エルナの表情は芳しくなかった。
「はい。セツナ神国との戦争で使い切り、ゼロであると思われます」
「やっぱりか‥‥‥」
セツナに何てタイミングで連れて来てくれたんだ! って文句を言ってやりたい気持ちになるな。
まぁ、そもそも”オルタナティブ”で使用できたアイテムや武器とかがちゃんと使えるかどうかも検証をしてないため、本当に使えるのかはいまだ不明ではあるけれど。
それでもないよりはある方がいいよな。
確か、素材のストックはそこそこ残ってたはずだ。
「エルナ。会議が終わった後、アルディリアに言って蘇生アイテムを作れる分だけ作るように伝えておいてくれ」
「了解しました」
いくら【自然治癒】と【不老不死】が固有能力である吸血鬼でも死ぬときは死ぬ。
いざという時にありませんじゃ、もう困るんだ。
「ウェルテクス、そういうことだから決して油断をしないように。みんなも改めてここが今までいた所よりも厳しい場所だということを再認識して欲しい。そしてそのことを会議が終わった後に自分の部下たちにも必ず徹底させてくれ、命令だ!」
「「「「「「「「「——はっ!!」」」」」」」」」
いつもよりも強く言い、事の重要度を殊更強調する。
まぁ、みんな分かってると思うけど念には念を、ね。
「お兄さま、軍以外の帝国民や非戦闘員たちにも警告するべきだと思います」
「そうだな。けど、怖がらせすぎてパニックになるかもしれない。蘇生アイテム不足で直ぐに蘇生するのは難しいくらいの警告で適度な緊張感を持ってもらうくらいがちょうどいいんじゃないか?」
「確かにそうですね、さすがお兄さまです!」
それから、どういう風に警告するかなどの細かいことを詰めて、会議は次の議題に移っていく。
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