第9話 孤高の十二傑
いや、まぁ、確かにダームエルの話から突然すぎたかもしれないし、みんなが思ったより俺のことをまだ信頼してくれてたことも気が付いたけど、それでもやっぱりちゃんと謝っておくべきだと思ったんだよ。
「「「「「「「「「‥‥‥‥‥‥」」」」」」」」」
だからさみんな、気まずいから黙ってないで何か言って欲しいんですけど!
そんな「おい、誰か何か言えよ!」「あなたが言いなさいよ!」「ねぇ、僕たちなんで謝られてるの?」「陛下にも色々あるのじゃよ」って言い合ってるような、キョロキョロ目配せはやめて欲しいんですけど!
かと言って、俺が何か言っても空回りするとしか思えないし‥‥‥。
「‥‥‥」
結局俺は頭を下げたまま、全員が押し黙って何とも微妙な空気が数秒続いた後、みんなに視線で総攻撃を食らった一人の青年がおずおずと口を開く。
「あ~‥‥‥顔を上げてくれやリオン様。オレ様たちは気にしてねぇからよ」
そう言われて顔を上げると、それがみんなの総意とばかりに頷いてくれる。
「ほんとに?」
「えぇ、リオン様にも事情があったのも理解しておりますから」
「然り」
「というか陛下はちゃんとこっちに来てくれたんだし、それで十分ですわ。おじーちゃんもそう思うでしょ?」
「そうじゃな、ワシらを選んでくれたことに感謝すれど、恨むことなどありわせん」
「そもそも僕たちみんなリオン様のこと信じてたからね!」
孤高の十二傑たちの言葉を、俺のことを最初から信じていたと言っていたエルナとヴォルクとアンの三人も、うんうんと頷いて更なる同意を示してくれる。
そんな様子を見て、それぞれみんなの言葉を聞いて、心にわだかまってた不安な気持ちが、少しずつ晴れていくような感じがした。
「みんな……本当にありがとう! そして、これからもどうか俺を、ひいてはこの国を支えるためよろしく頼む」
「「「「「「「「「——はっ!!」」」」」」」」」
誰ひとり乱れずにピッタリと揃った返事を聞いて、頼もしく感じながら俺はやっと安心して席に座れる。
うん、ここにいる全員がいればオールドデウスでもクレプスクルムは十分やっていけるはずだ。
「つーか、ここに入ってくる時、リオン様がすっごい深刻そうな顔してたから、何かやばいことがあったのかとヒヤヒヤしたぜ」
少し会議室の空気が緩んだ瞬間に、そう言って頭の後ろで手を組んで椅子の背もたれに寄りかかるのは、俺に一番最初に声をかけてくれた青年だ。
鋭い目つきと燃える炎のような髪を逆立ていて、上着の間から見える褐色の肉体は細身ながらも引き締まっていて腹筋バキバキ。
孤高の十二傑≪
「こぉら、リオン様の前でだらしないですよ」
そう言って、フロガを嗜めるのは、いかにもゆるふわで優しそうなお姉さん。
ウェーブのかかった翡翠色の髪を腰まで伸ばし、同じ色の瞳は波の立たない湖のように穏やか。
そして最も特徴的な身体的部位は、ツンと尖った耳だ。
はい、みんな大好きエルフのお姉さんですよ~な彼女の名前はシルファ。
もちろん、ただのエルフじゃない、
孤高の十二傑≪
そしてその隣で静かに目を瞑ってるおじさんが一人。
寡黙で必要最小限の会話しかせず、性格はヴォルクと同じように真面目と言うよりは、厳格。
常に目を瞑っているため、透視能力を持ってるのでは? って度々噂される。
果たして、その網膜に映るのはなんなのか。
あまり派手な服装は好まず、普段からお坊さんのような恰好‥‥‥というか、正真正銘の
称号は孤高の十二傑≪
「でも、陛下が来てくれたから、これでもうクレプスクルムは正真正銘の最強ですわね! ウェルテクスも不安だったでしょう? もう安心するといいですわよ」
「えー? そんなこと言って、実は一番怯えてたのアスタロッテちゃんだって知ってるんだからね? さっきヴォルク兄さんが呼びに行くまで部屋でプルプルしてたの見えたし」
「そ、そんなことないですわよ! 不安なんてこれっぽっちも感じて無かったですわ! えぇ!」
そんな言葉とは裏腹に、実はこの会議室に入ってきた時に、俺のことを見つけて思わず涙目になってるくらい心底ほっとした表情をしていたのは彼女だったのは秘密にしておこう。
カイの席から一つ開けて、ちょっとムキになって言い返してる彼女はアスタロッテ。
着ている服は露出が多く、深い谷間の胸も小さなおへそも丸見え。
愛らしい美少女にも絶世の美女にも見える顔立ちに、髪と同じ菫色の瞳に見つめられれば、一目で恋に落ちてしまうこと間違いなし。
まぁ、胸とか太ももとかに視線が行きがちだけども、俺的に彼女の一番キュートなところはおしりで、先端が逆ハートの悪魔っ娘しっぽがピコピコ揺れてる。
エルフに次いで、ファンタジーの定番種族とも言えるサキュバスと吸血鬼の血を引く
「はいはい、アスタロッテちゃんはほんとにお子様なんだから」
「はぁ!? お子様じゃないですわよ! というか、なんでいつもわたくしだけちゃん付けなんですの! あなたよりはアダルトですのに!」
「そういうとこだと思うな~」
そう言ってアスタロッテをからかうのは、孤高の十二傑で最も背の低い‥‥‥というか、アスタロッテの言うように見た目まんまお子様の少年にしか見えないウェルテクス。
深く蒼い柔らかそうな髪にショタ特有のぷにぷにほっぺの丸顔と、サスペンダーのついた服を着ているのを見れば、それはもうこれからピアノの演奏会にでも行きそうな良いところの小学校低学年生にしか見えない。
けれどその実、本来の姿になればこの城よりも大きな体格を持つ
孤高の十二傑≪
そんな本来の姿ならまだしも、今の少年の姿でアスタロッテと話すのは情操教育的に問題ありそうな二人の間で、好々爺とした表情で見守る一人の老人。
その様はもう、孫二人を見守るおじいちゃんにしか見えない。
「ねぇ! おじーちゃんはわたくしと、ウェルテクスのどっちが大人っぽく見えますの?」
「もう、エルドラドじーじを巻き込んじゃダメだよ~」
「ふぉっふぉ、そうじゃなぁ~‥‥‥」
サンタクロースにでもなるんですか? ってくらい立派な白髭を撫でて終始ニコニコしてる彼も、もちろんただの隠居おじいちゃんではない。
彼の名前はエルドラド。
天を駆け、火を吹き、存在そのものが厄災になる食物連鎖の最頂点。
孤高の十二傑≪
「ねっ、お兄さま。みんな全然大丈夫だったでしょ?」
俺がみんなにどう思われてたのか不安に思ってたのはエルナにはバレバレだったんだろう。
隣からグイっと俺の顔を覗き込んできて安心させるように微笑んでくれる。
「そうだな、気にしすぎみたい。俺もみんなのこと信じてたんだけどね」
ちょっと疑心暗鬼になってたのをバツが悪く思いながら、俺もエルナに笑みを返す。
≪
≪
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それから、ここにはいない第四軍団軍団長で≪
クレプスクルムの秘蔵っ子である≪
今はいないけど、憲兵団団長だった≪
そして、俺の一番最初の仲間で義妹でもありクレプスクルム宰相を務める≪
近衛騎士団団長で俺の護衛である≪
最後にクレプスクルムメイド隊筆頭、しかしそれは裏の顔、本当の彼女はクレプスクルムの暗部の頭領である≪
種族も、得意とする能力もバラバラで個性豊か、それでも一人ひとりが一騎当千の力を持つクレプスクルム最強の十二人。
それが、クレプスクルム帝国の中核である≪孤高の十二傑≫だ!
‥‥‥うん、我ながら良い仲間たちを育てたものだ。
感慨深いものを感じながら、ワイワイガヤガヤと楽しそうなみんなの表情をぼんやりと眺めて——ふと、我に返る。
「‥‥‥あ、全然会議進んでないじゃん」
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