迷宮都市ルナ(2ー6)


 猫耳少女であるセナさんに案内されて、僕たちはしばらく歩くと、やがて鍛冶屋さんに着いた。

 中に入ると、小さな鈴が鳴ると同時に「らっしゃい」という男のどら声が聞こえる。


「やあ、ザナックスジイさん。元気?」

 

 と、元気よく挨拶するセナ。


 すると自分の名前を聞いて、おそらく鑑定しているであろう武器から目を離して顔を上げるザナックス。


「あ、セナちゃんか。それに……」


 と、そこでザナックスは黙って僕に視線を向ける。


 これ、名前言った方がいいヤツか?

 どうやら前世の俺でも現世の僕でも空気読むのはあんまり上手じゃないみたい。

 ――そこまで下手なわけでもないと思うが。

 と、いろいろ考えていると、ザナックスがなにか言っているのに気づいた。


「…………見たことがない顔だな。わしはザナックス。見ての通りの鍛冶屋だ」

 

 ザナックスが自己紹介をする。

 すると聞いて、僕も名乗ることにした。

 

「はじめまして。マティアスと申します」

 

 言うと、ザナックスはうなずいた。

 

「マティアスくんか。よく来たな。……その装備からすると、冒険者だろう、おまえさんは?」

「あ、はい。一応冒険者をやってます。射手です」


 まあ、正確に言えば魔導射手だけど。


「まあ、そんな気がしたんだ。でもふむ。なるほど」


 なるほど?

 なるほどってなんだ?


 ちなみにセナさんはいま、腕を組みながら頬を膨らませている。

 ぷんぷんしているみたいだ。


「ねぇ、おじさん。わたし、まだいますけど」


 可愛いらしい表情をしながら言うセナ。

 するとザナックスは陽気でにこにこしながら、


「あ、そういえばまだいたんだ」


 なんてことを言う。


「もう、おじさんの意地悪。感じ悪くて嫌なんだけど。ってか普通にキモイからやめてくれよ」


「……………………」

「ハハハ( ̄▽ ̄)」


 と、黙り込む僕。

 その一方で、ザナックスは面白い冗談でも聞いたかのように大笑していた。

 めっちゃ罵倒されていたが、別に言葉にトゲがあったわけじゃないか?

 

 ほら。

 セナさんだってにこにこしているし。


「そんで、マティアスくん……だったっけ。ひとつ聞いていい? おまえさんはうちの姪っ子とどゆう関係なのか?」

 

 あ。

 ほんとうに身内だったか。

 というと、ザナックスもひょっとして猫耳……いや。

 考えないでおこう。


「えっと、そうですね……」


 そんなことより、なんかちょっと顔が怖いっすね。

 めっちゃ僕のことを睨んでいるような気がするが、気のせいか?

 とは言うものの、セナさんの次の言葉を聞いて、ほんとに僕のことを睨んでいたのが確認された。

 

「ね、ちょっとジジ。うちの新しいパーティーのリーダーをそんな怖い目で見ないでよ」


 と、セナさんが僕を援助してくる。

 するとザナックスは、

 

「……??!?!!??」


 やけに驚愕しているような表情を浮かべながら訳の分からないことを吃る。

 いやまじで何言ってるかさっぱりわからなくて頭が混乱している。

 僕はセナさんに一瞥を投げる。


 彼女は無言のままザナックスを睨みつけている。

 な、セナさん。

 ぼくなんかのためにそこまでする必要がないよ。

 でも、ありがとう。


 そう、内心で礼を言うと、またザナックスに視線を戻す。

 ザナックスは深呼吸をして落ち着いたようだ。

 すると理性を取り戻したザナックスはセナさんにこう訊いた。


「新しいパーティーのリーダー?」


 と。


 するとセナさんはやけに照れているような様子で、


「あ、はい。またクビになりました」


 え?

 急に敬語?!


 ってかまた?

 またって言ってなかったっけ?

 聞き間違い……じゃないよな。


 まあ、確かに治療魔法しか使えないって言ったし。

 間違いなく治療魔法しか使えないヤツはあんまり戦力にならないって思われたでしょ。


 ――なんかわかる。

 セナさんがいま体験していることを前世の僕も体験したような気がする。

 残念ながら日本にいたときの僕にはあまりいい思いがない。


 まあ、今となってはもうどうでもいいと思うけど。

 死因はいまだに知らないけど僕は異世界に生まれ変わった事実に変わりはない。


 第二の人生を歩む機会が与えられた。


「そうか。残念だなぁ。でも、すぐ新しいパーティーを見つけてよかった」


 ザナックスがセナさんを慰めようとするように言う。

 するとセナさんはザナックスの言葉を聞いて、肯定でうなずいた。


「うん。ほんとほんと。まだ公式のパーティーじゃないが、地上に戻ったらギルドに報告するの」

「地上に戻ったら? 今からもしかして迷宮に潜るつもりか?」

「そうよ。だから今日来た。マティくんとね、冒険者ギルドの前でバッタリ会ったのよ。ここまでの道をわたしに聞いてた」

「そうかそうか」

「そんで、事情を話していたらわたしと一緒にパーティーを組むことになったよ」


 と、セナさんが説明する。

 やっぱり。

 改めて言うが、この猫耳少女はめっちゃ良い子だ。


「なるほど。事情がわかったな」


 と、納得したような顔をして、僕に話しかけてくるザナックス。

 

 なんか完全に雰囲気が変わったような気がする。


「まあそれはそうと、わしと話すためにここに来たわけじゃないよね。迷宮に潜る前に下準備をしたいんだろう。だったら必要なもんを全部集めておくれ。うちの姪っ子の新しいパーティーのリーダーなので、今日特別に、武器や装備を全部半値で売ってやるよ」

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