迷宮都市ルナ(2ー5)
そう決めて僕は歩き出す。
さてと。
鍛冶屋さんはどこなんだ。
地図はないが、誰かに訊いたら教えてくれるでしょうね。
と、しばらく悩んでいたら決めると、見回す。
相変わらず大通りを歩いている人達がたくさんいる。
太陽はまだ沈んでいないので当然だろう。
するとしばらく見回していると、やがて鍛冶屋さんの居場所を知ってそうな人を発見する。
その人に声をかけることにした。
「えっと、すいません」
すると声がかけられた人は訝しげな表情をしながらこっちに振り向く。、
「はい。なんでしょ?」
「僕は実は道に迷ってますね。もしよかったらこの都市の鍛冶屋さんはどこなのでしょうか、教えてくれませんか」
そう訊くと、通りすがりの猫耳少女は答えてくれる。
「あ、この都市の鍛冶屋さんってザナックスジイさんのところですね。それならば、このまま真っ直ぐ道なりに進めば着けますよ。ザナックスジイさんの鍛冶場は通りの左側にあります。金槌と金敷きのロゴマークがある看板が目印です」
どうやら鍛冶屋さんは冒険者ギルドから思っていたよりそれほど遠くはないらしい。
一本道だ。
よし。あそこに行って、もらったお金で矢を買い込もうか。
決めると、道順を教えてくれた猫耳少女に会釈して礼を言う。
「教えてくれてありがとうございます」
と。
すると猫耳少女はにこにこしながら、
「いえいえ。むしろ礼を言うべきのはこちらの方ですね。このはしたないあたしに頼ってとても嬉しかったです」
そう、丁寧に言ってくる。
なんてやさしい子。
「ちなみにお兄さんはもしかして、冒険者ですか?」
と、首を傾げながら猫耳少女が訊いてくる。
どうやら冒険者に興味があるようだ。
「はい。一応冒険者です」
冒険者になったばかりだけど。
まあ。そこまで言わなくてもいいでしょ。
すると猫耳少女は、
「あ、やっぱり。実はあたしも冒険者ですよ。でも至近距離で戦うのは超がつく苦手なんです。……いや、戦うこと全体は苦手ですけど……」
と、ここで猫耳少女が目を逸らしてそわそわし出す。
「でも治療魔法が得意です。どんな傷でも治す自信があります…………だから、もしよかったら、あたしとパーティーを組みませんか?治療魔法しか取り柄がないヤツはいらないなんて前に所属していたパーティーのリーダーに言われて追放されたんですが、きっとあなたの役に立てると思います」
……なるほど。
冒険者に興味がある……じゃなくて、自分とパーティーを組める人を探して聞いたか。
まあ、別に問題はないと思うが、パーティーを組むのは。
でもやっぱどうしようかな。
僕は魔導射手だし、至近距離で戦うことはほぼない。
つまり、傷を負うこともほぼないってわけだが、かといって、その可能性はまだゼロでもないんだ。
確かに僕も治療魔法をある程度まで使えるが、大きな傷を負えば最悪の場合僧侶にお金を払って治療をもらわければならないか。
……そう考えれば、答えは一目瞭然だ。
「うん、いいですよ。……言っとくけど、僕は魔導射手です。君みたいに至近距離で戦うのは苦手ですが、遠距離戦で自信があります。僕の職業を聞いてまだ僕とパーティーを組みたいのならば大歓迎ですが、もし気が変わったら僕とパーティーを組めなくてもいいですよ」
僕がそう言うと、猫耳少女は眩しい笑みを浮かべて、
「まあ、正直に言って射手であることをなんとなくもう察したんですね。そもそも治療魔法しか使えないこのあたしにはなにも言うことはないよ。これからよろしくお願いします、エルフくん」
そう言ってくる。
するとそんな猫耳少女の言葉を聞いて、僕は言い返した。
「うん、こちらこそよろしくお願いします」
と。
「あとでギルドに報告しますね。いまはできれば矢の買い込みを終えたら迷宮にもぐって魔物を狩りたいと思いますが、大丈夫ですか?」
そう、僕が言うと、にこにこしながら猫耳少女はしばらく考えていたらうなずいく。
「うん。いいと思いますよ」
「じゃお、決まりですね。鍛冶屋さんに行って、矢や他の必要なものを買ったあと迷宮にもぐって魔物を狩る。そして狩り終わったらギルドで手に入れた魔石を交換するついでに僕達がパーティーを組んだのを報告し、そのあと宿屋でも探して明日に備えて寝る」
言うと、隣の猫耳は微笑みながらうなずいてくる。
おそらく肯定しているだろうか。
すると、ふと、なにかを思い出したかのように猫耳女性は目を大きく見開いた。
「そういえば、自己紹介はまだでしたね。あたしはセナと言います。ほんとに、あたしとパーティーを組んでくれてありがとうございます。落胆させないように頑張りますので、お手柔らかにお願いします」
……そういえば彼女の言う通り自己紹介を忘れてしまったな。
「言葉が硬いですね。そんなに緊張しなくていいですよ。むしろ僕と話しているときに敬語が禁止です。絶対にタメ口で話してくださいね」
「それならエルフくんもタメ口で話してって」
上目遣いでこっちを見ながら可愛らしく言うセナ。
これはこれは……心臓に悪いのでは?
ヤバいよマジで。
だって、僕の隣にはさ、本物の猫耳がいるんだから。
ずっと我慢していたが、気持ちはこうなんだから僕のオタク心が触れられたに違いない。
この可愛い人物とパーティーを組まない奴が果たしているだろうか。
そう内心で盛り上がっているが、おくびにも出さなかった。
「セナさんか。うん、いい名前だと思うよ。やあ、セナさん。僕はマティアスというんだ。改めてよろしくな」
と、僕は言うと、セナさんはやはり眩しい笑顔を見せながら、
「うん、改めてよろしくね、マティくん」
………………マティくんって僕のことか?
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